hmngインタビュー 商業からの転身、インディーアニメの熱量に魅せられて
2021.08.22
これは小さな、遠い世界からの贈り物で、わたしたちの音・科学・イメージ・音楽・思考・感情を表したものです。わたしたちは自らの時代を生き延び、あなた方の時代へとたどり着けるように努めています。わたしたちはいつの日か、直面する問題を解決し、銀河文明の共同体に加わることを望んでいます。
──ジミー・カーター[注1]
目次
- 後悔から生まれた物語『呪術廻戦≡』
- 親子からきょうだいへ──『週刊少年ジャンプ』作品が描いてきたもの
- 『鬼滅の刃』におけるきょうだいへの執着と“呪い”の相対化
- 『鬼滅』と『呪術』のきょうだい死にすぎ問題
- きょうだいを“良き隣人”として描くことの難しさ
- ボイジャーの“ゴールデンレコード”と中東戦争
- アブラハムのきょうだい──アラブ及びパレスチナとイスラエルの歴史的対立について
- “きょうだい”の遺体が積み上がっていく現実と『呪術廻戦』の後悔
マルルとクロスの見分けがつかない。
2025年9月~26年3月に『週刊少年ジャンプ』で短期連載された『呪術廻戦』のスピンオフ、『呪術廻戦≡(モジュロ)』の登場人物のことだ。彼らは故郷のシムリア星を追われ、たまたま地球に流れ着いた宇宙難民(ルメル族)の双子の兄弟で、地球人との共生が可能かどうかを見極めるべく、日本政府・呪術界にコンタクトをとる。
シムリア星人の生殖方法は明かされていないが、地球人と同じであればおそらくマルルとクロスは一卵性双生児なのだろう。背丈や顔立ちはほとんど同じだから、モノクロ漫画では髪型と目つき、それに頰の模様のわずかな違いで見分けるしかない。幼少期の回想にいたっては頰の模様すらなく、性格も異なるというややこしさだ。
『呪術廻戦≡(モジュロ)』1巻(画像はAmazonより)
もちろん、セリフや文脈からだいたい察しがつくように描かれてはいる。だが、そもそも原作の芥見下々の作風からして、戦闘シーンなどを大胆に省略したり、別の時間・場所の出来事を交差させたりする(クロスカッティング)演出が多く、次のページ、次のコマで突然場面が転換することも珍しくない。そうなると、たとえば第7話のように、いつのまにか双子が入れ替わっていることもありうる。実際にクロスは、明らかにマルルとのミスリードを誘うかたちで登場する。
週刊連載で読んでいた当時のわたしには、率直に言って、描かれているのがマルルなのかクロスなのかわからなくなることが何度かあった(髪型や頰の模様を覚えようともしたが、翌週にはどっちがどっちか忘れていた)。だから、第12話でクロスが日本の呪術師に撃たれて致命傷を負ったとき、少しホッとしたのを覚えている。ふたりには申し訳ないけれど、これでもう双子の区別に頭を悩ませる必要もない。クロスにはこのまま退場してもらって、マルルの心のなかで生き続けてもらえばいい、それでこそ兄弟というものじゃないか……。
たちの悪い冗談に聞こえるかもしれない。だが、ここには『モジュロ』という作品の根幹に関わる問題がある。
一読してわかる通り、本作は「きょうだい」をメインテーマのひとつに据えている。これはマルルとクロスという対照的な双子の宇宙人(◯と✕から名前をとったのだろう)だけでなく、マルルをアテンドする地球側の呪術師に乙骨真剣(つるぎ)と憂花の兄妹が選ばれていることからもうかがえる[注2]。本作の物語は、日本政府とシムリア星人の緊迫した交渉を背景に、2組のきょうだいの感情的なもつれを交錯させるかたちで進んでいく。
それにしても、なぜきょうだいなのだろうか。それは『モジュロ』という作品そのものが、本編『呪術廻戦』のきょうだいにまつわる反省、というよりも後悔から派生(スピンオフ)しているためだろう。
真剣と憂花の祖母・乙骨(禪院)真希は、第21話の回想シーンで幼い真剣にこう語りかける。
失うことが強さになる でもそれは諸刃だから気をつけなさい
残すことも大事って話
力を求めて 捨てなくてもいいものまで捨ててしまわないようにするんだよ
……私には妹がいたんだ
真衣のおかげで 私は強くなった
でも本当に 私は強くなる必要があったのか……
私がいなくても 真衣が死ななくても 誰かがなんとかしてくれたかもしれない
今だから言える甘い幻想だよ それでも
ここに真衣がいる未来を 選ぶことができたんじゃないかって 考えない日はないんだ[注3]
乙骨真希の後悔。それはかつて血を分けた双子の妹・真衣の命と引き換えに、呪力から完全に脱却した「フィジカル・ギフテッド」として覚醒したことにあった。
けれど妹を犠牲にしてまで、本当に自分ひとりが強くなる必要はあったのか。ふたりが共に生き残る未来を選ぶことはできなかったのか。この心残り、いわば割り切れない想いこそが、数学記号で「割り算の余り」を意味する『モジュロ(≡)』を生み出すことになる。強靭な肉体を持つはずの乙骨真希が夫(乙骨憂太)より先に亡くなったのも、それだけ妹への未練が深かったということなのかもしれない。
要するに本作は、本編『呪術廻戦』でのきょうだいの描き方に対する反省、あるいは後悔からスピンオフした作品なのだ。それは言い換えれば、きょうだいのいずれかを犠牲にすることなく、ふたり(もしくは3人以上)が共に生きられる未来をいかにして切り拓くか、というチャレンジでもある。
そしてこの試みは、本作のもうひとつのテーマである「他者(異星人)との共生」へとまっすぐつながっていく。クロスが退場して正直ホッとした、などとふざけていたわたしも、真希のセリフを読んだときはさすがに反省した。
注1:ボイジャー惑星探査機に搭載されたジミー・カーターのメッセージ(外部リンク)。
注2:ちなみに、第4~7話に登場する敵の呪詛師の術式「母霊度暴威(ママレード・ボーイ)」の元ネタは、両親の離婚・再婚によって兄妹になった少年少女の恋愛を描いた吉住渉の少女漫画。こんなところにまで「きょうだい」モチーフがちりばめられている。
注3:芥見下々原作・岩崎優次作画『呪術廻戦≡』第21話、『週刊少年ジャンプ』2026年11号、161–162頁。一連のセリフの冒頭部分は、第1話の真剣の回想シーンにも登場する。
『モジュロ』の物語は、双子の妹を失った真希の後悔から生まれた。とはいえスピンオフ元の『呪術廻戦』には、親子や友人など、きょうだい以外にもさまざまな関係性のキャラクターがいる。そこからきょうだいがピックアップされたのはなぜだろうか。
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