日本の音楽文化には、プロ級の“チュートリアル”が足りない
2023.08.18
トレーディングカードゲーム(TCG)市場が、急激に拡大している。
今起こっているバブルは同時に、トレーディングカードゲームという文化に濃い影を落としてもいる。
2022年、成長目覚ましい国内玩具市場において、TCGが売上No.1を叩き出した。このトレカバブルを牽引するのが「ポケモンカードゲーム」(ポケカ)の存在だ。
「ポケットモンスター」という世界的キャラクターコンテンツというブランド力に加え、子供から大人まで楽しめるゲーム性や、男女に人気を誇るカードイラストなどが功を奏し、老若男女に楽しまれるタイトルとなっている。
その人気がためカードの価格が高騰し、1枚1000万円を超えるものまで出てきている。結果、プレイヤー以外にも転売ヤーや「ポケカ投資家」なる者らが跋扈することに。今や、「ポケカ」はそれを巡ってたびたび窃盗や暴行事件などに発展する社会現象となっている。
渦中の投資家やオリパ(オリジナルパック。独自に封入した複数枚のカードをセット販売する方式)業者への取材を通して、もはや犯罪行為も横行するトレカ界隈の闇に迫る──。
目次
ポケカ投資家のS氏と、個人でオリパ販売業を営むM氏。
本業として、S氏は広告代理店会社役員、M氏はシステム開発会社代表を務めている。2人がポケカ取引を始めたのは、ともに今年の3月頃。
30代のS氏は新たな趣味を探していたところ、ニュースでポケカバブルを知り「1000〜2000万円くらい投資したら、来年どうなるだろう?」と興味本位で始めたという。もともと株やFX、仮想通貨といった投資にも手を出していたため、ポケカの売買も最初は軽い投資感覚※1だった。
※1 短期的な相場変動を予約して売買する場合、「投資」ではなく厳密には「投機」という表現が適切とされている
また、幼少期にポケカで遊んでいた経験のある30代のM氏は、近年のポケカブームで友人らがコレクションやプレイする姿を見て、ポケカに再び興味を持った。何の気なしに今年3月に発売されたポケカの新弾パック「トリプレットビート」を1つ買うと、同パックの最高レアである「キハダ」SARが当たったのをきっかけにのめり込んでいくこととなる。
S氏、M氏は「もともとギャン中(ギャンブル中毒)気味だったので、ポケカ投資にどんどんハマっていった」と口を揃える。
「自分の好きな女の子系カードをコレクションしていて、自宅の防湿庫の中に好きなカードを立てて飾って楽しんでいます。そのほかの投資としてのカード類はまとめて保管しています。
コレクションという意味では、(株やFXと違って)カードという現物があるのが良いですね。投資の面でも、基本は現物のカードありきなのでレバレッジ※2を効かせられず、現物のカードが残るという意味では自分が投資した以上の損失も出ないから安心できます。自分なりに高騰や下落するカードの予測を立てて、それが当たると自己満足的に嬉しいですし、毎日価格の変動を見るのが株と同じようなマネーゲーム感があって面白い」(S氏)
※2 少額の資産で巨額の取引を行うこと。ハイリスク・ハイリターンとされる
S氏はポケカをTCGのゲームとしてプレイすることは一切なく、ゲームのルールすら知らないという。しかし、「ポケモン」という世界的IPなだけあって、ポケカの話題性は高く、同世代以下の人とポケカの話をした時に共感できる部分も魅力的だと話す。
一方のM氏は、前述の「キハダ」SARが当日買取17万円で翌日から買取額がみるみる下がっていく状況を見て、そのマネーゲーム性に目をつけた。すぐにカードショップを訪れ、ショップが独自にカード数枚を封入して販売する「オリパ」を購入してみた。排出されたカードとその相場を見ながら期待値計算などを行い、収支がプラスになるであろうことを見越してショップを回り、オリパを大量購入。
自身でも古物商許可を取得し、個人でオリパを販売する“個人オリパ業”を始めた。参入から4ヶ月足らずで投資額の倍近い利益を得ている計算になると、M氏は顔をほころばせる。
M氏のように、店舗を持たずネット上の個人間取引でカードを売買する人も増えているという。
ポケカバブルでは新弾パック発売日に各店鋪で争奪戦が起き、過剰なボックスの買い占めなどが問題となっているが、2人が扱うのは高額シングルカードが中心となっている。特にそこで重要となるのがカードの真贋鑑定・グレーディングサービスである「Professional Sports Authenticator(PSA)」だ。
1991年に米国を拠点として創業されたPSAは、カードの真贋鑑定や、現物のコンディションを判定して10段階で査定するグレーディングを行っている。PSAの鑑定を経たカードには登録番号が付与され、不正開封防止の専用ホルダーに収納されて顧客の元に返送される。
最上品質である「PSA10」を取得したカードは“お墨付き”となり、そのままのカード(通称「素体」)の数倍以上の価格で取引されることに。特にポケカにおいて人気のキャラ・リーリエのカードなどはPSA10のものなら取引価格が数百万円に上るのがざらで、中でも「がんばリーリエ」と呼ばれるカードは今年6月に1150万円で販売されたことが大きな話題となった。
こちら1150万円にて店頭でお買い上げ頂きました‼
誠にありがとうございます‼‼‼#がんばリーリエ #福福トレカ秋葉原店 #ポケカ https://t.co/0kTRW1RQzF
— 福福トレカ秋葉原店 (@fukufuku_toreka) June 19, 2023
一方、その6月末にはPSA10の高額カードの価格暴落騒動が界隈を騒がせた。一番の理由は、PSAの偽造が流行したからだとされている。その手口などは後編で解説するが、PSA偽造騒動によってその信頼性が地に堕ち、PSA鑑定品を大手ショップが一斉に買取を停止し価格の値崩れを起こしている。
PSA偽造については、日本のトレーディングカードメーカーの草分けのひとつであるブシロード社長・木谷高明氏も、KAI-YOUの取材に対して“決して甘く見てはいけない大きな出来事”として警戒心を強めている。
しかし、この騒動に対してS氏もM氏も、動揺する素振りはさほど見せない。
「そもそもPSA10カードの金額は、元々吊り上げられてた部分があると思う。PSA自体は本来コレクター向けのサービスだったけれど、いつからかPSAの評価を付加価値として、投資のためのものとして利用され始めた。しかもまだ法規制などもない分野なので、価格の吊り上げといった操作も容易。
その結果、一部のPSA10カードは暴落したけれど、大きな影響を受けていないPSA10カードも多く、素体の値段もそこまで動いていない」(M氏)
M氏は価格の吊り上げの手法の一つとして、フリマアプリでの架空の取引実績を挙げる。
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