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  • 2020.04.02

デザイン誌『アイデア』が(図らずも)浮き彫りにした、日韓のフェミニズムとの距離感

日本のメディアでも、かつてないほどに取り沙汰されるイシューとなった“フェミニズム”運動。

デザイン誌が浮き彫りにした、日韓におけるフェミニズムとの距離感。

デザイン誌『アイデア』が(図らずも)浮き彫りにした、日韓のフェミニズムとの距離感

『アイデア No.389』

クリエイター

この記事の制作者たち

日本でこれほどまでにフェミニズムという思想や行動原理が広範な関心を集めるのは空前のことではないかと思えるほど、ここ数年、多くのメディアがこのテーマを積極的に取り上げている。

本連載でも以前に取り上げた文芸誌『文藝』の「韓国・フェミニズム・日本」特集(2019年秋号)は記憶に新しいし(関連記事)、それに先立つ『早稲田文学』の増刊「女性号」(2017年9月刊)の“成功”もよく知られている。

その『早稲田文学』は2019年冬号から編集体制を一新し、誌面も全面的にリニューアルして「ポストフェミニズムからはじめる」「私たちはいまや、ポスト・ポストフェミニズムなのか?」というシリーズ特集を続けている。また『現代思想』も3月臨時増刊号として「フェミニズムの現在」を刊行した。


こうした一連の流れとシンクロするように、季刊のデザイン誌『アイデア』が「フェミニスト・モーメント」という特集を組んでいるのが目についた。なかでも重要な役割を果たしているのは、やはり韓国におけるフェミニズムとデザインの動向だ。

執筆:仲俣暁生 編集:新見直

目次

  1. 「なぜこの展覧会には女性が参加していないのか」とは言われない
  2. 韓国の気鋭グラフィックデザイナーたち
  3. 平林奈緒美の“率直な発言”
  4. 韓国と日本(あるいは世代)の間にある肌感覚
  5. 「デザインは、社会にどんな問いを立てていけるのか」という命題

「なぜこの展覧会には女性が参加していないのか」とは言われない

巻頭の「韓国―日本 ジェンダーと女性デザイナーたち」では、まず二つの展覧会が丁寧に紹介されている。一つは2017年にソウル市立美術館で開催された「The W show: A List of Graphic Designers」という展覧会で、もう一つは2019年にソウルのワンアンド・Jギャラリーで開催された「牡丹と蟹(Peony and Crab)シム・ウユン個展」だ。


前者は過去30年にわたる韓国の女性デザイナー91人の85作品を集めたものだが、後者は17名のデザイナーが参加し、「シム・ウユン」という実際には存在しない架空の女性デザイナーの個展という体裁で展示が行われた。これはきわめて示唆的で面白い企画である。

「牡丹と蟹 シム・ウユン個展」はOpen Recent Graphic Design(ORGD)というデザインプラットフォームを主催するデザイナー、ヤン・チウンが企画したもので、このプロジェクトに参加した17人はすべて女性。「シム・ウユン」という架空の人物は、日本でも『フィフティ・ピープル』『保健室のアン・ウニョン先生』などの作品が紹介されている小説家のチョン・セランが以下のような設定で構想したものだ。

シム・ウユン(エラ・シム)1987年、果川市(ソウル近郊のベッドタウン)生まれ。14歳で神戸に移住し、高卒後は21歳でボストンに移り視覚デザインを大学で学ぶ。卒業後はデザインコンサルティング会社でグラフィックデザイナーとして働き、1年で独立。2014年に帰国してソウル市内にデザインスタジオを設立……。

このようにある種の「典型的」な人物を造形し、その者の経験を通じてオーディエンスに普遍的なメッセージを発信するという手法は、韓国で100万部を超えるベストセラーとなったチョ・ナムジュの『82年生まれ、キム・ジヨン』にも通じるところがある。

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『82年生まれ、キム・ジヨン』/写真は「2019 K-BOOK FESTIVAL」にて編集部撮影

ヤン・チウンは『アイデア』のインタビューに答えてこう語っている。
 

展覧会が終わってからも、“なぜこの展覧会には男性が参加していないのか”や“この展覧会のテーマはフェミニズムなのか”などと聞かれることがたびたびありました。でも、男性のみの展覧会が開催されても、“なぜこの展覧会には女性が参加していないのか”という質問を耳にしたことはありません。こうした理由から、結果的に、この展覧会を女性デザイナーのみで開催したことはとても妥当な選択だったと思います。これにより、社会で問題視されている不均等について考えることができました。『アイデア No.389』よりヤン・チウンの発言抜粋
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