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  • 2020.05.30

博報堂『広告』の野心的実験に欠けたもの 「パクリ」という表現の座りの悪さ

本体価格1円のリニューアル号、続く号は特装版が2000円でモノクロコピー版が200円……2019年のリニューアル以降、思い切った販売方法から立て続けに話題をさらっている大手広告代理店・博報堂による老舗雑誌『広告』。

自身も雑誌編集からキャリアをスタートさせた作家・仲俣暁生が、「紙の雑誌」として挑戦を続ける新体制の広告、その誌面を問う。

博報堂『広告』の野心的実験に欠けたもの 「パクリ」という表現の座りの悪さ

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大手広告代理店の博報堂が出している『広告』という雑誌がある。通常の書店で見かけることは少なく、放送局や出版社などマスコミ関係者が多く集まるビジネス街や、雑誌に力を入れている大型書店でときおり目にするくらいで、私自身、過去にも2、3回しか買ったことがない。

だが、2020年3月に出た、「著作」特集を掲げる最新号(通巻414号)を書店の店頭で見かけたときは、ちょっと驚いた。A4判で200ページを超える大冊がビニール包装された特装版で2000円、まったく同じ内容のモノクロコピー版(ホチキス綴じ)が200円という、破天荒な価格設定で売られていたからだ(あとで確認したところ、売上はすべて書店の取り分となるという。実質的にはフリーペーパーである)。

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まずは200円のコピー版を買ってパラパラと読み進むうち、昨年7月に現在の編集長・小野直紀が就任した際のリニューアル号(通巻413号、特集は「価値」)が、価格1円で売り出されていたことを思い出した。このときもネットでずいぶん話題になったが、判断を迷っているうちに出遅れ、気づいたときにはAmazonでも入手不可能になっていた。

博報堂のサイトで『広告』のバックナンバー一覧を見ると、『広告』の編集長は2、3年で交代している。過去には人気コピーライターの尾形真理子が編集長を勤めたこともあり(2015年〜2017年、通巻397~404号)、私が最後に手にしたのは2012年のリニューアル号だったこともわかった(当時の編集長は市耒健太郎)。刊行ペースも1990年代には隔月だったのが季刊へと変わり、年3回刊という年もあった。だが刊行に8ヶ月も間が開いた今回のようなケースはめずらしい。

2号続けての実験的な刊行スタイルは、いまあえて「紙の雑誌」を出すことの意味を手探りするための試みに違いない。ならばその実験に私も参加してみようと思い、414号は特装版も確保し、一つ前の413号もネット上で入手した(現在はnoteで413号の全記事が無償公開されている。ちなみに私が購入した際の転売価格は1500円だった)。

執筆:仲俣暁生 編集:新見直

目次

  1. モノの価値の再検証
  2. 「山寨」という中国の対抗文化
  3. 掲載されなかった「博報堂の著作権侵害」

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