MCバトルという料理は、ヒップホップという器を超えた──「BATTLE SUMMIT」レポート後編
2022.09.17
「京都の極道の組長の息子だったラッパー」。
孫GONGという男の素顔は、それだけでは言い表せない。
クリエイター
この記事の制作者たち
「京都のヤクザの元組長の息子でラッパー」。
これまで、何も知らない人間に「孫GONG」という男を説明する時、決まってこう口にしてきた。
このたった17文字に、孫GONGのとんでもない密度の背景が詰まっている。
しかし、彼のホームタウン・京都でのある1日を密着した取材を終えた今では、そんな17文字では語りつくせない孫GONGの不思議な人柄と存在感について、筆者は山ほど語るべきことを持っている。
存在感のある巨体と、その腹部に鎮座する和彫りのダルマ。関西で随一の大麻好き。まるでフィクションから飛び出してきたかのような強烈なキャラクターだ。

凄まじい経歴と厳ついビジュアルながら人当たりがよく、誰よりもしゃべり、誰よりも笑う。その振る舞いは「豪放磊落」を絵に描いたよう。
よく笑うけど目は笑ってない、腹では何を考えているかわからない……そういうタイプとも違う。むしろその目はつぶらでさえある。
しかし、決してそれだけではない。取材を通して、地元の同輩や共に活動するDJやラッパーから、孫GONGを指して「モンスター」という言葉を何度も聞いた。
動画メディア「ニートtokyo」での受け答えの強烈さと唯一無二のキャリアで一気にその名を轟かせた孫GONGだが、その存在が全国区になるのは必然だった──この取材を通して、筆者はそう確信した。
取材対象:孫GONG 撮影:横山マサト 取材・執筆:新見直
目次
- 孫GONGを訪ねて京都へ
- 飛ぶまでやる。片時も手放さないジョイント
- 「初めて吸った次の日に売人なった」
- 「俺はドラッグで天下とる」
- ラッパーとして回り出す歯車
孫GONGのホームタウン・京都で取材させてほしい。そう申し込んだ筆者に、「そんならちょうど京都でパーティーがあるんで、1日中着いてきてくださいよ! メシとか一緒に食いましょうよ!」と快諾してくれた。
こちらとしては願ってもない提案だった。
想像もできない、孫GONGの日常。 彼は本当はどんな人間なのか? どんな生活をしているのか?
まだまだ暑い、9月の京都を訪れた。
普段なら人でごった返してまともに歩けない京都だが、新型コロナウイルス感染症の影響は色濃く、賑やいだ繁華街程度の密度しかない。
これでも人が戻ってきた方だという。「GoTo様様ですね」。道中で市内のタクシー運転手さんは言っていた。
この日、筆者はカメラマンと2人、京都のChambersの10周年記念イベントにジャパニーズマゲニーズとして出演する孫GONGから指定された、木屋町通にほど近いホテルでその到着を待っていた。
筆者が最後に孫GONGに会ったのは、今年の1月。
舐達麻が主催した、彼らの根城であるクラブ「熊谷LAGOON」の閉店に手向けた盛大なイベントだった。
忘れもしない。その日も取材に訪れていた筆者は、イベントが終わった楽屋裏で、あるハプニングを起こしてしまった。

今のアンダーグラウンドヒップホップシーンを象徴する面々が揃い、最近のヒップホップイベントではあまりお目にかかれないようなガラの悪い客層でフロアはパンパンだった。
異様な緊張感と興奮をたたえ、ステージもフロアも熱気で揺らいで見えるほどだったライブは大盛況に終わり、徐々にフロアに人が減り、楽屋裏では出演者や関係者たちが集まって思い思いに紫煙をくゆらせていた。
筆者は、中でもひときわ巨大な電子ヴェポライザーでたっぷりと煙を吸引していた舐達麻のBADSAIKUSHと孫GONGに挨拶をし、撮影機材の撤収作業をしていた。
ヴェポライザーのコードが見えていなかった筆者は、まんまと足に引っかけてまさに今2人が吸引している最中のそれを机から落として盛大に割ってしまった。
考えうる限り最悪のドジを踏み、ガラス部分が粉々になって床に転がったヴェポライザーと吸いさしの草を見つめながら、大袈裟にではなく「俺死んだかな」と瞬間的に思った。
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