戸田真琴×押切蓮介 Vol.4 理不尽をまたいで
2019.04.17
はじめてのプレイスメント・マッチの結果は、プレイヤーが最も多いレート帯であるゴールド・ランクだった(つまり、「おまえの『オーバーウォッチ』の腕前は一般人レベルだ」と判定されたのだ)。
友人のすすめで、まず私はウィドウメイカーをプレイしていた。このキャラクターはスナイパーで、相手の頭を撃つことさえできれば、一撃で倒すことができる。
いくつかの試合では、私はたくさん頭を撃つことができた。結果、チームは勝利した。ほかの試合では、メガネをかけた馬鹿でかい科学者のゴリラが私のところまでものすごいジャンプで突進してきて、ぶちのめされて何もできなかった。
プレイをはじめて半月ほどで気づいたのは、このゲームはやたらめったらと銃を撃ちまくって敵を倒すことが目的ではない、マップごとに個別の勝利条件が設定されたオブジェクティブ・ベースのゲームであるという、考えてみればあたりまえの事実だった。
混戦のさなか味方がどんどんやられていくうち、私が6人中4人までの敵をキルしたとしても、オブジェクトの周りに敵がまだ残っていて、それがさっきのドイツ人キャラや筋骨隆々のロシア人キャラであるような場合には、ほぼ確実に勝つことはできない。ほかのだれかがオブジェクトの周りに立っていてくれなければ、スナイパーはなにもできないのである。
このあたりの仕組みに気づけない人間は、残念ながらゴールド・ランクのままだ。
ランクが上がるにつれて、此方に有利な戦況をつくりだすためのきっかけが、どんどん少なくなっていく。少しでも隙を見せれば、すぐに飛びつかれてやられてしまう。ゲームはどんどん堅実な、一歩でも道を踏み外せば即死するようなものに変化していく。
『オーバーウォッチ』に関するいくつかの教則を、インターネット上のさまざまな場所で回覧するうちに導き出されたひとつの結論として、もしも勝利したいのなら、「とにかく味方のことを考え続ける」というものがある。
チームの前線を維持する役目である“タンク”キャラはどの場所を確保すれば“DPS”キャラが戦いやすいのか、”DPS”キャラはどの敵を倒せば味方の負担が減るのか、味方を援護する“サポート”キャラはどの位置からプレイすればもっとも効率よく味方を支援できるのか。
こうしたことを戦場でつねに考え続けていれば、プレイヤーのランク帯は上位20%以内に属するといわれてるダイヤモンド・ランクまではすぐに上がる。
しかしゲームプレイの悲しさというのは、うまく戦場をコントロールできるようになっても、“現実”という主戦場ではそのぶんだけスキルが下がっているところだ。
現実を持たなかった10代の頃はよかったが、20代も後半にさしかかり、この文章も青色確定申告のための帳尻を合わせながら書いている。友達はみんなまじめに働いている。そのために、私は今日もひとりだ。フィッツジェラルドの"The Rich Boy"的な心境である。
昔はすごかった、すごかったんだぜ。
『オーバーウォッチ』の弱点は、創発性の少なさだ。ヒーローのデザインがきっちりしすぎていて、遊びがない。開発者が想定したコンボのほかには、基本的に、なにも生まれ得ない。ひとりで動けばすぐに死ぬ。
だから、どんなにチームメイトが下手くそであろうとも、彼らにひっついていなければならない。そして誰かひとりでも仕事をおろそかにすると、負けて終わる。自分のプレイが良かったから勝った/悪かったから負けた、と感じられることは、ほとんどない。
勝つときはみんなで勝利をつかむのであり、負けるときには自分以外の誰かが下手くそだったから負ける。(自分が敗因であることもごくまれにあるが、ほとんどの場合、なぜかそのことに気づくことはできない)
それでもマスター・ランクまでのぼりつめたのだから凡百のプレイヤーよりは上手いということになるのだろうが、その違いが自分でもわからない。凡百のプレイヤーよりも少しだけうまくチームワークをこなしているというだけなのだ。
「こんなものは会社勤めと変わらないではないか」と、私はたまに思う。この資本主義社会における私の現実的スキルは、せいぜいが平均よりも下の腕前であるシルバー・ランク、ともするとブロンズ・ランクだが、私はそのことを自覚していて、ほかのひとの足を引っ張るのがあまりに辛いので、昼の仕事をやめてこんなあこぎな商売をしている。
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