Vol.1『オーバーウォッチ』 現実は不条理でゲームには真実“しか“ない

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  • 2019.04.22 20:00:00

小説家/ゲーマーの藤田祥平がゲーム作品や小説、さまざまな事象への考察を通じて、「ゲーム、あるいは人生の勝利条件とは何か?」というテーマを模索していく。

勝利するためには、キルをしている暇はない。

第1回目に取り上げるのは、FPSゲーム『オーバーウォッチ』(Overwatch)だ。

Vol.1『オーバーウォッチ』 現実は不条理でゲームには真実“しか“ない

悪魔の誘いというものは、それと自覚されないものだ。誘った側も誘われた側も、よかれと思って誘いに乗る。その後は、もう散々だ。私の場合は貧乏が待っていた。あるいは失われた青春をもういちど取り戻す機会が待っていた。

なんの話か?

『オーバーウォッチ』をプレイしないか?」と誘われて、よせばいいのに乗ってしまった話だ。

悪魔の誘い、そのとおりだろう。

結果、半年のあいだ、私はこのゲームをプレイすること以外になんの興味もなくなってしまった。妻は泣き、子は泣き、親は心配してしきりに電話をよこす。私はそれらの現実的な要請を無視して、今日も敵を倒すための役割である“DPS”キャラクターを即ピックする。

このゲームに登場するキャラクターは、わりと歳を取っている。天使の衣装を身にまとったスイス人ヒーラー、アンジェラ・ジーグラー博士、通称マーシーは37歳でありながらも美しく、そのことがいまだに私の胸を打つ。

ひとは、37歳になっても天使のコスプレができるのだ。それならば、彼女より10歳も若い私が、プロゲーマーになれないはずがない。

実際のところ、あと1年ほどこのゲームをプレイさせてくれるのなら、たぶんプロにはなれるだろう(半年で、全プレイヤーの上位3パーセントであるマスター・ランクになった。もう半年やれば、トップ500には入るだろう)。

しかし、こうして、また物を書かなければならない。したがって、プロは無理だ(予防線)。

そのかわり、もう15年は文章を書いている。本も出た(よかった!)。

しかし15年も書いていると、もはやほとんどの筆致は惰性である。そんなことを言うとお読みになられている方はむっとするだろう。しかし、これはもう伏して謝るほかない。はじめのうち、物を書くことは新鮮な悦びだった。それがしだいに薄れてゆき、やがて日常となった。

それでも数ヶ月に一度、書きながら感動して大泣きしたり、大笑いしたりすることがある。まれにみるグッド・ゲーム(GG)というやつだ。

「おまえが培ってきた技術はぜんぶ無効になる」

昔はすごかったんだという自慢がしたい。

私ははっきり言って、ゲームのプロだった。どうプロだったのかは措く。

要するに、私の10代は敵の頭に照準を合わせてトリガーを引くことに捧げられた。それから私はトリガーを引くことをやめ、恋をしたり、別のゲームをしたりして遊んだ。

そして月日が流れ、ひさしぶりにFPSをやろうと思い、『オーバーウォッチ』を起動したら、どでかい甲冑を身につけた六十路のドイツ人が巨大な長方形のシールドを展開した。

そのとき、「おまえが培ってきた照準合わせの技術はこの盾でぜんぶ無効になる」とゲームシステムが宣言した。

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敵をキルすれば勝利、ではない

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