若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察
2022.07.31
今、バーチャルというこれまで未踏だった新しい世界に文化経済圏(エコノミー)が成り立ちつつある。
バーチャルリアリティの技術が個人にまで浸透し、バーチャルYouTuberをはじめとするタレントやクリエイターたちが登場。多くの企業もその新しい世界に参入し、ビジネスと文化を急速に発展させている。
まだ未開の世界、バーチャルとは一体何なのか。今後私たちに何が可能になるのか。何がもたらされるのか。バーチャルガールズユニット・KMNZ プロデューサー ninoP(二宮明仁)がその実践と思考を記述する。
クリエイター
この記事の制作者たち
バーチャルYouTuberたちの躍進が止まらない。
オリコンランキングトップ10に富士葵、YuNiのアルバムがランクインすれば、KMNZはm-floや中田ヤスタカ、レオタードブタとヤギハイレグはtofubeatsとイベントで共演したりしている。樋口楓は単独ライブでZepp Osakaを満員にしてみせた。
バーチャルライブ空間/アプリ「cluster」や「REALITY」では毎週のようにバーチャルライブが開催され多くの同時接続者数を叩き出す。日清のCMで世間に大きな衝撃を与えたキズナアイと輝夜月。様々なSocial GameがVTuberたちとのコラボキャンペーンを実施する。KMNZのVTuberアパレルアイテムは販売が開始されると即日完売を繰り返す。
バーチャル界の同人即売会「バーチャルマーケット2」では125,000人の動員を記録。Social VRの最大手「VRChat」では日々様々な技術革新とコミュニケーションが行われ、独自の文化を形成してきている。毎日のようにトレンド入りするVR/VTuber関連のキーワード。テレビや雑誌でも連日のようにバーチャルに関するニュースが取り上げられる。
バーチャル。今この言葉のもと、新しいカルチャー/経済圏が生まれてきている。
2016年にHTC VIVE, Oculus Riftが販売され、2016年12月にキズナアイが活動を開始、そして、2017年11月にねこます氏が「やらなければ、はじまらない・・・」とYouTubeで叫んでから、企業だけでなく多くの個人クリエイターを巻き込んで、全てが動き出した。
ゲーム、アニメ、漫画など、現実に存在しない仮想の物語がたくさん生み出され、一大産業を形成する国・日本において独自進化をとげていくバーチャルカルチャー。
現実に存在しない空間、現実に存在しない人間たちが生み出していく新しい「リアル」。いま多くの人たちが熱狂しているバーチャルの本質とは何か? どのような時代背景があるのか? どのような経済圏をつくりだしていくのか?
このコラムでは読者の皆さんと一緒にバーチャルが生み出すカルチャーとエコノミーの可能性について模索していきたい。
コラムの第一回目となる今回は、本題に入る前の準備段階として、バーチャルIPプロダクションという不思議な仕事と、仕事の背景にある考えを紹介していきたい。
筆者はFicty株式会社というバーチャルIPプロダクション事業を行うスタートアップの共同創業者であり、プロデューサーとして働いている。
Fictyで手がけているVTuberはLITA、LIZという二人のケモミミの女の子から構成されるユニット・KMNZ(ケモノズ)(※Wright Flyer Live Entertainment社と共同プロデュース)や、音楽活動を中心に行っている不思議な少女somunia(ソムニア)が挙げられる。
また、プロジェクトパートナーシップという組み方でレオタードブタとヤギハイレグの1st EP「粗密」のリリースを行ったりもした。これだけに限らず現在いくつかの企業とバーチャル上での活動を軸としたアーティストプロジェクトを水面下で進めている。
VTuberをはじめとするバーチャルIPをつくっていく仕事をする上で心がけているのは、「一人のバーチャルYouTuberをつくる」だけではなく、「バーチャルカルチャーを広げる」ということだ。
バーチャルカルチャーとは「バーチャルな存在や世界から新しく生みだされてくる創造・価値観・運動の総体」とここでは定義しておきたい。簡単な言葉でまとめると「VTuberやVRから生まれてくる文化的なもの全て」といえるかもしれない。
このカルチャーを広げるため、これまでFictyでの仕事を通して念頭においていたのは以下のような点だ。
1. 様々なタイプのVTuberを生み出していくこと
2. VTuberが生み出した価値観をリアルに浸透させていくこと
まず1に関して。弊社で手がけているVTuberはYouTuber型というよりもアーティスト型が主だ。音楽活動に重きをおきつつ、彼女たちのユニークな感性と世界観を反映したグッズをつくっていく。収益源は広告ではなく、グッズ販売や、音源販売、ライブ収益、ギフトが多くの割合を占めている。
いかに一人一人のアーティストの世界観に共感してもらえるか=ブランド価値を高めていくかということが活動における重要な点となる。1年を経過して、この活動スタイルに共感する人が着実に増えているなと手応えを感じている。
キズナアイをはじめとする初期の企業系VTuberは、アイドル型で、YouTuber的なビジネスモデルを採用していた。声が可愛く、笑える動画を発表しつつ、YouTuberのようにゲームのタイアップ広告やGoogle Adsenseをビジネスの中心としていたのだ。
しかし、リアルの芸能人のタイプを考えてみるとアイドルだけでなく、アーティスト、芸人、司会、知識人など様々な形がある。
アイドル的な才能を持つものだけが生活していけるのではなく、様々なタイプが生活していけるようにしたい。様々なケーススタディをつくりたい。そのようにVTuberが多様化すれば、バーチャルの仕事で生活できる実例が増え、文化が広がる。
そのような考えから、自分がプロデュースする際にはいかに逆説的にYouTuber以外のビジネスを成立させるかというポイントを重視してきた。最初に手がけたKMNZのLITAが最初のティザー動画を出したのは2018年5月だが、当時珍しい音楽系だったこともあり大きなバズを生み出してくれた。
練習。#kmnzlita#Vtuber準備中#Vtuberはじめました pic.twitter.com/VOQZ7M3sEC
— KMNZ LITA | リタ @Augmentation (@kmnzlita) 2018年5月24日
弊社以外にもVTuberのスタイルとしては独特なアットホームなラジオスタイル配信が魅力のプロダクションや、YouTubeの動画配信を軸とするよりも、イベント興行やエンジニアや3Dクリエイター、イラストレーターに向けた情報提供などを軸においたバーチャルクリエイターもいる。
このようなVTuberの多様化は着実に進んでいる。冒頭で述べたように様々な領域でVの活躍がみられており、企業・個人がカルチャーの拡大を重視して進めた結果だなと感じている。
2に関しては、KMNZのオフィシャルグッズストアKMNSUPPLYで販売されるアパレルアイテムや、前述のOTAQUEST、冬〆などの音楽イベントへの出演、somuniaはクラブイベントVIRTUAFREAK、レオタードブタとヤギハイレグは平成展のカウントダウンパーティーへの参加などがあげられる。
動画を見るという接点だけでなく、VTuberが歌う曲を聞いたり、ロゴマークがプリントした服を着たり、実際にトークできるイベントに行ったり、ライブに行ったり。リアルの世界の至るところにバーチャルの存在があふれてくる。そうしてると関心をもってなかった友人・知人が服や、音楽から、VTuberについて興味をもちはじめる。そうしてまたバーチャルに思いを馳せる人が増えていく。
そのあとは一緒にイベントやライブに行ったりするかもしれない、そうしていくうちにバーチャルのおかげで、リアルの交友関係が広がり、リアルの生活/人生に大きな影響を与えるようになる(またそのようなファンとして活動しているうちに自分自身も配信をはじめVの者になるケースもあるだろう)。
動画だけでなく、リアル上の様々な接点を増やしていくことで、この循環がまわり、バーチャルカルチャーへの参加者が拡大していく。今後もリアルにバーチャルを浸透させるべく、様々なプロジェクトを行なっていきたいと考えている。
日々仕事というアウトプットを出しているが、自身やFictyのプロジェクトの背景にはこのようなカルチャーの拡大が根底にあることを知っていただければ幸いである。
さて、次回以降では何故、人はバーチャルに惹かれてしまうのか、その理由として「容姿革命」「距離/空間革命」というポイントから考察をしていきたい。