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  • 2022.05.31

僕らはいつも、危険な遊びをそれと自覚できない──『かまいたちの夜』脳

この世界は不可逆で、やり直しの機会がもらえることはない。では、ゲームはどうだろう?

前職は「ぼくのりりっくのぼうよみ」としてソロ活動し2021年からはバンド・Diosを率いるたなかの、ゲーム脳の中。

僕らはいつも、危険な遊びをそれと自覚できない──『かまいたちの夜』脳

クリエイター

この記事の制作者たち

いちど口にした言葉は決して消えない。絶対に取り消すことはできない

あまりに簡単に、あまりに大量に発せられる言葉たち。見えなくなっても、それらはこの世界に渦巻いている。無数の残響が重なり合って、水面に降りそそぐ雨みたいに、ちいさな波紋たちが泡立っている。古ぼけた劇場や図書館に言いようのない重たさを感じるのは、多くの言葉たちが積もっているから。

目次

  1. 僕らはいつも、誰かを決定的に損なえる危険な遊戯を続けている
  2. 言葉を書く職業に就いた音楽家の僕は、華やかに見えますか?
  3. 文字とシルエットと音だけ…それでも引き込まれた
  4. ゲームだけが、不条理な言語システムに抵抗できる
  5. ゲームの美しさが宿るのは

僕らはいつも、誰かを決定的に損なえる危険な遊戯を続けている

普段何気なく交わしている会話は、実はとてつもなく危険な行為である。僕らはみんなで危険な遊びをしている。誰かのことを決定的に傷つけられるナイフを持ってはしゃいでいる。それが刺さらないように慎重に、けれど卓球のラリーみたいに即座の応答を求められながら、軽々と会話は続いていく。

こんな感じ方はナーバスすぎると思うかもしれない。でもそうじゃない? 恋人との関係を終わらせる言葉なんて一秒で吐ける。友達のコンプレックスを突き刺す言葉だってそう。あまりに鋭利な言葉が反射的に飛び出して後悔したことなんて誰にでもあるだろう。

ぼろぼろの木で組み上げられた舞台で踊れ。簡単に崩れてしまう前提の上で。笑い合っている僕らの関係は、誰かが望めば一瞬で崩れ去ってしまう仮初めでしかない。それに気づいたら何かを積み上げるなんて到底できないから、言葉から、世界から目をそらして生きている

言葉の持つ絶大な力に気づいてしまったら、世界の有り様は一気に姿を変える。悠然とそびえる大木が、哀れになるほど細い枝であることに気づく。きらびやかな街がハリボテでできていることにも気づく。楽しそうに歌って踊るアイドルがふとした瞬間に見せる表情に、憂鬱の影を見つけてしまう。

言葉を書く職業に就いた音楽家の僕は、華やかに見えますか?

そういう風にできた世界で、何の因果か言葉を書いて歌うとかいうやばい職業に就いてしまったので、実のところ心労がやばいのである。

言葉を書く仕事というのはとても疲れる。一般的に、創作というのはしがらみから解放された自由なものだと思われがちだが、それは全体の5%くらいに過ぎないと思う。インスピレーションを爆発させて好き勝手に絵の具を散らすだけでは作品は作品にならない。

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Photo to by Yukitaka Amemiya

たとえば歌い出しで「明日へ繋がる糸」と書いたとして、その後に持ってくる単語は無数にある。

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