Vol.3 距離/場の革命 -拡張する現代の恋愛・仕事
2019.07.16
想像してみてください……
……ここは学校のクラブにも、ゲーミンググループにも、世界規模のアート・コミュニティにも参加できてしまう場所。あるいは、身近な友達とのんびりするだけでもOKな場所。毎日話して、いっぱい集まることが、もっと簡単になる場所なのです。 ──https://discord.com/
今日も50個以上のDiscordサーバーに膨大な数のメッセージが溜まっていく。アーティストによる新曲の告知、ファンアートと称したノートの切れ端、愛くるしい犬の写真、数学の課題の質問、延々と複製され続けるGIF画像、独り言のような音楽評論、「今起きた」という報告、"NFT"の頭文字をもじった大喜利、あるいはbotによる自動投稿……。
ゲーマーでない筆者にとって、ある時期までDiscordはどこか馴染めないプラットフォームだった。当初参加したのは音楽マニアの同好会のようなオープンサーバーで、Spotifyから好きな曲を順番に聞いていくという会合に顔を出したものの、早々に居心地の悪さを感じて黙って退出したことを覚えている。
毎日のようにいくつものサーバーをチェックするようになったのは、Discordがオンライン空間にありながらGoogleの検索網から逃れたブラックボックスとして重要な情報ソースとなっていることを知ったからだ。
特にdigicoreという音楽シーンではDiscordの存在が必要不可欠な要素となっている。新世代の音楽が、Discordから生まれている。
音楽にまつわる原稿で糊口をしのぐ身としては、馴染めないと言っている場合ではない。それからは有象無象の情報に溺れかけながら、このプラットフォームとの付き合い方を身につけていくこととなった。
冒頭に引用した公式のステートメントの意図とは異なるようだが、筆者にとってDiscordを利用することは一種のフィールドワークである。あらゆるトピックごとに分断されたそれぞれのサーバーは孤島のように独自の生態系をなし、それを遠くから双眼鏡で覗くことはできない。能動的にリンクを踏んだうえで「あなたに招待がきています」という白々しい文句に了承することで足を踏み入れるしかないのだ。
このような経緯から、筆者が語り得るのはリンクが公開されているセミクローズドなサーバーに限る。また、本稿はDiscordの機能を説明するものではない。インディペンデントなカルチャーを支えるツールとしてのDiscordの意義を、筆者のフィールドワーク的観測から、またDiscordが辿ってきた経緯から検討していきたい。
目次
先日、Discordサーバー「t-zone」にて面白い光景を見た。「t-zone」はラッパーのTohjiが主宰し、約3000人の国内外ユーザーが集うファンコミュニティだ。その日のTohjiからのポストはこうだった。
「ウルレア(※筆者注:4月22日に配信された新曲「ULTRA RARE」)のアカペラとインストわたすからみんなでビデオチャットのとこでremixつくってみない?」
そうして配布されたステムデータをもとに、複数のトラックメイカーが同時進行でリミックスを作るという配信イベントが行われた。Discordの画面共有機能・GoLiveを使用すると、最大10人までの画面共有および配信が可能になる。
Tohjiの声やトラックが継ぎ接ぎの楽曲として再構成されていく過程を、本人とそのファンが眺めるという状況が起きていたのだ。
そのイベントがどこまで準備されていたものかは分からないが、Discordの操作に難儀するTohjiのチャットログを見るに、思いつきで唐突に始まったものとして見えた。あたかも、アジトに集まった仲間同士で「曲作んね?」とノリに任せてパソコンを開くように。
Discordの創業者であるJason Citronは「招待制のカフェの一室を持っている人を想像できるなら、それのデジタルバージョンのようなものです」と語っている(外部リンク)が、サーバーは一つの“密室”のような役割を果たしている。旧来のフォーラムやSNSのように、すりガラスに囲まれた外から観察可能なものではない。しかし扉を開く鍵だけがインターネット空間にごろりと転がっている点に、Discordの特異なところがある。
招待制の音声チャットサービス・Clubhouseの流行時に「FOMO(fear of missing out:取り残されることへの恐れ)」という言葉が流布したことも記憶に新しいが、Discordは刹那的でかつ検索不可能な、よりオフラインに近い感触を持つ現場とベッドルームを直接に繋いでいる。
話題を音楽だけに絞ったとしても、こうしたオンラインに点在する"密室"で展開される集会の例は枚挙にいとまがない。
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