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  • 2022.09.22

画像生成AIと著作権を弁護士が解説 Stable Diffusion流行やmimic炎上

Q2.「mimic」の炎上とサービス休止。法律の専門家はどう見る?

Q2.AIイラストメーカーの「mimic」に批判が集まり、サービス休止となりました。クリエイターの中には「自分の画像をAI学習に使うのは禁止です」と表明する人も出ています。法律家として、これらの事案をどのようにご覧になりましたか?

法的には、前述の「著作権法第30条の4」に照らしても、mimicというツールそのものに基本的に問題はないと言えます。ただ、ツールの利用者が意図的に他人の著作物を学習させて「他人の画風に似たイラストがつくれる」とクリエイターから見られてしまったことが、フリーライドをより強く感じさせ、反発を生んだのだろうとは思います。

説明の仕方に工夫の余地があったのかもしれませんが、mimicは、法的には適法であるにも関わらず、理解を得られない、感情的に炎上する──その典型例でしょうね。

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Photo by Melinda Gimpel on Unsplash

クリエイターによるAI学習禁止の表明については、日本法においては効力がない可能性が高いと考えたほうがよいでしょう。これには大きく2つの理由があります。一つは「契約」の観点、もう一つは「著作権法のオーバーライド問題」です。

まず「契約」は、著作権者がいくら表明しても、それに閲覧者が合意しなければ効力はありません。たとえば、著作権者が画像を公開するWebサイトをつくり、その画像を観るための利用規約に「AI学習の禁止」を含め、それに同意させた上で画像を閲覧させた。これならば、著作権者と閲覧者には、合意のもとで契約があったと見なせるでしょう。

しかし、ここで契約を結んだのは著作権者と閲覧者だけです。仮に閲覧者がその画像をネット上にあげ、第三者がその画像をAI学習に使った場合であればどうか。第三者は著作権者による「AI学習の禁止」という利用規約には合意していませんし、AI学習においてどのような画像を使うことも「著作権法第30条の4」に照らして適法ですから、著作権者は契約違反を問うことはできません。

もう一つの観点は「著作権法のオーバーライド問題」です。著作権法では、ある一定の条件のもとで、著作物を自由に利用できることを定めています(著作権Q&A | 公益社団法人著作権情報センター CRIC)。よく知られているのは「私的使用のための複製」や「引用」ですが、「著作権法第30条の4」による著作物のAI学習への利用も、この「著作物を自由に利用できる」一定の条件に含まれています。

そこで考えなければいけないのは、著作権法において、著作物を自由に利用できる条件に対して、それを契約によって制限できるのか、ということ。このような事例を「著作権法のオーバーライド問題」といいます。要は、契約が著作権法の規定を上書き(オーバーライド)できるのかという議論。

結論から言うと、AI学習のための利用に関する「著作権法第30条の4」については「契約では制限できない」とされる可能性があります。著作権法の学者も加わった経産省委託事業の研究会では、契約でAI学習利用を禁止としても無効とされる可能性が相当程度あるとの見解が示されています(令和3年度産業経済研究委託事業の実態調査)。

まとめると、著作権者が表明するだけでは「契約」は結ばれない。契約があったとしても、著作権法では自由に利用できる条件のもとでは、これを制限できない可能性がある。それらを踏まえて、クリエイターがAI学習の禁止を表明しても、効力が生じる場合はむしろ限定的と考えたほうがよいでしょう。もっとも、現状ではまだ裁判所で判断されるケースまで至っていませんから確定はしていません。

ちなみに、ドイツの法律では、権利者が画像のメタデータ内にAI学習の利用に反対する意思を示している場合には、営利目的での読み込みが禁止されています。日本でもこういった法律の定め方をしていればクリエイターとして反対表明もできますが……今のところは参考までに。

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画像生成AIの著作権侵害は「依拠性」が難しい