e-Sportsとヒップホップが抱える共通の課題──FENNEL新代表×OZworld対談
2024.03.31
クリエイター
この記事の制作者たち
『ライヴラリ』というVTuber事務所がある──いや“あった”と書くほうが、実態には即しているだろうか。
「今日は何の日」という動画でVTuber黎明期を彩った赤月ゆに。アダルトゲームや下ネタを臆せずくり出し話題をさらった餅月ひまり。「ものづくり」という特技が輝いた図月つくる。オカルト関連のトピックを仕掛けていった無月めもり──個性豊かで、今では珍しい動画中心の活動を展開していた所属タレントは、全員姿を消した。
そこに至るまでの道程は平坦とは言い難い。特に餅月ひまりは、クラウドファンディングの行く末が不安視され、ファンの中には返金をめぐって訴訟を計画する者まで現れるほどだ。公式声明も的確に発信されたとは言えず、混迷を極めた末に、ライヴラリはもぬけの殻となった。
客観的に見ても、まさに「VTuber運営の失敗例」である。ファンでなくとも、批判の矛先を向けるのも致し方ないだろう。
だが、失敗の中から学べることも多い。むしろ、どのように失敗したのか、そこから得られた教訓こそ、後世に語り継いでいくべきだろう。
3月初旬。ライヴラリと同様にもぬけの殻となったゆにクリエイトのオフィスにて、ライヴラリ運営企業である株式会社ゆにクリエイトの代表取締役・望月陽光氏に、ゆにクリエイトとライヴラリの設立と崩壊に至るまでの流れを語っていただいた。
目次
- 京都大学・熊野寮の一室で、赤月ゆには生まれた
- 赤月ゆにの行き詰まり、電通から売られた餅月ひまり
- ハコの始まりと、亀裂の始まり
- 一体なぜ? デビュー0人のオーディション
- ニップルローターによる決定的な決裂
- マネージャー不在という負債
- 破綻待った無しの体制に、なぜメスを入れられなかったのか?
- タレント事務所から、タレントが全員いなくなった日
- なぜクラウドファンディングを続けるのか
- 崩壊と加速──望月陽光という人物
- 「VTuberは、泥から咲く花である」
──本日はありがとうございます。そもそもなぜ、取材をうけていただけたのでしょうか?
望月陽光 ライヴラリはこれまで「謎の事務所」として認識されてきました。今回の失敗を通して弊社が長らく抱えてきた問題を世に語っていくべきだと考えたからです。
──ありがとうございます。ではまずは、ゆにクリエイトの立ち上げ、ひいては赤月ゆにさんの誕生に至るまでの経緯をお聞かせください。
望月陽光 もともと私は京都の大学を出た後、2017年までHappy Elementsというゲーム会社でゲームプランナーをやっていました。
仕事をしている中で、「これからは情報の時代で、その情報にどんな感情や感動を与えられるかが焦点になる」と気づいたんです。それはビジネスはもちろん、コンテンツにもあてはまる。特に当時はソーシャルゲームの品質が上がっていって「お金の時代」になっていたのですが、その中で「なぜこのゲームを遊ぶのか」という動機がエンターテイメントには大事なんだよなと考えていました。
そしてYouTuberや配信者こそが、「なぜこのゲームを遊ぶのか」という動機の部分を、感情の共有によって促進することによって、新しい価値を付与するんじゃないかと思ったんです。これがまず、職業人的な考えでした。
一方で、私自身が長らくオタクで、「『二次元が来る』か、『二次元に行く』のどちらかでしか、我々オタクは救われない」と真剣に考えていたんですね。そんな中、キズナアイさんが2017年初頭に現れ、「これは可能性しかない」と。
私自身も二次元の女の子になりたいと思って、キズナアイを再現すべくPerception Neuronというモーションキャプチャーデバイスを個人で買ったんです。
──決して安くはなかったですよね。
望月陽光 40万円くらいでしたね。そこからVTuber事業に繋がっていくわけなのですが、その前に一つお伝えしておきたいことがあります。私は昔から、社会性に欠けるオタクの世話をするということをずっとやっていて。掃除や食事だったり学費や法律トラブルについてだったり、オタクの支援を一貫して行ってきました。今もシェアハウスにオタクを住まわせて、似たようなことをしています。私の人生は基本的に、このライフワークが土台となって回っているので、そこを理解いただけるとこの後の話もスムーズかなと思います。
──なるほど……。
望月陽光 そして、私が面倒を見ていたオタクの1人で、後にゆにクリエイトをともに創業することになる花田(仮名)という大学の後輩に、夜な夜な私が京都から、3Dの美少女を動かす様子を見せ始めるようになりました。当時、彼はあまり調子がすぐれず、ある種のヒーリングも兼ねていましたね。
何度か試す中で、これは自分がやってきたオタクの世話を行う活動の延長線にあると感じましたし、「バーチャルYouTuber」というフォーマットを用いれば、情報そのものをメディアとして独立させて活動できるようになると思ったんです。
しかも私はゲーム会社のプランナーをやっていたのでUnityは一通りさわれましたし、簡単なコードも書ける。モーションキャプチャーに対する知見も、ある程度は技術者たちが集まるコミュニティサイト「Qiita」で共有されている。いろいろな条件がそろっていたので、「俺たちもバーチャルYouTuberやっていけるんじゃない?」と直感したんです。
そこで、2017年の12月に会社を辞めて、並行して会社をつくる方法を探し始めたんです。花田を引き入れつつ、彼が大学院時代にお世話になっていた稲見昌彦教授に2018年1月初頭にお会いし、「俺たちはバーチャルYouTuberをつくりたいし、つくれると思っています。だけど金もあまりない。どうしたらいいでしょうか」と相談したんです。
そこから稲見先生がサポーターとして関わっているインキュベーションプログラム「Tokyo XR Startups」と、出資元であるgumiをご紹介いただき、ノリで応募しました。
※「Tokyo XR Startups」:XR・VR領域に特化したスタートアップ支援会社。例えば、かつてキズナアイらが所属したプロジェクト「upd8」と連携してタレントの育成プログラムを行っていた
──なるほど、その時点からgumi資本だったのですね。
望月陽光 そうですね、弊社は完全にgumi資本でスタートしています。
そこから「Tokyo XR Startups」のプログラムを受けて4月頃に正式に花田と合流することになるのですが、それまでの間は仕事を辞めたエネルギーを使って、Happy Elements時代の知り合いやオタクを集めて、京都大学の熊野寮の一室で、VTuberをつくる準備を始めていました。そして3月頃に誕生したのが、赤月ゆにです。
──まさか赤月ゆにの生まれた場所が熊野寮だったとは……。その時点で、担当声優もアサインできていたのでしょうか?
望月陽光 3月までの間に、東京大学の学生会館の会議室を借りて、声優さんを集めたオーディションを実施していました。私もオタク仲間たちの繋がりから芸能事務所に付き合いがあったので、そのツテを用いて人を集めた特殊な形のオーディションでしたね。そこから選抜された方とともに、赤月ゆにの活動が始まりました。
この時点で、私は事実上のディレクターとしてUnityまわりの調整をしつつ、自ら赤月ゆにを動かして動画も編集し、花田が台本を執筆し、演者の方が東京で声を吹き込むという体制ができあがっていました。花田は東京在住でTwitterの運営もしていて、演者の方も東京にいらっしゃいましたが、私だけは京都からオペレーションを回していました。
その後、4月から「Tokyo XR Startups」に採択され、箱崎にあるインキュベーションセンターを無料で貸してもらうことになったので、私も上京しました。その時点で赤月ゆにはデビュー済みだったので、4月からはとにかくコンテンツをたくさんつくり、アピールすることに注力していました。2月に開催された「第1回VTuberハッカソン」に参加した時にできた知り合いの家を間借りして暮らし、床に転がりながら作業し、朝起きて提供いただいた音声データから映像をつくり……という流れで送り出していたのが、「今日は何の日」シリーズでした。
──完全に、スタートアップベンチャーという感じですね。
望月陽光 でも、実際はここまで私のポケットマネーで回していたんですね。5月頃にgumiから1000万円を出資いただき、ようやく会社をつくることになりました。議論の末、「ゆにクリエイト」というゆるい社名が決まり、私の誕生日である6月13日に登記申請をしました。これが、ゆにクリエイト設立までの経緯です。
──VTuberにはいわゆる「個人勢」であるインディー活動のVTuberと、法人運営である「企業勢」VTuberが混在していますが、赤月ゆにはインディー活動として出発して、後に法人運営になったということなのですね。
望月陽光 そうですね。いちおう、法人にするという前提こそありましたが、当時の形式上はインディー活動でしたね。
──花田氏が台本を担当していたとのことですが、つまり赤月ゆにさんの動画は脚本ありきで制作されていたのでしょうか?
望月陽光 はい、当初は脚本に沿って進めるつくり方をしていました。
しかし徐々に、赤月ゆにの制作は「演者を起用した人力VOICEROID」だと気づきました。VOICEROIDよりもコストは多大にかかるし、動画制作のために多くの人を雇ってしまったため人件費もかかる。その割に売上も微妙。行き詰まっていく中で、「タレントが増えないとどうにもならない」と気付かされたんです。
けれど、現場を取り仕切る花田にはタレントを増やす能力はなく、お金の計算も苦手なタイプでした。一方で制作管理はしたいという人間だったので、赤月ゆにの運営を続けていくことで、お金がどんどん目減りしていきました。
キズナアイのように売上を稼ぎたくても、営業チームが強いActiv8のように案件をとってこれるわけではない。特に弊社は、動画編集やUnity調整などのクリエイティブ職を増やしてしまったため、人員が売上に直結しませんでした。
望月陽光 なかなかうまくいかない状況が続いていた中で、かつて織田信姫というVTuberに関わっていた知人から連絡をもらったんです。「VTuberを買わないか」と。
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