Column

  • 2025.12.26

「RAPSTAR 2025」ファイナルには、正しさに打ち勝つ“間違い”が鳴っていた

“とてつもなく小さな芽だし、時々しか咲かないが、咲いてんだお前はハナっから咲いてんだ”(『BLUE GIANT』)

「RAPSTAR 2025」ファイナルには、正しさに打ち勝つ“間違い”が鳴っていた

「RAPSTAR 2025」ファイナリストたち(左から:VERRY SMoL、Sonsi、Pxrge Trxxxper、Masato Hayashi、sh1t)撮影:cherry chill will.

クリエイター

この記事の制作者たち

できないことが、できるようになりたいんだろうか?
 
できることで、できないことを超えたいんじゃないのか?

とある出版社の担当編集に長編小説の原稿を送った。

今度こそ「今度こそ」と思わなくても済むようにと祈っていた。畢生の作品を世に残すんだ。遠い誰かの薬になるんだ。柄にもなく僕はそう思っていた。

「これこれこれ! これですよ! これが欲しかったんですよ!」

僕はこの一言をもらうためだけに文章を書いている。「これこれこれ!」の「これ」を感じるために生きていると言っても決して過言ではない。

週末には「RAPSTAR 2025」ファイナルステージ/「STARZ」の取材という仕事が待っている。溜まっていた仕事を片付け「RAPSTAR2025」に最高のモチベーションで臨めるように調整したつもりだった。

しかしながら担当編集から返ってきた小説の感想はじつに渋いものだった。言葉を選んでくれている分だけ「言わない部分の優しさ」がナイフのように刺さる。また書き直しだ。それを悔しいと思えることはありがたい。だけど、悔しいと思えなくなった方が楽だよなとも思う。

僕が「ラップスタア」を見始めたのは2年前、ShowyVICTORが優勝した年からだ。見始めたきっかけはこのライター仕事である。KAI-YOUさんから「シキュウさん、観てください。そして記事を書いてください」と言われたのだ。逆に言うとそれまでは目を背けていた。

その理由を一口に言語化するのは難しい。

それでもなんとか圧縮して言葉にするなら「MCバトルラッパーコンプレックス」みたいなものが刺激されてしまうからだと思う。自分が目指している世界とは異なるものなのにもかかわらず、いちいち「悔しい」とか思いたくないのである。

意を決して視聴した「ラップスタア」は確かに面白かった。だけど同時に、そのレギュレーションの決まってしまっている感じに勇気の対義語みたいなものを貰ってしまった。

具体的に言うと

・「リアル①(背景、生い立ち)」
・「リアル②(リアル①をリリックに落とし込むセンス)」
・「スキル①(レコーディングの上手さと、被せやエフェクトのセンス)」
・「スキル②(ライブの完成度、構成力)」

といった要素で、一言で総括するなら「いかにミスをせずにリアルを貫く」能力である。

それは僕にはできないことであり、できるようになりたいと本心では思っていないことだ。

スキル①に少しだけ補足をすると「4の倍数と3の倍数の連符をリズムをぶらさずに均等に置き続ける技術」がある種の最低条件みたいなところがあって、これがブーンバップ世代との間にある壁だったりもする。

僕は自分が胸を張って「ヒップホップやってます」なんて思っていない。でも、思っていなくても断ろうと思ってた同窓会に誘われなかったみたいなほろ苦い気持ちはどうしても残ってしまう。「できないんだったらできるようになるまで頑張れよ」と言われているような居心地の悪さが拭えない。

ただ、そういう自意識を抜いて観たら「最高の番組」なのは間違いない。僕は一年という小節の中に「ラップスタア」を観るというビートを足した。いつか、自意識のノイズをキャンセルして純粋に番組を楽しめるようにと。

去年のラップスタアは自意識とは別のもので悩まされた。数少ない友人のCharluが勝ち上がっていたからだ。今度はラッパー目線ではなく友達目線で番組を視聴することになり、これはこれで見方が大きく変わってしまう。それが悪いことだとは思わないが、Charluを応援するあまり番組の楽しみ方の比重が偏ってしまっていた自覚がある。

絶対Charluが優勝だっただろうが! ふざけんな!」と言った具合に。

目次

  1. ハハノシキュウ「Kohjiya、お前の優勝でいいよ!」
  2. 異常な盛り上がりの中で──1番手、sh1tのパフォーマンス
  3. 自ら退路を絶ち、ゾーンに没入したPxrge Trxxxper
  4. 悪役から主人公に──Masato Hayashiが「ラップスタア」に残したもの
  5. 未完成ゆえに最強だった、Sonsiと“BBA”がもたらした熱狂
  6. 「ラップスタア」に新たなテーマを提示したVERRY SMoL
  7. そして開票へ──今年一番のドーパミンが放出された神の采配
  8. 「ラップスタア」は“言い訳”を否定し、我々を肯定する

ハハノシキュウ「Kohjiya、お前の優勝でいいよ!」

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取材当日のハハノシキュウ

そして、今年である。

結論から言うと、ただのヘッズ目線で他の視聴者とほとんど同じ温度感で楽しめていた。3年目の視聴だから「ラップスタア」のシーズンを通してのグルーヴ感がわかってきたのもある。「M-1」でも「KOK」でもなんでもいいが1年という単位の中で「ラップスタア」が重要なビートになりつつあったわけだ。

それにしてもどうして今年はこんなに素直に楽しめているのだろうか?

それだけ「ラップスタア」が高校野球のように良い意味で他人事になったから、という捉え方もある。自分が介入できない距離感だからこそ楽しめているのだと。

と言ってもやはりそれはただの方便で、本当の理由は自分の中ではっきりしていた。はっきりしていたものを認めたくないだけなのは自覚できていた。

西武多摩川線には「ラップスタア」の客っぽい人間が誰一人乗っていなかった

多磨駅から会場の京王アリーナに向かっている人間も自分しかいなかった。

徒歩20分と書いてあったが実際に歩いてみると25分かかる道のりだった。京王線の飛田給駅から徒歩5分の方を選ぶのが普通だろう。とは言っても7000人の観客が全て飛田給を選ぶとは思えない。(もちろん、電車じゃない人もいる)自分だけが何かに取り残されてしまっているのではないか。そんな孤独感の暗喩でもあるかのように、京王アリーナへの道は人気が少なかった。

eydenのライブから入場した僕は久々にクラブ以外でラッパーのパフォーマンスを観ていた。

ライブ用のインストの仕様について考えさせられる。被せやガイドボーカルがあった方がいいのか、無い方がいいのか。一昔前なら「全て人力でやり遂げてこそラッパーだ」みたいな価値観があったけれど、ライブのクオリティや安定感のためにはインストデータを工夫するのもスキルの内である。続くMIKADOC.O.S.A.と人によって被せの使い方が異なる。

MIKADO.jpg

MIKADO(撮影:DaikiMiura)

やはり僕としては「絶対にこの歌詞だけは持って帰っていって欲しい」って部分は生声で届けてもらいたいと思う。あとは一概には言えないセンスの世界の話になってくる。

Jin Dogg般若G-k.i.dを招いて「MOGURA - 裸足のままで -」を披露したりして会場の熱気が右肩上がりになっていくのがわかる。この辺りから「「RAPSTAR2025」のファイナルがもうすぐ始まってしまうんだな」と周波数が整っていく感じがあった。持ち時間を大幅にオーバーしたJin Doggのライブだったが「ヤバいラッパーは時間を守らない」という諸説というか、ヒップホップルールみたいなものが適用されていたのかそこまで誰も気に留めていなかった。

¥ellow Bucksのライブの最後に、聴けると思っていなかった曲が披露される。「Benjazzy - NOOFFSEASON feat. Watson, MIKADO & ¥ellow Bucks」である。

Benjazzy - NOOFFSEASON feat. Watson, MIKADO & ¥ellow Bucks(Official Video)

言われてみれば出演者が全員揃っている。しかし肝心のBenjazzyのライブがなかったため、おそらくやらないだろうなと思っていた。おそらくやらないだろうなと思っていたものが実現されると、脊髄反射的にテンションは上がる。僕はそれを表に出すタイプではないが、予想できたのに予想できなかったものは結構好きな方である。

察するに今のところ一番会場が盛り上がっていて「この後、どうすんの?」とすら思わされる空気感だった。ここがピークになってしまうんじゃないかと一抹の不安すらあった。

ライブアクトのトリは去年の「ラップスタア」優勝者・Kohjiyaである。

Kojiya.jpg

Kohjiya(撮影:DaikiMiura)

¥ellow Bucksの余韻をどうやって塗り替えていくのか。

なんて思っていたが、わずか数秒でそれが杞憂だと知らしめられる。

Kohjiya新曲披露

去年の「ラップスタア」を彷彿させる音声とサムネイルが流れた瞬間、どこか懐かしい緊張感が身に包んだのがわかった。

そして聞き覚えのあるビートが鳴る。今年の「ラップスタア」で何度も聴いていたビートだった。

当然、観客側は大喜びである。

この粋な演出の時点でもう「お前の優勝でいいよ」と思わされる空気だった。

あくまで僕の妄想だが「去年、Charluに負けてたよな」というノイズがKohjiyaの1年にまとわりついていたのだと思う。彼はその全てを払拭するくらいヒット曲を量産し、誰も文句の言えない領域まで駆け上がっていた。

その上で、このラップスタアのステージにて改めて“ライブで優勝”することがKohjiyaにとっての義務だったかのようなライブ運びだった。

来年、武道館で2daysのワンマンを行うと告知し、横綱相撲のようなライブで会場を完璧にロックしたまま「RAPSTAR 2025」にバトンを引き継ぐ。

異常な盛り上がりの中で──1番手、sh1tのパフォーマンス

FINAL STAGEに向けて舞台は完全に整った。「FINAL STAGEだけ観られたらいいや」って人も少なくないだろうけど、僕はライブから観ておいてよかったと思わされた。

ファイナリスト5人のライブの順番は開示されず、紹介VTRが流れて初めて誰の出番なのかわかる演出だった。

ルールは以下の3点のみ

・3曲以上 持ち時間10分
・RAPSTARのビートを使用した曲
・オリジナル曲は1曲まで可能

基本的にファイナルステージは1番手が最も不利だとされているため、敗者復活で勝ち上がったPxrge Trxxxperが先陣を切るだろうと誰もが思っていた(順番の選択権が最後になるため)。

そんな予想を覆して登場したのがsh1tだった。

sh1t.jpg

sh1t(撮影:cherry chill will.)

シングルマザーの母との間に生まれたわだかまりだったり、捕まるリスクのある仕事に手を染めてしまった過去だったり、自分を殺めてしまいそうになった経験だったり、ここまで番組内で語られてきたストーリーが全て背中に乗っかっていた。

はっきり言ってライブが始まる前から異常なほど盛り上がっていた。

観客の反応が全てではないのだけど、アリーナの2階席から俯瞰した景色はゲームでポイントを稼いだ時のエフェクトのようにライブの評価が可視化されていた。

まるで数日間音楽を聴くことを禁止されていたかのように音に飢えた観客がsh1tの歌い出しを待ち侘びていた

僕の経験上、こういう場面ではヴァイブスのコントロールが非常に難しい。この空気感で、しかも一番手で、力まない方が難しいに決まっている。

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