『パルワールド』はインディーゲームである、しかし──“猿の暴動”とゲーム業界の倒錯
2024.09.28
クリエイター
この記事の制作者たち
ゲーム運営企業への抗議として、韓国・ソウルの公道を一頭の馬が駆け抜ける──
2022年、Cygames発のソーシャルゲーム『ウマ娘 プリティーダービー(以下『ウマ娘』)』を巡って韓国で行われた抗議活動、通称「ウマ娘馬車デモ」をご存じだろうか。
韓国では日本発のソーシャルゲームが数多く翻訳され、現地の運営会社により独自にサービス展開されることが一般的だが、韓国現地では運営体制や消費者保護の観点から、長らく多くの課題を抱えてきた。韓国の『ウマ娘 プリティーダービー』はカカオゲームス社が運営を行っている。
公式サイトのずさんな運営、コンテンツの欠落、イベントや無料配布アイテムの欠如、標準語を話すタマモクロス……。日本ではその完成度で高い評価を得る『ウマ娘』もまた、韓国では多くの問題を抱えたタイトルのひとつだったのだ。
しかし、韓国のゲーマーたちはただ嘆くだけではなく、抗議運動という行動に出た。そして彼らが選んだ手段は、ゲームのモチーフに合わせた「馬車」によるデモ行進だった。
「ゲームをプレイするのをあきらめて、ただ辞めるのではなく、ユーザーの手でポジティブな変化をもたらすことができるはずだ」
そんな意識を韓国のゲーマーにもたらすきっかけとなったのが、この「ウマ娘馬車デモ」なのだ。
本記事では、デモ(抗議運動)の中心人物である鍾路タマモ(종로타마모)さんに、韓国のソシャゲ産業が抱える問題や、デモの経緯、デモによって韓国のソーシャルゲームがいかに変化したかなどのお話を伺った。
目次
- 懐かしいようでいて、新しくもある『ウマ娘』の魅力とは?
- かつての韓国版『ウマ娘』運営にはゲームに対する“誠意”がなかった
- 「ゲーム会社が無視できない状況」をつくり出さなくてはいけない
- デモ決行、業界関係者や政治家をも巻き込む影響力に 一方で残る課題
- カカオゲームズとの懇談会を経てコミュニティはいかに変化したか
- 「オタクはみんな、健全ですから」
──まずは自己紹介をお願いします。普段どのようなゲームをプレイしているのかも教えていただきたいです。
鍾路タマモ 종로타마모(鍾路タマモ)と申します。2022年のデモ当時はまだ学生でした。SteamからPS5、ソーシャルゲームまで、かなり幅広くゲームを遊ぶタイプです。Cygamesのゲームは『神撃のバハムート』『グランブルーファンタジー』『シャドウバース』など、ほとんどの作品をプレイしてきました。特に『グラブル』はハデスとゼウス編成を中心に遊んでいましたね。
──本題に入る前に『ウマ娘』を遊びはじめたきっかけを教えてください。
鍾路タマモ 最初のPVが公開された時から興味は持っていました。実際に『ウマ娘』というコンテンツに触れたきっかけは、特典についてきたグラブルの「ヒヒイロカネ」を手に入れるためにブルーレイBoxを購入したことでしたね。
──好きなキャラクターはいますか?
鍾路タマモ ゲームとしては、日本版のサービス開始直後にメジロマックイーンに惹かれて遊びはじめました。ただ、今ではオグリキャップとタマモクロスが最推しです。
オグリキャップを主人公にした漫画『シンデレラグレイ』は連載開始時から好きでしたが、作品として本当に最高だと思っているんですよ。ウマ娘に興味がない人でも読んでみてほしい作品です。Cygamesには、ぜひとも“オグタマ”(オグリキャップとタマモクロスのカップリングのこと)の特別ストーリーを早く出してほしいですね。
──『ウマ娘』のどんなところがお好きですか?
鍾路タマモ 「懐かしいようでいて、新しくもある」とでも言ったらよいのでしょうか。制作陣のIPやキャラクターに対する愛情が本当に感じられる点が好きなんです。
例えばダイワスカーレットは、一見すると『新世紀エヴァンゲリオン』のアスカをモチーフにした昔ながらのキャラクターのようにも見えましたが、実際にプレイしてみると非常に丁寧につくられた、奥行きのあるキャラクターだということがわかって、感嘆しました。
コンテンツのボリューム、クオリティ、キャラクターの魅力、そしてIPへの継続的な再投資──そのすべてが素晴らしく「さすがCygamesだ」と感じています。
──それほどまでに制作陣の愛を感じるゲームだという認識がありつつも、抗議活動に出られた理由が気になります。2022年の”馬車デモ”に至った背景について、詳しく教えてください。
鍾路タマモ まず、前提となる韓国ゲーム業界の事情についてお話させてください。日本とは異なり、韓国では消費者保護法が十分に整備されていません。そのため、仮にゲーム会社が“ガチャ”の確率を操作していたことが発覚したとしても、ユーザーはまともに返金対応を受けることができない状態が続いています。
消費者保護機関も「命令」ではなく「勧告」しか出せないんです。韓国のゲーマーたちは、これまでずっと非常に弱い立場に置かれてきました。
たとえば日本で大騒ぎになった『グランブルーファンタジー』の「アンチラ事件※」が韓国で起きていた場合、不満を抱いてゲームを辞める以外、私たちプレイヤーに選択肢はなかったということです。
※アンチラ事件
2016年に『グランブルーファンタジー』で発生したガチャの排出率に関する事件。2015年年末から開催された「ゆく年くる年レジェンドフェス」にて実装が発表された目玉キャラ「アンチラ」が、排出率が低く何十万円課金しても出ないとユーザーの間で話題に。最終的に、千人分の署名を消費者庁に提出されるまでの騒動に発展した。2月25日には、当時のプロデューサー春田康一さんが生放送にて謝罪。翌年3月10日には、期間中のガチャが300回に達した場合に任意の装備を交換する「天井交換システム」が実装された。
──そのようなゲームの状況を変える出来事は“馬車デモ”以前にありましたか?
鍾路タマモ はい。2021年に行われた「『FGO』に対するトラック抗議デモ※」が状況を変えました。そのときはじめて、「ゲームをただ辞めるのではなく、ユーザーも行動することでゲームにポジティブな変化をもたらすことができる」という認識が韓国のゲーマーの間に生まれることとなったのです。
それまでの間、韓国でローカライズされる海外製のゲームには問題がつきものでした。
韓国の国内メーカーがパブリッシングだけを行い、その後はまともに運営もせず課金だけを煽ったままサービスが終了してしまう。韓国版だけ特定キャラやイベントが提供されない。韓国版だけ課金圧などのビジネスモデルが明らかに悪化している、といった状態でした。
こうした不満が積み重ねられた結果として、韓国のゲームコミュニティには「他国と完全に同じサービスが提供されていないこと」に非常に敏感に反応する傾向が根付いてしまっているんです。
※『FGO』に対するトラック抗議デモ
2021年に韓国で発生した『Fate/Grand Order』運営に対する抗議デモ。日本サーバーより2年遅れでサービスを開始した韓国サーバーでは、韓国の運営元であるNetmarbleは海外サーバーでは行われていたオフライン・オンラインイベントを提供せず限定アイテムも配布しなかった一方、新規ユーザー向けスタートダッシュイベントのアイテムを全ユーザーに配布していた。しかしながら、日本のFGOユーザーの間でその事実への注目が集まると、Netmarbleは突如として初心者向けアイテムの配布を打ち切ってしまう。各種イベントアイテムが提供されない代償として初心者向けアイテムを受け取っている意識の強かった韓国のユーザーは、この対応に激怒。ユーザー有志が抗議メッセージを表示したトラックにて運営会社に向けた抗議デモを行い、大きな注目を集めることとなった。
──なるほど。当時の韓国の『ウマ娘』はどういったサービス状況だったのでしょうか?
鍾路タマモ 韓国で『ウマ娘』のローカライズを手がけているのはカカオゲームズという会社です。当時はユーザーの間に誤解も多かったのですが、公式サイトの杜撰な運営、『ぱかチューブ』のようなコンテンツの欠落、イベントや無料配布アイテムの欠如、極めつけはあの関西弁のタマモクロスに標準語を喋らせていたなど──『ウマ娘』というゲームとIPに対して、彼らはCygamesほどの誠意を持っていないのではないかという懸念が膨らんでいきました。
さらに、イベントが欠落している状況で「ガチャのローテーション期間を短縮する」というニュースが伝わったんです。これを「課金圧を高めている」と受け取ったプレイヤーたちにより、強い反発がはじまりました。
──韓国の『ウマ娘』コミュニティにはどのような特徴がありますか? デモに参加したユーザーがどのようなコミュニティに属していたのか気になります。
鍾路タマモ 韓国の『ウマ娘』ファンコミュニティは大きく3派に分かれています。
極端に男性向けのコミュニティである「DC Inside」「Arcalive」「Ruliweb」などの掲示板群。男女混成のコミュニティであるX(当時はTwitter)などのSNS。そして女性中心の強いコミュニティとなっている「Theqoo」などのグループが存在しています。
このうち男性向けコミュニティに常駐しているユーザーは、基本的に自由奔放・反権威主義的な傾向があります。公正さを非常に重視するのと同時に、攻撃的な側面も持っています。そのため、ゲーム会社から不当な扱いを受けたと感じたり、他国のサービスと比較して同じような待遇を得られない場合、特に強い怒りを示す傾向があります。
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