ハハノシキュウが見た「戦極MCBATTLE 18章」MC漢が掴んだ頂点、覇者が残した宿題
2023.03.03
ラッパー・ハハノシキュウが挑んだ「戦極MC BATTLE」第20章 本選。
彼が綴る、参加したラッパーたちでさえ最後まで見落としていた違和感の正体、“勝利条件”の変更とは──
テレビゲームのセーブデータを兄弟や友人に誤って消されてしまったなんて経験を持つ人は少なくないと思う。
いよいよ壁は無くなるぞDragon Ash feat.ラッパ我リヤ「Deep Impact」
7月30日に開催された「凱旋MCbattle東西選抜夏ノ陣」にて僕はMIRIちゃんとこんな会話をした。
「我儘ラキアどう?」
(補足をすると、MIRIちゃんが所属していたRHYMEBERRYが5月に解散し、その後、我儘ラキアというMCバトルシーンとは無縁のアイドルグループに電撃加入した。という経緯がある)
MIRIちゃんの答えはこうだった。
「私、全然、知名度無いって思い知らされましたよー」
「MCバトルシーン狭い?」
「そうですね、外の世界は広いです」
戦極MC BATTLEには因縁やストーリーが多くつき纏う。それは数千人が同時にコックリさんを始めて、分岐を選ぶサウンドノベルだ。
しかし、MCバトルシーンは狭い。狭い故にほとんどの人が同じ素養科目、必修科目の単位を取得している。
具体的に言うとそれは二つある。一つ目はフリースタイルダンジョン。二つ目はYouTubeに上がっているベストバウト動画。
残念ながら各大会のDVDや、アプリに課金した者しか視聴できないバトルはそれに含まれない。だから、最近だと観客にとって積極的にYouTubeにアップされているバトルイベント(凱旋やMRJ)で活躍しているMCの方が身近に感じられているかもしれない。
また、フリースタイルダンジョンを毎週観ていなくても、Twitterやインスタでなんとなく時事を察する人も多いと思う。
ステージに上がると身としても、ほとんどの観客が共通の予備知識を持っているものとして臨むことになる。それはお客さんがバトルマニアだとか、オタクだとか、そういう意味ではなく、むしろそれ以前の当たり前のことだとすら思っていた。
9月15日の戦極20章の話をするためには、少しだけ日付を戻す必要がある。それは9月10日放送の「フリースタイルダンジョン」にまで遡る。
現在、「フリースタイルダンジョン」では3代目モンスターの最後の1人を決めるためのトーナメントが開催されており、この日はPEKO vs 輪入道が放送された。熱戦の末、輪入道の勝利だった。
ここで僕がピックアップしておきたいのは敗退したPEKO君の言葉だ。
「仲良くなりすぎたっす、皆と」
彼はそう言ってMCバトルから退く決意を表明した。
9月15日、戦極20章当日。楽屋の雰囲気は終始和やかで、参加MCはクジ引きを終えると各々の輪で仲良く談笑していた。僕はGOMESS君とFRANKENさんと一緒にコンビニまで歩き、そこでも他愛もない会話を楽しんだ。
GOMESS君にとっては3年ぶりのバトルになる。「誰も俺のこと知らないですよね」と彼は戸惑いを隠せずにいた。
「バトル出なくなったきっかけはあるの?」「(THE罵倒CYPHERの)スナフキンさんとの試合ですね」「どんな試合だったの?」「スナフキンさんに『粗探しを無理にしようとするな、お前本当はそういうことしたくないだろ』って言われて、確かにその通りだなって思ってそのあとマイク置いて試合終わるまで両手上げてたんですよ」 「それが最後だったんだね」
「またスナフキンと当たっちゃったらやりづらいねー」とFRANKENさんが冗談めかしく早口で言った。

戦極20章は過去最大規模の3100人を飲み込んだ豊洲pitで開催された。僕は北海道・東北予選の優勝者としてシード枠に名前を置いていた。はっきり言って優勝する気満々だった。
楽屋に貼り出されたトーナメント表の前で腕を組んで考え込む。その時、頭の中では過去の経験や知識から計算されたストーリーが自分を主人公にして光の速度で駆け巡る。きっと、それは僕だけじゃない筈だ。
他の出場者も同じように数秒間立ち止まって固まる。数人で一緒にトーナメントを見に来て、未来予想図を語り合う場面もあった。頭の中には各々の文脈から組み立てられたハイライト映像が流れていたに違いない。
だから、この日の戦極に至るこれまでのセーブデータがリセットされていたことに気付くには時間がかかった。
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