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  • 2020.07.21

DTMが同人にもたらした変化 電子音楽の“思想“を紐解く

音楽チャートでは拾い上げられない、同人音楽の歩み。

同人音楽に大きな変革をもたらしたDeskTopMusic(デスクトップ・ミュージック)を考える。

DTMが同人にもたらした変化 電子音楽の“思想“を紐解く

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この記事の制作者たち

同人音楽文化を花開かせた立役者「DTM(デスクトップ・ミュージック)」が、「同人音楽」の何を変えたのか。

なぜDTMなのか

それは、DTMが同人音楽の様々な文化、そして多様な楽曲ジャンルを“またいで利用される”システムだからだ。同人音楽ではこうした制度・技術の発展の仕方が、他の音楽文化と大きく異なっていて面白い、ということは前回にちょっと述べたのだが、その片鱗を端的に見てもらえるテーマが「DTM」だ。

例えば、「即売会で音楽を売る」というあり方はちょっと珍しい(ウィーン・フィルハーモニーがコミケで新譜を出したりはしないだろう)。インターネットを使った作品の制作や協働だって、商業ではほとんどあり得ない。これだけとってみても同人音楽はいわゆる伝統的な音楽とは少し異なった文化を歩んでいるらしい、といっていい。

同人音楽において、こうした音楽のあり方を約束してくれたのがDTMなのだ。

DTMの進化はめざましく、現在ではプロユース仕様のスタジオに迫りうるほどの性能があるとされている。ハード・ソフトの改良やアーティストたちの創意工夫によって、10年ほど前にできなかったことが次々とできるようになってきているのだ。

DTMの進化は、音楽の変化を約束している。それを単純に「進化」といえるかは分からないけれど、「できること」が増えたことで新しい音色が生まれ、新しい人たちが音楽に参加することができるようになったのは間違いない。

そこで、DTMの歴史の根源として「電子音楽」を参照しながら、DTMが音楽を与えた影響について見ていこう。これが直接「同人音楽の歴史である」といいたいわけではないし、単純に、同人音楽のディスコグラフィを描くことは他の音楽文化に比べても難しいと思っている。

ただ、「同人音楽」が根なし草のカルチャーなのではなくて、そこには様々な音楽的・技術的な思想が合流してもいること、そのような広がりの中に、同人音楽もまた座していることを示したい

執筆:安倉儀たたた 編集:新見直

※本稿は、2014年に「KAI-YOU.net」で配信した記事を再構成したもの

目次

  1. DTMと同人音楽の発展
  2. 新しい「楽譜」としての電子音
  3. 「電子音楽」の思想
  4. DTMが変えたもの

DTMと同人音楽の発展

冒頭に書いた通り、DTMとはDeskTopMusic(デスクトップ・ミュージック)の略語だ。広い意味では「PCでの音楽制作環境」全般を指すし、狭い意味では楽曲制作ソフトウェアだけを指すこともある。もっと広くは「電子音楽」とも呼ぶが、ここでは「家庭用PCで利用可能なデジタル音楽制作環境」を指してDTMということにしよう。

昨今の、音楽における自主制作シーンにおいてDTMは必須のツールとなりつつある。かつては機能も音もイマイチであったけれど、絶え間ないマシンパワーの増大、ソフトの改良、豊富な音源の発売や、デジタル録音、波形編集などその多機能性と利便性の向上は2000年台以降様々な音楽シーンを突き動かしてきた。むろん、これからも動かしていくはずだ。

『同人音楽制作ガイド』

『同人音楽制作ガイド』Via Amazon

同人音楽におけるDTMの役割は何度強調してもしたりないぐらいに大きい。冨井公國田豊彦の両名による『同人音楽制作ガイドブック』(秀和システム、2008年)が、事実上丸ごと一冊DTMソフトの使い方の解説書になっている点からもわかる通り、DTMを使って音楽作品を制作することは、同人音楽のあり方に大きな影響を与えている。

DTMとは同人音楽制作における基礎的な「技術」というだけではなく、同人音楽を成立させる一つの「制度」でもあるのだ

かつては、電子的に処理しやすい「打ち込みサウンド」や「ピコピコ音」を鳴らすだけでも精一杯であったそれが、同人音楽シーンを刷新させる技術的進化を遂げた。そのターニングポイントはいくつもあるけれど、しばしば指摘される通り、もっとも大きい影響を与えたのは「生音」の取り込み、すなわち「ボーカル付き楽曲」の誕生だろう

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