「同人音楽の歩み」序章 その環境と即売会について

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  • 2020.03.13 20:00:00

音楽チャートでは拾い上げられない、同人音楽の歩み。

「同人音楽の歩み」序章 その環境と即売会について

僕が子供の頃、オリコンは神様だった

毎週、ランキングの上から下まで、最低でも5位、できれば15位以内までは暗記してから学校にいった。僕はそれほど音楽に興味がない子供だったから「話題づくり」のためだけにCDを買ったり借りたりするのは苦痛でしかなかった(にも関わらず、音楽の話題は華麗に無視されることも多かった)。

いまオリコンの神話は壊れかけている。音楽はいま、ライブへ、iTunes Storeのランキングへ、クラブハウスへ、インターネットへと広がって、どこが最先端でどこが最後尾なのかさっぱりわからない。

かつては、大規模メジャーか、あるいはインディーズのレーベルでも、とにかく「デビュー」しなければ、音楽活動を公的な形で継続し続けることは難しかった(デビューした後も多くのアーティストは生活や活動に苦しんだ)だが、そうしなければリスナーに届かなかったのだ。

でも「ここ」は違う。インディーズでもメジャーでもなく、「同人音楽」は、そんな時代の、音楽の一翼を担う場所になりつつある。

……あ、自己紹介がまだでした。安倉儀たたたと申します。普段は文章系同人で雑誌をつくったりしていますが、同人音楽と出会って数年、メディアでコラムを連載する機会にも恵まれました。

音楽をつくったり制作に携わったりはしていませんが、そんな「聴くだけファン」からみた同人音楽の魅力を、世のJKと多少でも同人音楽に興味がある方にお伝えできたらと思って筆をとりました。

※本稿は、2013年に「KAI-YOU.net」で配信した記事を再構成したもの

同人音楽の魅力と場

「同人音楽」とは、ごく狭義に言えば「自主制作による音楽」のことで、もう少し付け加えるなら「コミックマーケットやM3等の同人即売会で頒布されることが多い音楽」だ。「音系同人」とも言われるが、ここでは同人音楽で統一する。

ALBA_binaria

『ALBA』binaria

「同人即売会」では、サークルブースを取りさえすれば、誰でも自分がつくった音楽を頒布できる。多くのイベントでは、いわゆる商業レーベルでもブースを出すことができる。

即売会では、普段テレビやニコニコ動画でしか作品を聴けないアーティストたちのナマの姿を見ることもできる。

アニメタイアップなどで一躍注目を浴びるfhána、くるりやハナレグミが在籍するSOEEDSTAR RECORDSからアルバムをリリースした感傷ベクトル、メジャーシーンでも活躍するシンガーであるAnnabelさんとやなぎなぎさんのユニット・binariaなど、同人と商業の両方で作品を発表するアーティストたちも少なくない。

アニメ『進撃の巨人』のOPを担当し、2013年の紅白歌合戦に出場した音楽ユニット・Linked Horizon(Sound Horizonの別名義)を主宰するRevoが、かつてコミックマーケットで無料でCDを配っていたことは、臣民(Sound Horizonファンのこと)ならずとも、案外知っている人は多いかもしれない。

即売会の空気感は、他にはない独特で魅力的なものだ。アーティストとリスナーが同じ場所にいて、同じ高さにいる。ライブやクラブともまた違った距離に好きなアーティストがいる。手渡しでCDを受け取りながら、少しだけ勇気を出せば「◯◯さんのつくる曲、好きです」と言えるんだ。

長机の向こう側、きっと君の目の前で、ほんのちょっと驚いた顔をしたあとに、満面の笑みでこう言うだろう。「いつも聞いてくれて、ありがとうございます」と。

こんな「音楽の場」は、そうそうあるものではない。同人と音楽との関係は、CDストアや配信サイトで音楽を購入することとは違った、幸福な出会いを生み出す。その空気を一度吸えば……たまらない、とも、また来よう、とも思うはずだ。
 
それから、また、同人音楽には君の聴いたことがないような楽曲が星の数ほどある。テレビやニコニコ動画やYouTubeやCDショップだけでは感じられない、音楽の風がここに吹いている。

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「コミックマーケット」の音楽島