自信と、焦燥と、「現場」という閾
2019.12.26
同人音楽を辿る本連載。
「流通」をキーワードにした前回から、ネットの発展と共にあった「声劇」文化に目を向ける。
前回、ポピュラー音楽研究の日高良祐さんに、インターネット(オタク)文化としての同人音楽の歩みを紐解いてもらいました。
今回、日高さんの論を引き継ぎつつ、もう少し違った論点から「インターネットと同人音楽」について書いてみよう、と企んでいます。そのために「音楽」だけではなく、同人音楽を語る上で外せない別のカルチャーにも登場してもらいましょう。
同人音楽と共に育ったサウンドカルチャー。それは「ボイスドラマ」です。
※本稿は、2016年に「KAI-YOU.net」で配信した記事を再構成したもの
執筆:安倉儀たたた 編集:新見直
目次
- 「作品」のレイヤーを変えたインターネット
- 音楽の「使い方」はクリエイターによって違う
- ボイスドラマという文化
- ボイスドラマの歴史
- 同人におけるボイスドラマの成り立ち
- ネットの発展と共にあった「声劇」
- ネット空間に延長された劇空間
さて、前回の日高さんが「流通」をキーワードに、インターネットの登場によって、流通形態が多様化し「プロとアマチュア」の境界がだんだん消えてきたことを論じてくださいました。
インターネット、とくに音声・動画サイトの登場によって、「つくった作品を聞いてもらう」という、それまでプロ(あるいはインディーズ)でなければ難しかったことをアマチュアでも簡単にできるようになりました。
これは同時に、「完成形以外の作品でも流通できるようになった」ことも意味しているように思います。僕には、むしろこちらの意義のほうが、流通が容易になったことよりも大きいのではないかと思えるのです。
つまり、インターネットの発展と熟成によってPVもデモも完成形もリミックスも、ライブ映像も自宅での悪ふざけも等しく配信することが可能になった。それによって「プロとアマ」の境界だけではなく、「作品の境界」をも曖昧にしてしまったのです。
YouTubeを検索すれば、ストリートライブだけではなく、自宅での弾き語りをアップしているアーティストも多く見ることができますし、BABYMETALのサウンドプロデューサーでもあるDJ'TEKINA//SOMETHING/ゆよゆっぺさんも、弾き語り動画を投稿しています。
「自宅での弾き語り」が「作品」になるという状態は、そもそもインターネットの登場なしには考えられません。
それは単純にクオリティの問題ではなく、お風呂上がりに弾き語りをするのに、わざわざ音楽番組やFMラジオを制作するのはコスト的にもばかげているように思えるよね(YouTubeでその場から配信してしまえばいいよね)、ぐらいな意味です。
日高さんが指摘したように、現代のアーティストたちは、ネットも即売会もCDも、あるいは音楽に留まらないコラボレーションも含めて様々に活動範囲を広げています。それは「作品」として見なしてよい形態の範疇が変わったからだ、という見方もできるのではないか、と思うのです。そして同時に、インターネットを介した作品の流通には、様々なレイヤーが存在していることを意味しています。
すでにCDを出しているプロのアーティストにとってわざわざネットに作品をアップするのは、プロモーションやファンサービスのウエイトとしては重いでしょうし、多数の作品によって一つの物語をつくり出しているクリエイター(例えばHoneyWorks)にとっては、弾き語りであろうと音楽だろうとアニメーションであろうとそれらは形態を問わず作品として欠かせないものでしょう。
プロとアマを区別していた作品の概念や完成形の「カタチ」、それからプロモーション/やってみた/ストリートライブ/自宅での弾き語り/ボカロ曲の投稿といった様々なレイヤーが、一つの場所で一緒になっていることが不自然ではなくなってきた、そういう事態が2000年代を通じて起きてきたと思うのです。
それと同時に、即売会もまた「いろいろな使い方」がなされる場所でした。ある人々にとっては、即売会なんて作品を「販売する場」でしかないかもしれません。けれども、ここは作品の流通からだけでは見えないような違う喜びもある場所なのだ、と思います。それはどういうものなのか。今回のメインテーマはそこにあります。
だから、〈音楽から遠く離れて〉今回は同人音楽のその周辺、しかし同人音楽とともに寄りそってきたもう一つのカルチャーであるボイスドラマを紹介してみたいと思います。
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