同人音楽には、音楽のありうる未来が示されている

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  • 2020.04.24 20:00:00
同人音楽には、音楽のありうる未来が示されている

この連載では、同人音楽をはじめとする、広くは知られていないけれど、もしかしたらすごく新しいかもしれない音楽実践を紹介していきたい。

ここでは一般に広まっている同人(音楽)に関する「誤解」を解くこともするだろうし、サークルや人の「オススメ」もするだろう。少しむつかしい話もするかもしれない(なるべくしないようにがんばる)し、ちょっとマニアックなことも書くかもしれない。

けれども、同人音楽という実践を通して「音楽とその周辺」について考えていくことや、同人音楽という世界があることを知っていることは、価値がないことではないはずだ。同人音楽には、音楽においてありうる未来が──ほんの少しであっても──示されていると思うし、それを知ってもらい、同人音楽のよいファンになってくれる人がでたら、それはとてもよいことだ、とも信じている。

同人音楽は、経済規模としても作品の流通数においても確かにそれほど大きなカルチャーではない。でも「知って損はない」と思われる程度には魅力的な作品も多い。そのあり方は、常識や思い込みで凝り固まった「音楽」に関するイメージや実践を変えてくれるキッカケにもなるかもしれない。そして僕たちはこの世界の──片隅でも──音楽に、カルチャーに何が起こっているのかを知っていたほうがいい。

そっちのほうが何百倍も人生は楽しくなるからだ。

※本稿は、2014年に「KAI-YOU.net」で配信した記事を再構成したもの

同人音楽文化を見直すための視座

連載のタイトル「新世紀の音楽たち」。

じつはこのタイトルには元ネタがある。同人音楽のあり方を「新世紀」という言葉をつかって説明したのがこの本、井手口彰典同人音楽とその周辺―新世紀の振源をめぐる技術・制度・概念』(青弓社、2012)で、まあ有り体にいえばそこからパクッた(井手口先生すみません)。なお、この本は連載中にもしばしば登場すると思うので、興味があるかたはぜひ読んでおいていただければ。

この本ではM3やニコニコ動画などの様々な「新しい音楽」の現場に目を向け、音楽文化の新しい波を論じている。その内容を僕が乱暴にまとめてしまうと、こうだ。

《同人音楽(や新しい音楽実践)は、クラシック音楽ともポピュラーミュージックとも異なる独特の文化である》

商業上の後ろ盾(電通やレコード会社とか事務所とか)も、文化上の保護(国の助成金とか)もない同人音楽がどうして「独特の文化」をつくり出せたのだろう。それを明らかにしていく、というのもこの連載の目的の一つだ。テクノロジー、カルチャー、環境、慣習、偶然……そこにはどんな秘密が隠されているのだろう。

人の生活すべてがそうであるように、音楽もまた、テクノロジーや社会、カルチャーの変化を受けて変わり続けている。その変容の様々な条件のもとに「同人音楽」は成り立っている。その中で最も特徴的なこととして、井手口さんは同人イベント(即売会等)、DTM、CDの3つの「環境要因」と「インターネットの登場」をあげている、これらについても連載中に振れることになるだろう。

同人音楽もまた次々に変わり続けているのだ。

だから、同人音楽について書くこの連載では、「その作品やサークル」だけではなく、聴衆たちや、同人音楽を応援する人たち、同人音楽が成立する前提や環境についても書いていくことになる。

そこにはきっと、他のジャンルの音楽が好きな人から見ても、あるいは音楽にそれほど興味が無い人がみても面白く思えるトピックがたくさんあるはずだ。

同人音楽が生み出すカルチャーのうねり

ミニマリズム進化論

ジュエルケースの同人音楽CD。Studio-kurage『ミニマリズム進化論』。歌詞カードも入っていて、商業CDとなんら遜色ない。

一方で、DTMや作曲上のテクニック、ミュージシャンへの依頼の出し方などの実践的な「同人音楽の製作技術」を伝える技術や資格は僕にはない。けれども、クリエイターへのインタビューなどを通じて、そうした創作上の話題についても触れていくつもりだ。

では、なぜ「同人音楽」なのだろう。

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