若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察
2022.07.31
同人音楽を辿る本連載。
前回に引き続き、音楽から発展しインターネットで独自の文化をつくりあげた「ボイスドラマ」について分析していく。
前回はインターネットのボイスチャットサービスやLIVE配信サービスを用いて即興的なかけあいをする「声劇」文化を紹介しました。
今回は台本をつくりSEやBGMを入れて制作される「同人ボイドラ」の文化を紹介していこうと思います。
前回も少し触れましたが、同人の音声劇にはいろいろな呼び名があります。またサークルさんごとに「音響劇サークル」とか「ボイドラサークル」等と名乗り方にもいろいろあります。ここでは台本があってネットやCDで頒布される音声劇を単に「ボイドラ」とよぶことにします。
※本稿は、2016年に「KAI-YOU.net」で配信した記事を再構成したもの
執筆:安倉儀たたた 編集:新見直
目次
- ネットで聞くボイスドラマ
- ラジオドラマとボイドラの差異とは?
- ボイスドラマサークルの2つの魅力
- 音声劇空間の新しい流れ
- ネットからリアルへ ボイドラサークルの変化と即売会の役割
ボイドラはインターネットの登場以前から、テープへの吹き込みなどによってつくられ続けていました。そして、2000年代後半に、沢山のサークルさんがネット上に作品を公開するようになってから、その存在感がぐっと強くなってきました。
もちろん、こうしたボイドラへと繋がる音響劇の歴史は、ラジオ放送が普及しはじめる昭和初期にまで遡ります。でも、ラジオドラマとボイドラでは、制作の過程が全然違いますし、その公表のされかたも違います。
それから、ボイドラ作品における演出や作劇が、アニメやゲームの「リアリティ」を基盤にしている(傾向がある)点でも若干の違いがあるように思います。この違いはもちろん「クオリティ」の違いを直接は意味しません。
けれども、現実世界のリアリティを基盤とする傾向が強いラジオドラマと、アニメーションやゲームのような世界を演出するボイスドラマは声の演劇として直線的に関連づけないほうがよいのかな、と今は考えています。
でも、ここには非常に複雑な問題がよこたわっています。機会があればまたどこかでお話することもあるでしょう。
ラジオドラマとボイドラを決定的に分けるポイントは、放送と頒布という流通の違いと、ゼロ年代以降の「デスクトップPCでの編集」という点に設けられるのではないかと思います。これは、この連載でも幾度か触れてきたように、デスクトップPCが生音を処理できるようになる過程と並行した現象でした。
それまではテープに吹き込んだ音声を、直接ハサミとセロハンテープで編集していた(映画もそうやって編集してた時代があったんです)のが、2000年以降、プロ並みの機材を揃えなくても音声をノンリニアに編集できるようになってきたのです。同人音楽のありかたを一変させたDTM環境の普及とインターネットの発展は、ボイドラの製作過程をも大きく変えました。
例えば、ネットの発達で音声素材を直接会わなくてもやりとりできるようになったため、録音のためにスタジオ(や誰かの家)に集まって収録する必要がなくなりました(ただ、音質上の問題があるので、現在でもスタジオで収録するサークルさんも少なくありません)。
声優さん(ボイスコさんという呼び方もありますが、ややこしくなるのでここでは声優さんといいます)が自宅で直接音声を吹き込めるようになり、mix師もデータがあれば自宅でmixができ、最終的に編集してHPにアップロードする人のところに各種のデータがある状況になれば、ボイドラ作品が制作できるようになったのです。
こうした変化によって、音声を提供する人、音声劇を書く人、作品の企画をする人が大きく増加しました。前回も触れたこえ部*1等の音声を扱うSNSがこうした状況に拍車をかけ、2007年頃には10代の少女たちを中心にインターネット上のボイスドラマ作品は知る人ぞしるネットカルチャーの一つに成長していきます。
そこには後に同人音楽シーンで活躍する片霧烈火さんのような人たちもいましたし、プロの声優さんを目指す人達や歌い手さんなど様々なバックボーンを持つ人達が集まっていました。
このボイドラというネットカルチャーが、同人音楽の発展に寄り添う形で発展してきたことは偶然ではありません。技術的な発展やオタク文化的な関係のちかさ。そして歌うことと演技をすることの両方ができる歌い手/声優の存在。音系同人において、音楽とドラマは他の「音楽」ジャンルには見られないほどに近い関係にあるのです。
*1 株式会社koebuが運営する音声専門のコミュニティサイト。2007年にカヤックが開設し、2014年にサイバーエージェントに譲渡され同社子会社に。2016年9月30日、サービス終了。
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