インターネット文化としての同人音楽

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  • 2020.09.18 21:00:00

同人音楽を辿る本連載。今回は、ポピュラー音楽研究の日高良祐さんが登場。

インターネット(オタク)文化としての同人音楽の歩みを紐解く。

インターネット文化としての同人音楽
さて、次回は、同人音楽を含むもっと大きく「音楽」の問題について、ポピュラー音楽研究の日高良祐さんにバトンタッチしてうかがいます。新世紀の音楽たちへ 第5回「ゲーム音楽が、同人音楽と民族音楽を繋いだ」

前回の記事で安倉儀たたたさんからバトンタッチした日高良祐です。

ここまで連載「新世紀の音楽たちへ」では、同人音楽について考えることの意義や、同人音楽に際立ってみられるいくつかの特徴(DTM、アレンジ、民族音楽、ゲーム音楽)について、豊富な事例とともに安倉儀たたたさんから紹介してもらいました。

少しずつ各論に焦点を絞っていったこれまでの流れとはちょっと毛色を変えて、今回はぼくなりの興味関心から、あらためて同人音楽全体のカタチについて考えてみたいと思います。

ぼくは日本のメディア文化について研究しているのですが、とくにネット上での音楽の「流通」に関心を向けてきました。たとえば2010年頃からのネットレーベルの流行は、ぼくにとって重要な研究対象です。

既存の音楽流通の形態とは一線を画したネットレーベルのやり方、つまり音楽のデータを無償で共有しようという流通のスタンスは、まさに新世紀らしい音楽文化として定着していきました。

※本稿は、2016年に「KAI-YOU.net」で配信した記事を再構成したもの

目次

  1. 「流通」というキーワードに着目する
  2. 同人音楽の歴史的文脈と「流通」
  3. 同人音楽はなぜオタク的になったのか
  4. 同人流通とは何か?
  5. それって狭くない?
  6. kz(livetune)が無効化する区分
  7. インディー・バンドと同人音楽との距離
  8. 同人音楽の領域が持つ自律性の低下?
  9. 即売会とネットのハイブリッド「APOLLO」

「流通」というキーワードに着目する

さて、こうした切り口に立って音楽文化を考える身からすると、同人音楽という領域は非常に興味深い。

なにしろ、同人音楽の特徴とは、まさにその流通形態にあると考えられてきたからです。そこで注目されてきたのは、コミックマーケットやM3などの即売会における手渡しでの流通、という方法論でした。

安倉儀たたたさんが第0回でも書いているように、「同人音楽は即売会とともにあった」といえるのです(関連記事)。

同人音楽の文化を源流から支え続けてきた即売会。ですが、こうした見方に対して、ぼくは同時に物足りなさも覚えています。

この連載を読んでいるみなさん(とくに若い人)も、その違和感を共有しているのではないでしょうか?

つまり、「ここで言ってる同人音楽って狭くね?」と思うのではないか、と想像します。より具体的には、同人音楽の持つインターネット文化としての側面への注意が足りないのではないか、と。

ここからは、「流通」というキーワードに着目しながら、同人音楽のカタチについて考えていきます。これまでの「新世紀の音楽たちへ」で提示してきたカタチに、もうちょっとインターネット成分を補充しようという試みです。

同人音楽の歴史的文脈と「流通」

まず、同人音楽を同人音楽たらしめている特徴について、簡単におさらいしましょう。

M3の様子

同人音楽の即売会「M3」の様子

第0回にも書いてある通り、同人音楽が現在のように注目を集める存在となったプロセスには、脈々と続く歴史的な文脈があります。

コミケ内で次第に集積していく同人文化としての音楽流通。それらをまとめて音系同人という言葉を発信したM3。

制作の点でも、パソコンの使用に重点を置くDTMからDAW、ボカロ、スタジオ録音と多様性を拡大させます。

こうした社会的環境の変化の中で、葉鍵系、東方、ボカロといった様々なムーブメントが生みだされてきたわけです。

同人音楽はなぜオタク的になったのか

ここですでに見て取れるように、同人音楽を特徴づける大事な要素に「即売会」の存在があります。たとえば、周辺文化研究家のばるぼらさんは、このように書いています。

一般的にいうメジャーに対する”インディーズ”音楽との違いは流通経路にある。同人音楽は自主制作したCD/CD-RをコミックマーケットやM3などの即売会で頒布、もしくは同人ショップに委託する。このため一般レコード店にのみ通うリスナーとはほとんど客層がかぶらない。(」『宅録~D.I.Y.ミュージック・ディスクガイド』所収「『内側を向いたまま巨大化していく文化』インターネットと音楽、日本のネットレーベルとその周辺」より引用)

同人イベントや同人ショップを舞台とした特徴的な流通は、同人音楽を他の音楽文化から一線引いて考えていくための、重要な足がかりとなってきたのです。

コミケに代表されるように、ちょっとオタク的な色合いの強い流通経路が用いられてきたことで、同人音楽は全体として日本のオタクに身近な音楽文化として育ってきたといえます。

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