Column

  • 2020.07.07

TikTokは震えている──本音でも建前でもない「2.5」的ストリート空間

「わからない」「気恥ずかしい」と敬遠されがちなTikTokとはどういう場所で、いま何が起きているのか。

音楽・広告・ファッション──2010年代の“魔術”を、トラップミュージックを足がかりにジャンル横断的に紐解いたnoteのエントリーがバイラルした「つやちゃん」による、新しい表象としてのTikTok論。

TikTokは震えている──本音でも建前でもない「2.5」的ストリート空間

クリエイター

この記事の制作者たち

あなたは、TikTokから目を背けている。「どうせこんなものだろう」と決めつけ、見なかったことにしている。黙殺、軽視、批判。多くの人がTikTokに対して「生理的に」何かしらの態度を無意識にとっている。

一方で、多くの人がTikTokに熱中している。夢中で、病的に、半ば中毒として。SNSは数あれど、ここまで人気を誇りながらここまで忌み嫌われているサービスは他に思い当たらない。だからこそ、TikTokは我々の感情のもとに取り扱われ、感情のもとに分析され、これまで正しく論じられてきたことはあまりなかったのかもしれない。

果たして、TikTokとは何なのだろうか。あの数秒の動画に、私たちは一体何を込めているのだろうか

Lil MoseyやLil Nas XがTikTokをきっかけに爆発的ヒットを記録したことで音楽業界にもいよいよ大きな影響が見え始め、ついには全世界でのアプリダウンロード数が15億を超えたと報じられていた2019年の秋頃。私はTikTokを運営しているByteDance社との打ち合わせで、この興味深いサービスに対して矢継ぎ早にいくつかの質問を繰り返していた。

たまたまある仕事でのつながりで打ち合わせの段取りが決まり、その時にどんな会話をかわしたかはもう覚えていないが、TVモニターや資料に踊るTikTokのロゴを見つめ、私は何か眩暈のようなものを感じていた。白い音符の周りに重ねられた赤色と青色の枠は版ズレしているかのごとく揺れていて、2Dで疑似3Dを描いているかのような、幻覚に近いものを感じた。

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その場で、ByteDance社は中国の企業であり、TikTokは中国語では「抖音」と表記されていることを知った。抖音は「ビブラート」という意味らしい。なるほど、TikTokのロゴはビブラートのように震えている。2-Dimensions(2次元)と3-Dimensions(3次元)の間を行き来するかのごとく、ちょうど2.5次元くらいで震え、生理的に/暴力的に、私たちの目をくらませてくる。

執筆:つやちゃん 編集:新見直

目次

  1. サンプリングが特権ではなくなった時代のプラットフォーム
  2. 生身の人間とキャラクターの狭間で
  3. 3でも2でもない、2.5枚目として
  4. 手のひらの上で生まれた、新時代のストリート

サンプリングが特権ではなくなった時代のプラットフォーム

そもそも、TikTok上ではどのような現象が生じているのだろうか。

無数の曲の中から一曲をピックアップし、音楽に合わせて様々な表情で──楽しそうで、おちゃらけていて、喜びに満ちていて、憂鬱げで、本当にその表情は様々である──踊り、時に全身を使って表現するというTikTokマナー。その行為はまさにDJでありシンガーでありダンサーであり、ステージを一人で操るマルチクリエイターである(と言ったら褒めすぎだろうか)。

彼ら彼女らが選ぶ曲は、必ずしも有名なヒットナンバーというわけではない。何の脈絡もなく突然無名な曲が使われ、いきなりYouTube等のストリーミングの再生回数を伸ばすという、ミュージシャン側も驚く展開が生まれることが多々ある。音楽そのものが持っていた文脈も一切無視され、それぞれが“単なる音のデータベースとして”非常にユニークな使われ方をする(そして曲には新たな息吹が吹き込まれる)。

Keith Ape、KOHHらの『It G Ma』がメイク動画に使われたり、サカナクションの『新宝島』が「マジで疲れ宝島」としてすさまじい勢いでバズっていったのは良い例だろう。

スカスカのトラップに特徴的な音や声を挿し込んだ曲──KRYPTO9095 feat.D3Mstreet『Woah』やAuntie Hammy『Pew Pew Pew』など──はTikTokと非常に相性が良く、ポージングや表情のアクセントを乗せやすい。効果音を詰め込んだABSRDST and Diveo『We're Beautiful』やsundial『your text』は、その極地と言って良いかもしれない。

@xenoulinha

Your text - Sundial ##foryou

♬ your text - sundial

かつて、DJ Shadowは「ティーンの頃、サンプリングというのはニューヨークのひと握りのトップDJだけが知っている秘密のテクニックだった」と語っていた。それから30年近くが経ち、TikTokというプラットフォームによって、皆がライトにDJ気分を味わえるようになったのである。

生身の人間とキャラクターの狭間で

しかし、TikTokのパフォーマー達にとって、音楽は目的ではなく手段でしかない。TikTokの曲は全て、ただただ僕/私のキャラクターを増幅させる装置として機能している。美しく盛りたい時、面白い笑いを作りたい時、エモい自分を演出したい時、音楽はキャラクターの魅力と価値を強化する。ポップミュージックのミュージシャン達が曲それ自体の価値増幅手段としてミュージックビデオを作ることの裏返しに、彼ら彼女らはTikTokでのキャラクター演出としての価値増幅を目的に、曲を選び使う。

彼ら彼女らはシンガーでもあるが、自らの声で言葉を発することはほとんどない。「あたかも自分自身の声であるかのように」リップシンク(口パク)で演出される。男性は男性ボーカル曲を選曲する、といったようなマナーも存在しない。リップシンクは性別を超えて大胆に、多少強引に行われる。

@_chiyuu_

※同一人物です ##foryou ##foryoupage ##lizzo ##boys ##girls ##男装 ##男装女子

♬ original sound - smalltownhollywood

恐らく、TikTokの最大の魅力と中毒性はここにあるのではないだろうか。一人のパフォーマーが、アニソンもギターロックもEDMもトラップも古今東西のあらゆる曲を乗りこなし、性別をも超え、キャラクターのバリエーションを更新していくということ

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2.5次元演劇と通ずるTikTok