再来する、ボーカロイドの新たな〝うねり〟
2019.04.05
後に音楽業界に大きな変革を起こすきっかけとなる、ヤマハの音声合成システムVOCALOID(以下ボーカロイド、ボカロ)。ブームの火付け役となったのが、クリプトン・フューチャー・メディアから発売されている「初音ミク」だ。
同社からはMEIKO・KAITOという2つのボカロが先行していたものの、販売本数が伸びず、初音ミクを最後にボカロプロジェクトは終わりを迎える機運すらあった。
しかし2007年、「キャラクター・ボーカル・シリーズ」の第1弾として初音ミクの発売が開始すると、瞬く間に大ヒット。断念しかけていたプロジェクトは息を吹き返し、やがて鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ、また各種の追加ライブラリーや拡張音源を展開するに至る。
初音ミクがもたらしたものは合成音声だけではない。「初音ミクを奏でたい」「初音ミクを描きたい」「初音ミクを動かしたい」「初音ミクを演じたい」――様々なクリエイターが初音ミクを通して表現し、それが初音ミクであることそのものが共通言語となり、また新たなクリエイティブにつながる。そういう、「創作の輪」を生み出した。
一方で勢いに目を付けた様々な企業が、初音ミクを起用すべくこぞってクリプトン社にオファーを送った。しかし同社のボーカロイド企画開発プロデューサー・佐々木渉さんは、「そのほとんどを断っていた」と語る。
初音ミク発売からの13年余、企業とクリエイターの間で、佐々木さんは一体何を守っていたのか。ボカロ史を振り返りつつ、当時の苦悩について、赤裸々に語っていただいた。
目次
──佐々木さんにKAI-YOUがお話を伺うのは、本当に久しぶりのことです。たしか2013年頃、KAI-YOUが創業間もない頃に、クリプトン社長の伊藤さんと遊びにきていただいて。そこから何度かお仕事もご一緒させていただきましたね。近頃は、初音ミクやボーカロイドとの関わりに変化はございましたか。
佐々木 この2、3年くらいはちょっと手離れした感じと言いますか、「景色に奥行きが出て、遠くなったなぁ」と思っています。僕にとって、遠くなったというのは良い意味なんですけれど。
クリプトン・フューチャー・メディア 佐々木渉さん
──ボカロ文化がクリプトンの手を離れて、自立・自律して動くようになってきたという意味でしょうか?
佐々木 僕たちが呼ぶ、文化としてのボーカロイドの世界では、クリエイターやファンのみんなが互いを気にするところがあって。
そのコメントバックががそれぞれのクリエイティブに対して、「引力」として作用してしまうこともある。ボーカロイドというのは、ニコニコ動画と相まって、そういう独特の雰囲気が強いネットカルチャーだったと思うんです。そこが良くも悪くも解けてきたなと。
昔だったら、とにかく有名になりたいという行為は悪目立ちして、音楽も、ネタ的なアプローチも同列に前に出ていた。目立った歌い手さんが批判されたり、企画プロジェクトや小説が賛否を呼んだり、時には過剰な嫌儲的なムードもありました。
けれど最近は行動の意図は無視され気味で、素直な共感、エネルギーやクオリティが重視されて、評価されるようになっています。Adoさんのような、力のある歌手も……すぐに世間から支持されて、本当によかったなぁと思って……。そういう状況もあって、自分の考えていた「初音ミクの役目」みたいなものについても、少し肩の荷が降りたと言いますか……。
佐々木 インターネットによって、スマホ1つで様々な音楽が聴かれ得るという新たな可能性──その広がりの中で、「初音ミクやボカロが歌っている必然性や面白さはどこに着地していくんだろう」と考え込んでしまうこともあったんです。
でも今は、ミクとしてミクらしいミクを表現する曲もあれば、YOASOBIさんみたいに、ボカロ曲からの正当な進化と言いますか、「みんなで楽しめるボカロ以降の歌」が必然的に産まれるようにもなって。実際にみんなでそれを楽しめていますよね。それは、旧来のJ-POPのアーティストがネット文化に接近して、それっぽいことをやろうと真似するのとは、全然違う受け入れられ方をしているよなって思うんです。
……いきなり前のめりすぎましたかね? この辺の話は最近、ああこいうふうになってきたんだなぁ、と一人で勝手に思っていたことです。昔、ミクやボカロ曲由来のアニメ化企画などがバンバン出てきて困惑していたような時期──ある意味で熱狂していた頃に比べると、すごく今は心がおだやかで。
そういう企画って原作者さんはボカロ界隈で恩義も感謝もあるのですが、企業担当者は、そうとは限らない出版社の方も多く、本当に難しかったんです。その頃に比べて、いまは関係者もボカロ世代が多くなって、実情も中身もバランスを保てているんだなと。
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