若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察
2022.07.31
アウトサイダーでシリアスなだけが“リアル”ではない。
AYA a.k.a.PANDAの魔力と偏執的な押韻へのこだわり。
2020年10月某日、批評家・小説家の佐々木敦氏があるツイートを投稿した。
ラップは馬鹿には出来ない。
それは知識や学歴とは無関係の知性だ(知識や学歴があってもよいが)。
ラップは現代口語の最先端の実験だ。
こんなのは当たり前だが、最近ますますこのことを考えている。(佐々木敦@sasakiatsushiより一部引用)
もしかすると「ラップ」を「漫才」に置き換えてもこの主張は成立するかもしれないが、どれだけメールやチャットやTwitterといった書き言葉が我々の生活に根付こうとも、人の声帯運動によって発せられる音をもとに、唇や舌を動かすことで「言葉」にする働きが、そしてそれがつくり出すリズムが、多くの人の興味を惹き胸を打っていることは間違いない。
重要なのは、何も好事家に限らず、現代に生きる広い層の人々がその試みに魅せられているということで、例えば若者、中でも女性の支持を集める何人かのラッパーの中でもAYA a.k.a.PANDAは特筆すべき才能を有している一人だろう。
彼女がラップにしろ歌にしろ非常に高いスキルを持っていることは以前から知られているけれど、彼女でしか表現し得ない独特のリズム感覚や言葉遊びに対する異様なこだわりと才能が近年ますます花開いている。
しかし、“リアルであること”の定義がリスナーによって様々異なり、その中でややもするとシリアスな顔をしてラップすることが暗に求められていることも多い(気がする)この国のヒップホップ文化において、AYA a.k.a.PANDAという冗談めいた名前で恋愛をテーマにしたパーティーチューンを歌うといういかにも“チャラついた”(ように見える)彼女のことを正確に論じたテクストなど皆無である。
執筆:つやちゃん 編集:新見直
目次
- AYA a.k.a.PANDAの押韻への偏執
- ラップコミュニティを抜け出すための言語遊戯
- 現代口語実験の最高傑作とは
- デコレーションされた「AYA a.k.a.PANDA」
AYA a.k.a.PANDAは、偏執狂である。
彼女の魅力は、まずそのしつこさに集約されていると言って良い。
愉快な言葉遊びに溢れている最新EP『2020』は、例えば「シークレットLOVE」において以下のような偏執が観察される。
言えないやこの気持ちは秘密/消えないやまた夢に見る唇/目が覚めて君を想って/頭重くてまた考えて/朝も夜も私を想って/よそ見しないでAYA a.k.a.PANDA「シークレットLOVE」より
「言えないや」と「消えないや」、「秘密」と「唇」、「覚めて」と「重くて」と「想って」と「考えて」と「想って」と「しないで」…終始このような調子で押韻が試され、テキストで見ると踏んでいない韻も気づけば強引な発音で“踏めているように”聴かせられるスキルは、彼女ならではの言語遊戯の才能に違いない。
あるいは、拗音(「ゃ」「ゅ」「ょ」などのこと。ようおん)を駆使したどことなくコンフューズ気味の幼児っぽさが展開されるのも彼女の音楽の特徴で、「シークレットLOVE」では「ちゃ」「じゃ」による応酬がしつこく展開される。
目が離せない/うちら無茶苦茶/惚れちゃダメなのに/やっちゃった/これって夢の中?ってくらい/冷静じゃないねAYA a.k.a.PANDA「シークレットLOVE」より
次のヴァースでは「うそ頭ん中ぐっちゃぐちゃ」というフレーズが来ることで「ちゃ」の地に足つかない、落ち着きを欠いた印象は決定的になり、その間常に高い音域でせわしなくなり続けるシンセが、浮ついた空気を強調する。
押韻へのしつこさとこだわり、拗音の多用──それはまさに、「シークレットLOVE」で描かれる恋の苦しさそのものではないだろうか。
彼女は、いつだって恋する人への強く倒錯した想いを綴り、そしてそれは若いリスナーからの絶大な支持を得ているが、それもそのはず、リリックで描写される心情はそのまま言葉や音に対する執拗な試みと呼応し、我々の耳に現代口語の実験として鳴り響く。
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