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  • 2020.11.12

コロナ禍が音楽業界にもたらした、唯一のポジティブな変化

『鬼滅の刃』の主題歌「紅蓮華」は現代の歌謡曲で「アニソンという意識で書いていない」──押しも押されもせぬ売れっ子シンガー・作家の大石昌良と草野華余子が語る本音。

そして、コロナ禍での音楽の変化とは?

コロナ禍が音楽業界にもたらした、唯一のポジティブな変化

左:草野華余子 右:大石昌良

「カヨコ」から本名である「草野華余子」に改名した草野華余子と、「大石昌良」と「オーイシマサヨシ」を分けた大石昌良。対照的な道を辿りながらも、シンガーソングライターの魂を持ちながら作家としても活躍するもの同士、抱える思いは近しいことが確認された前回。

第二回では苦難を乗り越え今のやり方へ辿り着いた二人が直面する新たな困難、そして大石昌良と並び草野華余子を救った大きな存在、LiSAについて語っていただく。

参加するはずだったイベント、開催するはずだったライブがいくつも延期や中止を余儀なくされ、音楽イベントそのものの価値が揺らぐ現在にあっても、2人は守るべきものを守るため、手を伸ばすことをやめない。

ホスト:大石昌良 ゲスト:草野華余子 取材・執筆:オグマフミヤ 撮影:I.ITO 編集:新見直

目次

  1. コロナ禍において音楽家が最もしてはいけないこと
  2. 音楽を続けさせてくれた環境を守りたい
  3. 平等にはできない、それでも
  4. 日常が戻るその裏で
  5. LiSAと出会えていなかったら音楽を辞めていた
  6. 我が生涯に……

コロナ禍において音楽家が最もしてはいけないこと

──世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大は、エンタメ業界にも大きな影響を与えています。

大石 やることが変わってもいいし、名義を分けてもいい。今一番いけないのは、音楽を辞めること。間違いを正解にしようにも、音楽を続けていないとそれすらできない。

続けていくために必要なものとして、わかりやすいところではお金とか健康とかモチベーションとかいろいろありますが、それを確保するために別名義を立てるとかの試行錯誤が必要になってきます。

ただ、お金を稼ぐための手段を用意する一方で、やりたいことをやったりして心の健康を保つ手段も確保しておかないといけない。そんな風にして今があるので、やはり「オーイシマサヨシ」が生まれたのは必然でした。

さっき「許し」の音楽って言ったけど、許せるようになるまでのプロセスがあるということで、許せない時代もあったということです。心が折れなかったこと、なんとか音楽でご飯が食べてこられたことで、許せるようになるまで音楽をつづけてこられたという側面はある。

このコロナ禍という状況においては、音楽を続けられなくなるのが一番よくないと強く思っていて、後輩に相談されても、絶対に正しい形にもどるからやめるな、今辞めるのが一番アカンって言ってはいるんですけど…。

草野 もちろん続けるのが大事だとは思いますけど、難しい話になってしまいますよね。

華余子さんみたいになりたいですって言われても、じゃあ私と同じように毎日300曲以上世界中の音楽を聴いたり、プライベートもなく毎朝(作曲ソフトで)セッションデータを立ち上げるところから始まる生活を送れるかと聞いても、20代の女の子には難しい。

私は絶対続けろって大石さんに言ってもらえたから続けてこれたけど、同じように後輩に対して絶対続けろとは言えないし、かといって辞めた方がいいとも言えない

大石 自分の歩んできた道を振り返ると、あまりにいばらの道だったから、そんな過酷な選択肢を簡単には勧められないんだね。

草野 でも奇跡は人生のうちで起こり得るので、その奇跡が振り向いてくれた瞬間に応えられるよう自分が100%の努力をし続けることが重要なんです。

大石 まったく同じことをこの前言ったな…!

──トムさんとの対談で、お客さんからの質問に答える形で同じ趣旨のことを仰っていましたね(参考)。

草野 間違いを正解にするというお話もすごい共感できたんですが、私もネガティブなことをポジティブに変換するようにしているんです。

大事な人と別れたとしても、この別れがあったからその後100曲書くことができたんだと、悲劇をそのまま受け取るのではなくその後の自分の生き方によってすべてのマイナスをポジティブに変換する。

どん底にいたら這い上がるだけだし、そこからしか見えない空の色を表現しようみたいな。もやししか食べられない一週間とかもありましたし、結構本気の貧乏していたので、環境の影響もあってそういう考えが培われていったのかもしれません。

大石 俺も貧乏で冷凍餃子ばっか食ってたな…。そういうのも含めて境遇が一緒なんだろうね。食えなかった時期や、それを経て食えるようになった時期も一緒なんじゃない?

草野 一緒ですね。私の4年先の姿がこうなんだと思うと、背中を見て安心して進めるような気持ちになります。

──これまでの対談でも共通点が多い方はいらっしゃいましたが、その中でもやはり草野さんとは一番リンクしているように思えます。

大石 スタイルや境遇もそうだし、どんな経験も無駄にせず音楽の糧にしようとする姿勢も同じ。

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