「自分はもうオワコンだ」やみえんがバーチャル化してVR空間で実現したかったこと
2024.10.06
クリエイター
この記事の制作者たち
VTuber黎明期に活動を始め、2度の企業所属を経て今は個人勢として活躍する九条林檎さん。酸いも甘いも噛み分けてきた彼女に、話題の尽きないVTuberシーンを語ってもらう連載「おしえて、九条林檎様!」も5回目となりました。
今回のテーマは、「VTuberと外部クリエイター」です。にじさんじを運営するANYCOLORが、所属タレントへの外部クリエイターによる悪質な行為に対して声明を出した一件を、VTuber当人はどう受け止めたのか。業界の動向予測を交えてお届けします。
目次
- 完璧とはいかないVTuberのプライバシー対策
- 裏切られた性善説 変わらざるを得ないスタジオと事務所の対応
- “インディー”感が残るも、秘密保持契約の普及が進むVTuber業界
- VTuberの間で共有される情報、噂、知見 メディアへのリーク対策も
- 歴史的には事務所とのトラブルも スタッフと会わなくなる可能性は?
──今日もよろしくお願いします。ANYCOLORが声明を出したあの事件を受けて、企業所属の方はもちろん、おそらく個人の方も外部クリエイターとの関わり方を一考したかと思います。林檎さんとしてはどう受け止めましたか?
九条林檎 ついにこういうことが起きてしまう業界になったのだな、と思った。業界の規模が大きくなるにつれて、VTuberの人権や権利が侵害されることに対してより我々は敏感になっている。そもそもの事件の性質を鑑みても沢山の人が考えるきっかけになるのは当然だが、こういう時期に起こった事件だったこともあり、より人々の議論を呼び起こし、人権や権利の保護に意識が向けられたんだと思う。ファンの皆様の反応からもそれはよく見て取れた。
──そもそも話題になった一件では、なぜVTuberと外部クリエイターが対面で作業していたんでしょうか?
九条林檎 そうか、確かにスタジオで収録したことのない者にはなかなか想像しにくい事柄だな。ではまず、ざっくり収録について説明しよう。前提として、歌の収録にはスタジオ収録と自宅に機材を揃えて行う宅録がある。宅録の場合は完全に非対面で完結できるが、マイクを含めた環境の整備や収録に必要なソフトの操作なども含め、演者の難易度は大変上がるし、クオリティはスタジオにはどうしても劣る部分はある。やはり自宅にスタジオがない限りはスタジオに行くのが一番だから、事務所所属のタレントは基本的にスタジオ収録となる。
で、スタジオには大抵、音響エンジニアがいらっしゃる。音のプロフェッショナルである彼彼女らが口の高さに合わせマイクの位置を直してくれたり、一番良いポップガードからの距離を教えてくれたり、あらゆる面で一番いい音が取れるよう配慮してくださる。歌っている最中には気づかないノイズなども聞き取って「今ポップノイズ(※1)が入ってしまったので、もう一回録りましょうか」などと提案してくれることも頻繁にある。
あるいは歌う者が音程を取れずに苦戦している場合に、「苦戦してる部分を今MIDI(※2)で作って流すので、その音に合わせて歌ってみましょうか」と助け舟を出してくれたりな。良い作品を作るためスタジオ内であらゆるサポートをしてくださるんだ。だから同席しているのは別に不自然ではない。
(※1)ポップノイズ。マイクに息がかかった時の音や、機器に電源を入れる際などに出る雑音
(※2)MIDI。音楽の演奏情報のデータ。再生して楽器の演奏や練習などに利用できる
──なるほど。では、接触を防いだり悪意ある行動を予防する意味では、事務所が管理するスタジオへ音響エンジニアに来てもらうのが安全でしょうか?
九条林檎 そうかもしれんが、すべて自社スタジオでまかなうのは、現実的にはよほど資本がない限りはやはり難しいところだよな。
加えて例え自社スタジオを構えたとしても、大きな事務所だと所属タレントも多いから、歌の収録やミキシングが必要な場面も増える。タレント同士で誕生日が近かったり周年が被っていると、どうしても自社スタジオのスケジュールに空きができず、結局外部に依頼するしかない状況も生まれると思う。
──大手事務所だと社内にスタジオがあっても所属タレントが多い分、回しきれないということも起こりうるわけですね。ただ、今回の事件が起こった影響で、内製で進める動きが強くなる可能性はあるのではないでしょうか。
ANYCOLOR関連の生配信などに携わる社員へのインタビュー記事によると、ちょうど今、現スタジオよりも面積規模が3倍になる新スタジオの設立に動いているそうです。この新スタジオで完全に内製化できるかは伺い知れませんが、内製化の方向に舵を切っても不思議ではありません。
九条林檎 リスクヘッジは進められるに越したことはないからな。各々で条件・環境は違うので必ずしも内製化にはならないと思うが、各社それぞれのタイミングで様々な形のリスクヘッジを進めていくだろうな。
──ホロライブを運営するカバーも、2023年5月に設立した大規模なスタジオがありますから、内製化を進めることができるのかもしれませんが……まあこれは勝手に話しているだけで全く仮の話なので、今後の各事務所の動向を見守るのが先ですね。
──これまで通り外部のスタジオでも収録するとして、ああした事件を防ぐためには、マネージャー等の関係者を必ず同席させる、スタジオのスタッフとタレントとの接触を物理的に断つとか、方法としては色々あると思います。どのような対策が必要だと思われますか?
九条林檎 関係者を必ず同席させるのは効果的だろうが、事務所スタッフの対応の手間があるよな。物理的な接触を断つというのも言うのは簡単だが、バーチャルタレントの時だけパーテーションを置く、内外へ特殊導線を周知徹底するなどスタジオの者の対応の手間が相当な量発生する。
どちらにしても対応リソースは相応にかかるため、すべての現場で万全の対策ができるかと問われると、ちょっと微妙だな。もちろんスタジオはバーチャルタレントだけが使うものではないから特別扱いができないこともあるだろう。
楽曲収録ではないが、我の話で言うと、時々地上波のラジオに出させていただくことがあって、その際にはメインスタジオではない別室までマイクの線を引いてきていただき、完全にパーソナリティの方と対面しないように配慮していただくこともあった。
ただ、いずれにせよラジオなどの音に関わる仕事ではマイクの位置がかなり重要だから、スタッフの方による微調整が必要なんだ。パーソナリティの方に会わないとしても、結局番組スタッフの方には必ずお会いすることになる。
──なるほど、音周りはそれだけ繊細な作業が必要だからこそ、スタッフの方と接触せざるを得ないという側面があると。逆に言えば、そこがネックとなる以上、VTuberとその関係者、そしてそれ以外の方の動線を完全に別にする、というのを売りとしてアピールするスタジオがあってもよさそうです。
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