初音ミクの否定 J-POPの残照に流れるボカロDNAの連なり

Interview

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  • 2021.04.25 20:00:00
初音ミクの否定 J-POPの残照に流れるボカロDNAの連なり

初音ミクはインターネットという海の上で、風向きが変わるたびに方向が変わるヨットみたいな存在で、むしろそうあることが求められていた

初音ミクで、ネット音楽制作のキッカケをつくった男・佐々木渉さんがそう語った通り、ボーカロイドとそれらが生み出した文化は、この15年近くの間、奇跡とも言えるバランスで漂ってきた。

佐々木渉さん

クリプトン・フューチャー・メディア 佐々木渉さん

その裏には、初音ミクの生みの親としてだけでなく、新たな文化の登場と発展に賭けた佐々木さんの影での葛藤、そして個人的な欲望すらもあったことは前回語られた通りだ。

今、私たちは「ボーカロイド以後」の世界を生きて、音楽を聴いている。

インターネットという海の上で多様な音楽が登場し、受容され、米津玄師YOASOBIAdoEveなど既存のJ-POPと全く異なる文脈や出自を持ったアーティストが頭角を現し、チャートを席捲するまでに至っている。

先輩・後輩関係やジャンルによる縛りもない、自由で創造性の高い音楽シーン。すでに、佐々木さんがかつて待ち望んでいた世界に限りなく到達しているように思える。「肩の荷が降りた」とまで言う佐々木さんは、今後どのようにボーカロイドに関わっていくのか。

目次

  1. “ボカロ衰退期”をすり抜けたもの
  2. プラスチックな、初音ミクの声
  3. 「妄想税」の徴収と、「砂の惑星」への到着と
  4. 「ボカロっぽさ」は普遍化し、溶けていく

“ボカロ衰退期”をすり抜けたもの

──2013~2014年くらいに、“ボカロ衰退論”がささやかれたことがありました。佐々木さんは、どんな風に見ていたのでしょうか。

佐々木 2007年から、ニコニコ動画で駆け上がるように盛り上がっていた「みんなにとってのボーカロイド像」が熱気のピークに到達して、模索していた時期なのかな、と受け止めていました。ピノキオピーさんが「ボーカロイドのうた」のようにボーカロイドそのものをテーマにした作品を出されていたりしますけど、その人その人にとってのボカロを通して表現したいものが、曲の根源にあるといいなと僕は最初から思っている。

ボーカロイドのうた / 初音ミク

佐々木 ニコニコ動画をたくさん見ていた層が、社会人になったり生活環境が変わったりして、ニコニコ動画への接続時間が短くなって、盛り上がっていたものが自然に落ち着いて、という変化もあったでしょう。CDが一般に使われなくなって同人活動のアウトプットに影響もあったかもしれません。ただ特筆すべきは、そこをすり抜けた個性的な作品や作家だと思っています。

僕の頭の中では、将来60歳になったsasakure.UKさんがキレっキレのプログレッシブな曲を書き続ける妄想も浮かぶし、wowakaさんの尖ったリズムや譜割りが好きなクリエイターがそれを感覚的に吸収していて、実際に次の世代のポップスを作っていっているのかなと思えます。そういうタイムレスなエッジが、やはりボカロの中には沢山ある。それがいま改めて、強い骨太の音楽的なサバイバル手法として浮き上がってきている。

それを見ていて、僕は楽しいというか、ああよかったなと。ボカロがきっかけだったかどうかはいいとして、「ネットで広がった音楽って面白いな」って思ってくれる人が結果として増えたよなって。だって、普通のポップスだったらレーベルに採用されないような曲がすごくたくさん聴かれましたよね。

──米津さんやYOASOBIのAyaseさん、他にも数えきれない前例があるように、ボカロ界から様々なクリエイターがプロやメジャーの世界に羽ばたきました。このことはどう見ていましたか?

佐々木 まず、すでにプロとして活動する方がボカロで作った曲で、大ヒットしたものって殆どないんですよね。遠く、マイノリティまで含めて響くようなボカロ曲の持ち味というのは、J-POPのそれとはやっぱり違う。

逆も然りで、ボカロがうまい人がプロとしてもうまいかというと、必ずしもそういうわけではない。だからまあ……道場破りとしてのボカロ、もしくはJ-POPという……リバーシブルな見方も面白いとは思いますが、あまりそれぞれのエリアから広がるとも思っていないんです。

その上で、次世代の音楽を作れる人が、ボカロ界の中に増えていることは事実です。「うっせぇわ」のsyudouさんとかは「ビターチョコデコレーション」の頃から、トラップっぽいリズム感覚だとか様々な直感が同居していて、そういう垣根を壊していく流れとして踏まえています。

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