

80年代から2000年代前半まで、「SFアニメ」が大きな力を持っていた時代があった。
その後、産業構造の影響から絶滅危惧種となっていた同ジャンルが、現在、どのように息を吹き返し始めているのか? 上映中の『HELLO WORLD』を軸に考える。

『HELLO WORLD』ポスター
「SFアニメ」は今どうなっているのか。そんなことを考えている。
始まりは9月20日に公開された劇場オリジナルアニメ『HELLO WORLD』である。「ソードアート・オンライン」シリーズ、なかでも劇場版『ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』で高い評価を受けた伊藤智彦が監督、小説『know』やこの秋テレビアニメ化される『バビロン』で人気の作家・野崎まどが脚本を務める話題作だ。
本作が予想を超える面白さで、自分がこの作品を好ましいと思う理由を探っていくと「SFアニメ」というジャンルに辿りついた。さらにただSFであるだけでなく、爽やかな青春ドラマも感じさせる。
『HELLO WORLD』は、京都に住む高校生の主人公・直実の前に10年後の自分を名乗るナオミが現れるところから始まる。ナオミは直実がやがて同級生の一行瑠璃と恋をするが、瑠璃が事故によってすぐ死亡することを知らせ、その事故を回避すべく動くように言う。
物語は早い段階で、直実の住む世界が別にあるもうひとつの世界を丸ごと写したデータであるという大きな事実が明かされる。終盤に至るまで、どんでん返しが繰り返される。本作の魅力のひとつだ。
作品は「たとえ世界が壊れても、もう一度、君に会いたい──」とのキャッチコピーを掲げている。公開前の告知では時間を超えた恋愛が強調され、それは2016年のヒット作『君の名は。』を彷彿させた。
しかし『HELLO WORLD』の内容は、実際はかなり様相が異なる。本作がまさに「SFアニメ」であることが理由だ。
「SFアニメ」とは何か?
『HELLO WORLD』の主軸は直実と瑠璃の恋愛というよりも、ダイナミックに展開する物語や巧みに練られた世界観にある。「データで構築された世界」「成長したもうひとりの自分」といったSF的設定において成立している。それらは瀧と三葉のふたりがどう結ばれるかを中心に据えた『君の名は。』とだいぶ異なっている。
宣伝のうえでは“ハイスピードSF青春ラブストーリー”と設定されたことは、『HELLO WORLD』のジャンル区分やマーケティングにかなり苦労したことが窺える。
話を進める前に、「SFアニメ」についてまず考える必要があるだろう。そもそも「SFアニメ」とは何なのか。
昨今のアニメは、恋愛ものからギャグ、日常系、時にはスポーツものですら、多かれ少なかれSF要素を持っている。異世界や異生物、ロボット、常人離れした能力といったものだ。ではそうした作品は「SFアニメ」なのだろうか?
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絶滅危惧種だったSFアニメの現在
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