新始動告げる『ゲンロン10』 思想家のしたためる「愛の実践」
2019.11.07
科学技術の進歩、特にIT事業の成長率が目覚ましかった2010年代。テクノロジーは常に生産性を向上させることで人間の生活を豊かにし続けてきた。しかし──。
人は技術のみによって、幸せにはなれない。多くの人がそれを実感するまでに必要な期間が、この10年という歩みだった。なぜ今、批評なのか。人文知は私たちに何をもたらすのか。
クリエイター
この記事の制作者たち
思想家・東浩紀さん。
美少女ゲームやアニメ、漫画、現代小説など、様々なを横断的に論じ、“セカイ系”や“データベース消費”といった時代を象徴する概念を提唱。「ゼロ年代」と呼ばれる時代のサブカルチャー批評を牽引する存在として活動してきた。
2010年には、株式会社ゲンロンの前身となる合同会社コンテクチュアズを設立し、現在まで続く出版機能を持った場づくりの運営に着手。
思想家やクリエイターらが日夜議論する「ゲンロン・カフェ」や、大学に代わる学び舎としての「ゲンロンスクール」といった事業を展開している。
自社で出版する批評誌『ゲンロン』はじめ2月に刊行されたばかりの『ゆるく考える』(河出書房新社)など、数々の出版社から単著を出す思想家として第一線で活動しながら、次世代の思想家や芸術家の育成を目的とした事業を推進する企業の経営者として、10年近く陣頭指揮をとってきた。
事業家であり思想家であるという、稀有な存在の東氏にうかがったのは、「なぜ、批評が必要なのか?」という命題だ。
※本インタビューは、東浩紀氏が代表取締役を交代する直前に行われた。その経緯は『ゲンロンβ32』などに詳しい
取材・執筆:須賀原みち 編集:新見直
目次
- シンギュラリティは宗教の終末論と同じ
- エラーなきマーケティングに、クリエイティブは宿らず
──東浩紀さんは近年、テクノロジーで社会をより良くすることには限界があり、その際に文学や宗教、哲学といった人文知が重要になってくる、とおっしゃっています。なぜ今、「文学や哲学が必要」とおっしゃっているのでしょうか?
東浩紀(以下、東) 大まかな前提として、2000年代は、情報技術革命が急速に社会を変えました。具体的には、SNSの出現が人々のコミュニケーションの形を変え、世界が「政治も社会も変わる」と期待した時代だった。
その一つとして、2010年には“アラブの春”(編注:SNSによって大きな動きとなっていった中東の民主主義運動)が起きた。
ところが、2010年代に入ると、特に2016年にトランプが当選したアメリカ大統領選に代表されるように、結局“SNSの時代”は“フェイクニュースの時代”だったことが明らかになった(編注:「トランプ当選にはフェイクニュースが大きく影響した」と言われている)。技術がいくら進展しても、嘘をばらまく人が増えれば単に嘘が増えるだけである、と。
「新しい情報技術が新しい時代を創る」ということを素朴に信じられない時代に僕たちはいる、という前提を共有するようになりました。
技術だけでは人間は変わらない。だから「人間はどう生きるべきか」という原点に改めて戻った方がいい、と僕は思っています。
──一方で、技術革新論と呼応するように、近年世界的にSFが注目されている流れがあります。ゲンロンも、漫画や芸術のほか、「SF講座」を開くなど、SFを重要なポジションに置かれているように思えます。『異セカイ系』を上梓した名倉編さんといった才能ある作家も輩出されています。その盛り上がりを、東さんはどうご覧になっていますか?

東 ゲンロンでSFを推しているのは、たんに僕が好きだからです。今の盛り上がりはSF好きとしては良かったと思いますが、シンギュラリティや人工知能のブームの余波が来ているだけかなと思ってます。
──東さんは「そもそもシンギュラリティは起こらない」と考えている?
東 起こらないと思います。
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