シライシユウコ インタビュー 星雲賞受賞クリエイターが語る、ネットの外で生きる方法

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  • 2020.12.21 19:00:00
シライシユウコ インタビュー 星雲賞受賞クリエイターが語る、ネットの外で生きる方法

シライシユウコさんが表紙を手がけた『SFマガジン2019年2月号 』(早川書房)カバーイラストより

SFジャンルにおける功績者を表彰する日本最古のSF賞「星雲賞」。その第51回アート部門を受賞したのが伊藤計劃さんの『ハーモニー』や野崎まどさんの『Know』のカバーイラストで知られるイラストレーター・シライシユウコさんだ。

幾何学的な背景の複雑な鮮やかさと、あくまで一つのパーツとして配される人物の絶妙なコントラストによって、宇宙船やメカといった従来のSF的なモチーフを用いずとも非現実感を漂わせる独自の画風を形成しており、SFジャンルにおいて絶対のポジションを築き上げている。

現代におけるイラストレーターといえば、pixivやTwitterを巧みに活用し、インターネットの世界や商業とは別の同人のフィールドで自らの価値を高めるのが主流。これまで連載で取り上げてきたイラストレーターたちの活躍にもそれは感じられるが、彼女のスタイルは大きく異なる。

現在pixivアカウントは運用しておらず、Twitterに絵を上げることはあるものの、積極的にフォロワーを獲得しようというスタンスでは決してない。本人はそこまでして人気になろうと思わないと言うが、ファン投票によって選ばれる星雲賞を受賞するほどの大きな支持を集めているのである。

現代においてインターネットがイラストレーターの主戦場のひとつであるのは確かだ。フォロワー数十万人クラスの人気イラストレーターたちが日々しのぎを削り合いながら、若き才能が一回のバズでスターダムに上り詰める光景も珍しくはない。

だがイラストレーションの世界はインターネットだけではない。その当たり前の事実を、SFというジャンル、小説の装画という世界で確かな地位を築く彼女の言葉のひとつひとつに思い知らされていく。

目次

  1. イラストレーターになったのはたまたま
  2. 人間を大きく描くという流行と、その恥ずかしさ
  3. 人間はあくまで一つのパーツ 宗教画からの影響
  4. 10年で劇的に変化した、SFとクリエイターの生きる世界
  5. 絵を描くこと以上に本が好き
  6. 仕事は、人と人。

イラストレーターになったのはたまたま

──シライシさんはどのような経緯でイラストレーターになられたのでしょう?

シライシユウコ 私はイラストレーターになるために生きていたわけではなくて、たまたま結果的にイラストレーターになったんです。絵を描くことは好きだったので美大に入り、クリエイティブ系の企業に就職し会社員として安定した日々を送ることを夢見ていました。

武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科という博報堂や電通に人材を輩出している学科に入ったので、私も企業に勤めるつもりだったんですが、最初に入った会社が合わなくてすぐ辞めてしまったんです。

その後暇をしていた時に、好きなイラストレーターさんが装画のお仕事をされているのを見て、なにも考えずに出版社に持ち込みをしました。その過程で早川書房さんに拾ってもらい、今に至ります。

──元々就職されていたんですね、それは希望通りデザイナー職だったのでしょうか?

シライシユウコ それが、全く別の映像系の仕事でした。イラストレーターとして仕事をするようになった頃は会社員をやりながらの活動だったんです。この5、6年でようやくフリーになったという感じです。

──出版社へ持ち込んだのはイラストレーターになりたかったからではなかったんですか?

シライシユウコ それが…なんで持ち込んだのかあまり覚えていないんですよね(笑)。その当時は就活をしていたのですが、なんとなく空いた時間に持ち込みをしてみた、という感じです。絶対にイラストレーターになりたい!っていう気持ちは無かったですね。

──では今のようにフリーになろうという思いもなかったのでしょうか?

シライシユウコ 1ミリもありません(笑)。本来は会社員として安定した人生を夢見ていたんですから…。

フリーになった理由は、同時にやっていた会社員の仕事とイラストの仕事がどっちも忙しくなってしまったので、どっちにしようか考えてイラストを選んだ、という結果です。犬を飼いたかったというのもありますけど…。

──それでもそのどちらかでいうならイラストを選ばれたんですね。そう思えるようなきっかけはあったのでしょうか?

シライシユウコ やはり伊藤計劃さんの『ハーモニー』のお仕事が大きいと思います。あれはイラストレーターとして二番目のお仕事だったんですけど、この仕事は面白い!と思うことができたので、確実に今に繋がっています。

ハーモニー.jpg

伊藤計劃『ハーモニー』(角川書房公式サイトより

──我々もそうですが『ハーモニー』のカバーイラストでシライシさんのことを知ったという人は多いと思います。今もSFジャンルの装画を描かれることが多いですが、もともとSFがお好きなのでしょうか?

シライシユウコ 実はSFというジャンルを知ったのは最近のことなんです。ジャンルを意識していたわけではなかったんですが、非現実的な世界や表現が出てくる話が好きで、絵のお仕事をするようになってから「こういうものがSFって言うんだ!」って知りました。

なので今思うと確かにSFやそれに近いものをよく読んでましたね。SFだから読むのではなく、なんとなく読んでいたものがSFだった、という感じです。

人間を大きく描くという流行と、その恥ずかしさ

──小説の装画や挿し絵を主な活動とされていますが、ならではの難しさなどはあるのでしょうか?

シライシユウコ あると思うんですけど…実は他のジャンルでの仕事経験が少ないので比較して考えることができないです。

──たとえばキャラクターデザインだったり、他のジャンルのお仕事の依頼はこないんですか?

シライシユウコ あまり無いですね。元々私は”キャラクター”を描くタイプのイラストレーターではなく、キャラクター性を殺し、ある意味”無個性”に近い人間を描くイラストレーターだと自覚しているのですが、お仕事をご依頼下さる方々もそれを察知してらっしゃるのかな?とは思います。

──唐辺葉介さんの『ドッペルゲンガーの恋人』ではキャラクターが大きく描かれていますが、これは編集の方からオーダーがあったそうですね。

シライシユウコ よくご存じで!(この記事に掲載するイラストは現在も市場に流通している書籍を優先しているので今回掲載していませんが、気になる方は調べてみてください)

画面の中に人物を小さく入れるのが私のスタイルだったので、そのオーダーをくれた星海社の太田さん的には、違う面を見たいということであえて人物を大きく描く構図にしてくれないか、と仰っていたような記憶があります。

えぇ!?大きく描くの?恥ずかしい!って感じではありました(笑)。

──「恥ずかしい」というのは、今まで経験のない描き方にチャレンジするからでしょうか?

シライシユウコ なんか…人間を大きく描くのって恥ずかしくないですか?

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