バーチャルセックス。

VR空間上で、ゴーグルやコントローラーを介して物理的には遠く離れた人間を相手に、一対一、あるいは複数で性的な快感を目指して性的行為を行う新しいセックスのかたち。コンピュータ相手のゲームではない。

だが、美少女アバターをまとった男性同士でバーチャルセックスを行うとは果たしてどういうことなのだろうか？ セックス（性別）とセックス（行為）はどう繋がっているのだろうか？ アバターのどこに欲情するのだろうか？ そもそもどうやって触れることのできない相手とセックスできるのだろうか？ そして、そもそもセックスとは何なのだろうか？

インタビュアーを務めた難波優輝は、近年存在感を増し始めた「セックスの美学」研究者の立場から、セックスの最先端にあるバーチャルセックスに強い関心があった。

「メタバース原住民」として、各種ソーシャルVRで初期から活動し、2021年にはメタバースユーザーに対して行なった大規模調査「ソーシャルVR国勢調査2021」を行い、実体験と調査結果を考察した『メタバース進化論』を上梓したバーチャル美少女ねむに、バーチャルセックスの今のリアルをお聞きする。

目次

1. なんでバーチャルセックスなの？
2. バーチャルセックスはいつ、どう始まるのか？
3. エッチなメタバースしぐさに、VR風俗サービスまで
4. 声、アバター。バーチャルなエロスはどこにあるのか？
5. バーチャルセックスのスタイルは3つに分類できる
6. ねむさんのバーチャルセックス指南　最中に絶対言っちゃいけないこと？
7. バーチャルセックスでの性感帯は？
8. ピロートークこそがバーチャルセックスの本質？
9. 社会のルールを乗り換える瞬間に、人類は立ち会っている
10. バーチャルセックスはセックスを民主化する

なんでバーチャルセックスなの？

バーチャル美少女ねむ

──ねむさんの活動の中でも、バーチャルセックスという領域は非常に人目を惹くトピックです。そもそも、ねむさんはなぜバーチャルセックスに興味を持たれたのでしょう？

バーチャル美少女ねむ　私の考える「メタバース」とは、これまでのゲームやシミュレーションにおける仮想空間と一線を画す「人生を送ることのできる」仮想空間です。そういう意味で、3大欲求全てに答える空間でないと「メタバースで人生を送れる」とは言えません。

いままでのデジタル技術は、数学的に表現できないものに関して弱かった。セックスは一番数字に置き換えられない。極めて人間的な、アナログ中のアナログのコミュニケーションです。

そういったアナログのコミュニケーションをデジタル空間上で行うことができる、というのがメタバースの革新的な点です。そこでは、そうしたアナログなコミュニケーションをいずれ誰でもデジタル空間でできるようになります。その人類の革新の現場を明らかにしよう、というのが動機でした。

3割がVRセックス経験あり　メタバースにおけるファントムセンス（VR感覚）レポート

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──ねむさんはスイスの人類学者リュドミラ・ブレディキナさんと「ソーシャルVR国勢調査2021」を実施されています。調査の結果にはどのような印象を持ちましたか？

バーチャル美少女ねむ　メタバースでも恋愛において「パートナーは一人だ」と答えた人が多かったのは意外でした。現実と違って、自分のアイデンティティが自在になるメタバースでは、複数のパートナーを持つことが多いんじゃないか？ と思っていたんです。

「ソーシャルVR国勢調査2021」Part2「お砂糖レポート」より

ただし、質問文で「パートナー」という言葉を使ってしまったために、無意識に一対一の「パートナー」関係が意識されてしまった可能性はあると思います。恋愛パートナーという一対一の関係に縛られず、複数の人とエッチなことをしている人は割りと多いんじゃないか？ という気はしています。面倒くさいので特定のパートナーをつくらない、という人もいるかもしれない。

バーチャルセックスはいつ、どう始まるのか？

──実際のところ、メタバースではどんなタイミングでバーチャルセックスが始まるのでしょうか？ 正直あまりイメージが湧いていないんですが…

バーチャル美少女ねむ　良い質問ですね（笑）。

ただ大前提として、そもそもVRChatなど現在一般的なほとんどのソーシャルVRにおいては、18禁にあたる行為は基本的に禁止あるいは制限されています。そのため基本的には限られたソーシャルVRサービスでしかセクシャルな行為はできません。

2021年に登場したドイツのChilloutVRというサービスで、ポルノ的な関わりを許可するオプションを選択することができるようになっていて、はじめてセクシャルな行為がソーシャルVR上である程度自由に行うことができるようになりました。

さて、セックスの始まり方に関しては人それぞれだとおもいますが……私のある知り合いのやり方を例に話をしましょう。グループで話しているとき、可愛い子がいるな、と思ったとします。でも2人っきりになる必要がありますよね。もちろん、いきなり「エッチしよう」と言うのはダメですよね。雰囲気づくりとしても失格だし、最悪ハラスメントにもなってしまうかもしれない。

そこで例えば「用事ができちゃった」と言って、ワールドから抜けます。そして同時に、気になっている子に「インバイト」（プライベートワールドに誘うための招待状）を送る。すると、「あれ、用事ができたって言ってたのに、どうして？」。そこでプライベートワールドに来てくれたら、「実は前から2人きりで話がしたかったんだよね」と、2人でゆっくり話し始める……。

──美しい流れですね……。

バーチャル美少女ねむ　もちろん、いきなり露骨にエッチなワールドには行きません。こういうのは雰囲気づくりが最重要です。

おしゃれなワールドに誘い「嘘ついて出てきちゃったから（さっきまで一緒だったみんなに）怪しまれてるかもね」などと雑談したりしながら、お互いの距離感を測っていきます。メタバースなので最初から距離感は近くなりがちなのですが、例えば、近すぎるだろ、というくらい雑談しながら近づいてみます。

いきなり触ったりはせず、お互いに距離を測りながら、いいかな？ という雰囲気になり、いちゃいちゃが始まる場合もあれば、始まらずに残念……となる場合もある。でも、現実世界で飲み会から2人で抜け出して… みたいなことと比較すると、だいぶ効率的だと思います。