Vol.2 「容姿革命」の本質
2019.06.11
※本稿は、2023年に「KAI-YOU.net」で掲載された原稿を再構成している
クリエイター
この記事の制作者たち
バーチャルYouTuber/ラッパーのオシャレになりたい!ピーナッツくんとバーチャルライバーグループ・にじさんじ所属の剣持刀也さんの2人による、一夜限りならぬ聖夜限りの祭典「刀ピークリスマス」。
クリスマスの夜に行われるコラボ配信の中、ピーナッツくんは毎年、剣持刀也さんへの愛を綴ったテーマソングを披露しています。
年を重ねるごとに上がるそのクオリティに、「刀ピークリスマス」を視聴するファンからの期待も高まるばかり。
ついに2022年の「刀ピークリスマスのテーマソング2022」は、剣持刀也さんが「ちょっと音楽性見せに来てる今回!」と笑いながらツッコみを入れるほどの出来栄えに。TikTokで大流行するまでになっています。
今回は、“HipなPop”を掲げラッパーとしても活動する筆者が、特にライミング(韻)をタイトに踏んでいた「刀ピークリスマスのテーマソング2022」1番のリズム・デザインを分析・解説。その評価の理由を紐解いていきます。
目次
- Q.ラッパーはなぜ韻を踏む? A.リズムをつくる/崩すため
- 1番Aメロ:“刀ピー”でリズムの転換点を明示
- 1番Bメロ:3連譜のリズムでサビへとタメ
- 1番サビ:「O・I・O・A・O」の5文字踏み
- ピーナッツくん「王道」のリズム・デザイン
そもそも、ラッパーはなぜ韻を踏むのでしょうか?
これは私見もありますが、ラップという歌唱法は音韻を揃えることでアクセントをつけ、それによって“リズムをつくる/崩す”ために生まれ、発展していったものだと考えられています(もちろん、文章表現・言葉遊びとして強調するという役割もあると思います)。
1970年代、アメリカのストリート文化をルーツとして誕生したラップの文化。約50年の歴史を経て数多の主義・流派へと派生していますが、その基本はビートに乗せてリズミカルに言葉を紡ぐことにあります。
ではリズムとは何か。やや抽象的な説明になってしまうのですが、リズムとは「同じパターンの周期的な繰り返し」。音楽においては、一定時間の間に似た音のまとまりが繰り返されることで、リズム(ビート)を生み出しています。
ビートに言葉を乗せる中、一定の周期で同じ母音の響きを発することでリズムをつくり、耳に残るようにする。あるいは、同じ母音の響きを起点にリズムを自然に崩して、飽きがこないようにする。それが、ラップにおけるライミングの役割です。
その前提に立った上で、「刀ピークリスマスのテーマソング2022」のリズム・デザインを見ていきましょう。
各パートごとに歌詞を引用していますが、本稿では、音韻やリズム・デザインをわかりやすくするためにひらがなで表記(英語などは響きの近い母音で代用)しています。
トラックには、BigBadBeatsが提供するタイプビート「Party」(外部リンク)が使用されています(ピーナッツくんは音楽的に最先端のビートを探してくるセンスも凄まじいです)。
まずはAメロから。Aメロの大枠は、16ビートを基本にしたヒップホップの王道スタンダードなもの(参考記事:USヒップホップの潮流 Migos以降のトレンド「Scotch Snaps」のリズムデザインとは)です。拍の区切りは「|」、16分休符を「□」で表記しています。
I'm gonna fadeaway
消し去ってきなよそのデータベース
ふたりでしてる これは穢れ
寝汗をかくGentleman&Gentleman|□□□□|□□□□|□□□□|あいごな|
「刀ピークリスマスのテーマソング2022」1番Aメロ(前半)より
|へだえ□|□□けし|さってき|なよその|
|でたべす|□□ふた|りでして|るこれは|
|けがれ□|□□ねあ|せをかく|ぜためん|
|ぜためん|□□えー|□□ぜっ|たいてき|
(実際にMVを流しながら上記のリズムを確認してください)
Aメロに入る1拍前(イントロ頭から数えて8小節目4拍目)から、勢いをつけるように食って入るピーナッツくんのラップ。
各小節、1拍目のド頭を「E・A・E(fadeaway、データベース、穢れ)」の響きで揃えてアクセントをつけています。フロウ(歌い回し)としても、この1拍目のド頭にアクセントが来ています。
リズム・デザインの観点から言えば、“消し去って~”“ふたりで~”“寝汗を~”と、各行の頭が同じ位置から始まっているのもポイント。1小節目から3小節目まで、同じパターンの繰り返しによってリズムがつくられていきます。
そして、3小節目の終わりから4小節目の頭を跨ぐのが、“Gentleman&Gentleman”という「E・A・E」の音韻2連打。1拍目にアクセントを持ってくるという流れを守りつつも、リズム・パターンを崩し、自然に次のブロックへと橋を渡していきます。
絶対的 刀ピーいまくるまる毛布
明日になれば消える魔法
闇夜照らした君のiPhone
No way 出荷状態にしとけよ|ぜためん|□□えー|□□ぜっ|たいてき|
|とぴーま|くるまる|もうふ□|あしたに|
|なればき|えるま□|ほう□□|やみよて|
|らしたき|みのあい|ほん□□|のーえい|
|□□すっ|かぞーた|いにしと|けよ□□|「刀ピークリスマスのテーマソング2022」1番Aメロ(後半)より
“絶対的”と食って入り、Aメロの後半に。前からの流れを活かし、フロウとしては、引き続き小節の頭(“刀ピー”“なれば”“らした”)にアクセントが付いてます。
特に“刀ピー”というキャッチーな単語は、文章表現としてメリハリをつけているだけでなく、明確にリズムの転換点であることをリスナーに示しています。
ライミングという観点から言えば、Aメロ後半の“まる毛布”(A・U・O・U・U)“魔法”(A・O・U)“iPhone”(A・I・O・N)は、同じ位置にあるもの、一見音韻が踏めていないように見える並びです。
しかし、“まる毛布”の“ふ”を子音しか発音しない、“魔法”の“ま”の後に16分休符を入れるなどの工夫を凝らすことで、可能な限り音韻の響きを揃えようとしています。
リズム・デザインとしては、Aメロ前半と同じく1小節目から3小節目まで同じパターンに揃えてリズムをつくり、4小節目でそれを崩すというもの。
これはあくまで筆者の考えなのですが、リズムを崩す王道のテクニックは、食って入るか、休符にするか。ここでは後者が使われ、“出荷状態にしとけよ”という(ツッコミどころも含めた)パンチラインに繋げています。
続きを読むにはメンバーシップ登録が必要です
今すぐ10日間無料お試しを始めて記事の続きを読もう
残り 2910文字 / 画像6枚
800本以上のオリジナルコンテンツを読み放題
KAI-YOU Discordコミュニティへの参加
メンバー限定イベントやラジオ配信、先行特典も
※初回登録の方に限り、無料お試し期間中に解約した場合、料金は一切かかりません。
様々なジャンルの最前線で活躍するクリエイターや識者を中心に、思想や作品、実態に迫る取材をお届け
様々な記事の中から編集部で厳選したイチオシ作品をご紹介
ラッパー/ライター/編集
現代の日本の音楽シーンを語るなら、ボカロ文化は不可欠。2020年代のボカロ曲において、音楽的な独自性はどこにあるのか? 柴那典さんが「MAJ2025」受賞候補曲から考えます。
ライター
『ブルーアーカイブ』の青い色彩設計、そしてエデン条約のストーリー。この2つを柱に日本のサブカルチャーがアジアにどんな影響を与えたか、韓国でどう花開いたかを紐解きます
ライター
ぶいすぽっ!所属の蝶屋はなびさん。普段から前向きな姿勢を崩さない彼女のひたむきさはどこから来ているのかうかがいました。格ゲートークも充実!
編集
語られざる、違法な海賊版トレーディングカードゲームの歴史。世界広しと言えども、この解像度でその歴史を紡げる人は、SF作家・ゲームコレクターである赤野工作氏しかいない。
編集
結局、同人誌って違法なの? 実在する「VTuber」の二次創作、もしかして肖像権侵害や侮辱罪に当たっちゃう? 令和版、同人文化への最新の法的動向を弁護士に根掘り葉掘り聞いてます。
編集
日本語ラップを、構造的に理解する──音楽としてでもライフスタイルとしてでもない、新しいヒップホップの解釈を提示してもらっています。
編集
オタク/ラップのトップランナーだからこそ語れる“ニコラップ”の世界。懐かしいだけじゃなく、今に接続される話になっています。
ライター・編集者
減らないVTuberの活動休止について、根本的な原因を九条林檎さんに聞きました。推しのVTuberがいる方は、ぜひ読んでもらいたい内容です。