MCバトルという料理は、ヒップホップという器を超えた──「BATTLE SUMMIT」レポート後編
2022.09.17
晋平太 俺もYouTubeをやってて感じるけど、Repezen Foxxって本当にすごいパワーを持っているじゃないですか。
そういう人たちがヒップホップとかラップで何かをやりたいっていうのであれば、俺に邪魔する権利はない。俺が関わることで何か良い方向に転がればなと思ってお手伝いしてます。
可能性の芽をつぶしてしまうのが一番良くないですからね。俺は彼らのことも知らない仲じゃないし、頼まれれば何かしてあげたい。
晋平太 「Rolling Loud」についても、マジでRepezen Foxxを日本のヒップホップの代表だって思っている人はいないんじゃないかな。彼らは、ラップを取り入れてはいるけどヒップホップという文化の本質的な部分とは違う表現をしてきてるわけじゃないですか。
もちろん彼らも、ラップがやりたい、ヒップホップがやりたいというのであれば、ある程度払うべき敬意はあるでしょう。
俺は、彼らもやっぱりラップやヒップホップが好きなんだと思ってるんで。彼らなりのやり方を通したいのであれば、最初は失敗もあるだろうけど、どうブラッシュアップしていくのかっていう話だと思います。
──それもある意味、ラップの普及によって起こるべくして起こっている衝突なのでしょうか。
晋平太 ラップの裾野が広がるのは素晴らしいこと。でも、広がっていった先にいる人たちに、ヒップホップっていう文化を強要することはできないとも思う。
こっちがいくらヒップホップの知識を届けても、向こうが興味を持っていないと受け取ってはもらえなくて。「これが俺らのやり方」って言われたら、それを否定する権利なんて誰にもない。
ラップの普及とヒップホップへの理解の両立は、死ぬほど難しいんじゃないかな。
俺自身は、さっきのアニメの動画とかもヒップホップだと思って紹介しているわけではないです。ただ確実に、ラップが好きでヒップホップの影響を受けているんだろうなと。そういう人ってたくさんいると思うんですよ。
俺もすべてを知っているわけではないけど、20年以上ヒップホップのことを考えながら生きてきたので。その知識や経験を伝えることで、ヒップホップというものを、マイルドにでもいいから知ってもらう。それが俺の活動の大きな意義かなと思うんです。
──ラップを技法として取り入れているだけのコンテンツと、ヒップホップ的なコンテンツには、どんな違いがあると考えていますか?
晋平太 こうしていればヒップホップだと言えるような定義はないです。
俺の感覚では、アフリカ・バンバータが提唱した「peace.unity.love&having fun」という概念に寄り添っているか、そしてヒップホップを通して世の中をよくしようとしているかが分岐点になっているのかな。
晋平太 言い換えるなら、先人へのリスペクトがあるかという話でもあって。ヒップホップは世の中を良くするものなんだと、そう信じて先人たちが積み重ねてきた歴史、その一部になるっていう意識を持っているかどうかが重要なんです。
──そういった観点で見ると確かに、ラップという技法を使ってつくられたエンタメコンテンツには、歴史を紡ごうという意識はないかもしれないですね。
晋平太 ただ、僕は人を楽しませるコンテンツも好きだし、歴史を全て知らないとヒップホップは成立しないのかと言われれば、そうではないんですけどね。
ヒップホップには、ラップにしろグラフィティにしろブレイキンにしろ、自分の思うかっこよさを表現する文化としての側面がある。自分が売れて、新たな才能が発掘される土台が出来上がるなら、それは立派に歴史を紡いでいることになるじゃないですか。
──先人への敬意の有無とは別に、みんなが自分のかっこよさを表現するのがヒップホップだと。晋平太さんの活動を通して、そうしたヒップホップという文化を万人に浸透させたいということですね。それは達成できていると思いますか?
晋平太 やっぱり簡単ではないですね。ヒップホップのかっこよさの中には、ハードなカルチャーも含まれています。
それが魅力でもあるんですが、そういうハードな部分を万人に理解してもらうのは厳しいでしょう。それでも、100人いたら1人くらいはヒップホップの魅力が強烈に刺さるやつがいるはず。
魅力が届いたことで、その1人は救われるかもしれない。そう思って俺は活動を続けています。
ストリートの文化を日本中に
──ヒップホップのマインドのすべてではなくとも、ラップという表現手法が国民全員に浸透してほしいという理念を掲げて活動されています。晋平太さんは、ラップのどんな部分がみんなに広まるべき魅力だと感じていますか?
晋平太 俺は、ラップはコミュニケーションの手段として優れているものだと捉えていて。
フリースタイルにしろ音源にしろ、ラップをするためには、まず自分が何を言いたいのかを見つめ直さないといけない。まじまじと自分を見つめ返す機会なんて、そうそうあるものじゃないですよね。
学生だったら、作文の課題とかで自分のことを考える機会はあるかもしれない。だとしても、作文なら先生に提出して終わり。わざわざ人に見せたりしないじゃないですか。
ラップなら表現の過程で歌うことになるし、それは必然的にクラスのみんなと共有される。同時に、発表の場ではクラスメイトのラップも聴くわけですよね。そうすると、ラップを通して自分のことを理解し、他人のことも理解できる。
しかも、今の時代ならネットにアップすれば、全世界にだって自分のことを共有できちゃう。だからこそ、すげーツールだなと思うんですよ。
俺もラップを教えるイベントとかに参加すると、老若男女を問わず、楽しいと感じてくれる人がたくさんいる。本当に誰でもできるようになるんです。
──晋平太さんは実際に小学校でラップの授業もされていますよね。小学生の反応はどうですか?
晋平太 反応もめちゃくちゃいいし、楽しみながら真摯に取り組んでくれていますね。ラップがクラスを1つにしているという実感があります。
──どんな授業をされてるんですか?
晋平太 まず自己紹介のラップを各自につくってもらって、クラスで共有するんです。その中からさらにグループに分けて、みんなで1曲をつくって披露してもらう。
まず個を見つめて、自分のことをリプレゼント※する。その次は、もう少し大きな共同体、班などをリプレゼントする。そのためには、自分たちの班がどういう特徴を持っているのか、みんなで一緒に考える必要が出てくる。そこでユニティが生まれるんですよ。
※リプレゼント:象徴する、代表するといった意味のrepresentから。レペゼンとも。ヒップホップでは自分の地元や人種、属性などを代表し、曲としてメッセージを表明することを「レペゼン」と表現する。ここでは少し転じて、共同体の前にまず自分で自分自身のことを誇り、表現してあげるという文脈で使われている。
晋平太 俺の仲間で毎晩サイファーしている親子がいるんですよ。小中学生の子どもと、さらに小さな子どもがいて、お父さんと毎晩サイファーで会話している。それってめちゃくちゃピースじゃないですか(笑)。
そういう話を聞くと、ヒップホップってマジですごいパワーを持っているんだなって感じますよね。事実として、俺はヒップホップに救われた。だからこそ、他の誰かの人生の助けにもなるかもしれないと思っています。
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