

私たちは、一回きりの生を生きている。
しかし(だから?)、私たちの望みは必ずしもそうではない。
サイエンス・フィクションをつくりあげた人々は、つぎのように思った。私たちはこの宇宙の万分の一も見ることなく死ぬだろう。私たちは電子の浜辺の砂粒であり、世界から与えられたごくわずかな現象の分け前を生き、静かに消えるだろう。私たちのもつもののうち最高の望遠鏡でも、まだ宇宙を解き明かすには弱く、私たちのもつもののうち最高の顕微鏡でも、長さの概念が消失していく倍率にはほど遠い。私たちはごくわずかのみを知り、ごくわずかだけを生きるだろう。
この予想は正しかった。私たちは、これがいったい何なのか皆目見当もつかないまま、これを続けている。明日もそうするし、明後日もそうするだろう。しかし百年後には、そうしていない。百年後には、私たちは消えてしまっている。さまざまな教えの多くは、そういうものである、と言う。たしかに空しくはあるが、ひとまずは、あらゆるものがこうあることに感謝することだ、と教えは言う。それもまた、感覚的に正しいことだ。
しかし街に出て陽の光を浴びながら、あるいは月の光を眺めながら、ああ、私はきっと死ぬまでにこの太陽の光しか浴びられないのだ、私が死ぬまでに見る月はこの月ひとつかぎりなのだ、と思うことは、じつに悲しい。私たちは、べつの太陽、べつの月を、けっして感じることができないのだ。
もちろん、ないよりはずいぶんいいとはいえ、これっきりだというのは、じつに情けないことだ。私たちはここまでがんばっているのに、たったひとつの太陽しかないのか。私たちはここまですばらしい種族であるのに、たったひとつの月しかないのか。宇宙に対して異議を申し立てたい。誰がこんなルールを定めたのか。もうすこしましなルールであればよかったのだ。そう、たとえば、なんどでもやりなおせるだとか、同時に複数の自分でいられるとか……。
執筆:藤田祥平 編集:新見直
目次
- 美しき絵空事『Stellaris』
- 私たちの望み、見果てぬ夢
美しき絵空事『Stellaris』
『Stellaris』において、プレイヤーは、まず「探査船」をほかの太陽系に送るところからゲームをはじめる。現実では数秒だが、ゲーム内の時間では数ヶ月の移動のあと、探査船は太陽系を走査しはじめる。走査するのは、恒星と惑星の組み合わせ、どのような資源が眠っているのか、将来的に植民可能な惑星はあるか、といったことだ。
十もの太陽系を走査しおえたとき、やはりこの宇宙には私たちだけしかいないのか、べつの知性は存在し得ないのか、とあなたの母星の市民は失望しはじめる。しかし、あるところで、あなたの探査船は、なにかに遭遇する。なんとも形容しがたい、巨大な魚のような、なにかである。それは有機物のようであり、生命体のようであるが、だとすればどんなしくみできびしい宇宙環境に耐えられるのだろう。それは太陽系を通り過ぎてゆき、突如として、FTL〔ファスター・ザン・ライト〕ジャンプを行う。
あなたはあわてて彼らのあとを追う。つぎの太陽系に調査船が入ったとき、あなたはメッセージを受け取る。
「異種生命体とコンタクトしました。」
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