

ゲームライター・小説家の藤田祥平氏による連載「キルをしている暇はない」。
最終回は、自らを生かすカウントについて。

もうどれだけの人を殺してきたかわからない。はじめから数えていたわけではない。
いったい、どれだけの弾を撃ったのか。何万挺のトンプソン、MP40、モシン・ナガン、M16、ドラグノフ、VSS、MP5にRPKにASVALにFALにM4A1にカラシニコフ、M700、RSASS、TX-15、K&H G11を、この手に握ってきたのか。
二次大戦の東部戦線で、一次大戦のアフリカ戦線で、ベトナムで、中東で、チェルノブイリで、沖縄で、私はいったいどれだけの人を殺したのか。
おそらく、いままで食事をした回数、排泄をした回数、セックスをした回数、入眠した回数、歯を磨いた回数、手を洗った回数、風呂に入った回数、愛を打ち明ける手紙を書いた回数、それらすべてを足し合わせた回数よりも多いだろう。
日に五十人は殺したのだ。十代のころはもっと。まるでそれが正当なことであるかのように。野球のバットを素振りするように、サッカーボールをリフティングするように、私の五感のいずれかのうちに入ってきた誰かを、私は殺してきた。
執筆:藤田祥平 編集:新見直
目次
- 撃たれても、肉体は消滅しない。しかし
- 私を生かす、カウント
撃たれても、肉体は消滅しない。しかし

『Return to Castle Wolfenstein』(Activision, 2001)
これだけの殺しのあとでは、個別の殺しに対してなんらかの所感を得ることはむずかしい。十五年前のアフリカ戦線のオアシスの町で、トンプソン・サブマシンガンを乱射していた少年の私に言ってやりたい。いま、おまえは人生ではじめて人を殺したが、これからのおまえの人生はその快感に引きずられることになるだろう。おまえはこの原体験を追い求める戦場の亡霊となって、世界をさまよいつづけるだろう。
殺した量とおなじだけ、殺されもするだろう。数十秒、あるいは数分、あるいは数十分の待ち時間のあとに、ゲームシステムが背中をぽんと叩いて、戦場に立つ。電気街の店のなかで、椅子、机、ディスプレイ、コンピュータのパーツ、キーボード、マウスを物色したものだと思っていた。実際には、コンバット・ギアを、ヘルメットを、タクティカル・ヘッドフォンを、さまざまな銃とアタッチメントを物色していたのだ。
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人を殺す機械
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