「地雷原を全力疾走しているよう」早川書房 “ヤバい“新鋭SF編集者の仕事術

Interview

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  • 2020.04.09 19:45:00

採用面接で『ファイトクラブ』復刊企画の持ち込み、『SFマガジン』百合特集をほぼ一人で企画、『なめらかな世界と、その敵』などヒット作を生むなど、活況を呈しつつあるSFで注目を集める、SF編集者の物語の紡ぎ方とは。

「地雷原を全力疾走しているよう」早川書房 “ヤバい“新鋭SF編集者の仕事術

劉慈欣の『三体』やテッド・チャン『息吹』、伴名練『なめらかな世界と、その敵』など、近年SF作品の話題作を次々と発表している早川書房。その中、現在若手SF作家のヒット仕掛け人として注目されている編集者が、早川書房の溝口力丸さんだ。

今年創刊60周年を迎えた『SFマガジン』と書籍の編集を担当する溝口力丸さんは、同誌の2019年2月号「百合特集」をほぼ一人で企画し、創刊以来初となる3刷増刷という快挙を達成。担当した宮澤伊織『裏世界ピクニック』をアニメ化決定まで押し上げたことでも知られている。Twitterでも早川書房のアカウントとは別に、自身のアカウントを運用。「入社面接時に『ファイト・クラブ』再販の企画書を提出した」といったエピソードを語ったり、自身の好きな作品についてオタク的な考察を積極的に発信したりと、並々ならぬ熱意を持った編集者でもある。

そもそもSF作品の編集とはどういった仕事なのか? SF作家とのやりとりはどのように行われ、作品が生み出されているのだろうか? 国内SFのキーパーソンとも言える溝口さんに仕事術について聞いた。

インタビュー・執筆:ゆりいか 撮影・編集:和田拓也

読者に刺さる作品を生む、SFの編集術

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溝口力丸

──「編集者」といっても、作家さんとのコミュニケーションが中心の方から、ほぼ自分で制作全体を担当されている方までさまざまです。溝口さんの場合は、どういったお仕事がメインでしょうか?

現在は、隔月発刊の『SFマガジン』編集と書籍の編集を受け持っています。ここ2年ほどは偶数月に雑誌を1冊制作して、残りの時間で本を編集するというルーティンですね。年間通すと書籍は10〜15冊ほど出しているはずです。慣れてくると、編集できる数もよりこなせるようになるのですが、そうなると仕事で益々自分の首を締めることになる感じです(苦笑)。

──作家さんとは普段どういったやり取りを行っていますか?

私の方から「〇〇のような作品を書いてください」とお願いすることはなくて、あくまで作家さんが書きたいと思っているもののを汲み取って調整していますね。なので、最初の打ち合わせではプロットのような企画書を共有して、対面でお話しながら進行することが多いです。

──溝口さんは作家の物語づくりにどの程度介入し、指示やアドバイスを入れるのでしょうか? もちろんケースバイケースだと思いますが、漫画であれば作家と二人三脚で作品を作り、いわゆる小説の作家にはあまり口出しをしないなど、ジャンルによって編集者と作家の関係性も異なるイメージがあります。

私が担当する作品は比較的、キャラクターが活躍するタイプのSF作品が多いので、キャラクターをどのように立てるべきか、物語をどう膨らませていくかを相談することはありますね。ただこちらから指示するというより、作家さんが物語づくりに詰まったら相談してもらうという感じです。例えば、物語の今後の展開について迷っているときは、こちらが「AパターンとBパターンがありますよ」とアドバイスします。

すると、作家さんの中には「編集者が想定しているような展開を裏切っていきたい」という方もいらっしゃるので、「わかりました!」と言いつつ全然違うCパターンの展開を持ってくる(笑)。こちらとしては、それで面白い展開になるならそれで良くて、編集者の意見はたまに採用されるくらいのものです。こうしたやり取りを行うことで、アイデアが色々と出力されること自体が大事なので。

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──ハヤカワのSF系ならではの編集方針はあるのでしょうか?

あまり NG を出さないという特徴はあるかもあるかもしれません。例えば伊藤計劃さんの『虐殺器官』が分かりやすいと思いますが、弊社のSF作品は内容的にも尖ったものが多いんですよね。読者一人ひとりに刺さるような作品づくりを目指しているので、他のレーベルだと尖りすぎていて出せないような企画でも、拾っていくケースは多いかもしれません。

──あくまで作家さんの自由な創作をフォローをしながら進行していると。

私たちがやっている仕事は、基本的に0から1を生み出すわけではなく、1を10にするようなものだと思っています。どなたかが「編集という仕事は媒介になることだ」ということをおっしゃっていましたが、作家さんの持っているエネルギーをどのように扱って世の中に広められるのかを考えています。

また、編集部内での企画会議では「この作品はどのジャンルが好きな読者層に刺さるのか」を話し合いつつ、表紙や帯、宣伝方法などを決めていますね。もちろん作家さんのブランディングイメージもあるので、どうすれば読者と作家の両方にプラスになるかを想定しながら、売り出し方を計画しています。

──読み手と作家、双方の立場から考えているんですね。

今だと作家さん自身がセルフパブリッシングで作品を公開できるじゃないですか。そうなると、こちら側も早川書房というフィルターをつけることで、どれだけ作品を世に広められるのかが重要となってきます。そのために、作家さんのこれまで発表した作品の傾向から文脈を作り、読者に分かりやすく紹介する必要があると思います。

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SF編集者は「専門性」とどう向き合う?