若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察
2022.07.31
かつてないほど変化する社会とメディア環境で言葉を紡ぐ編集者たち。今回は、世界各地に散らばる個人のありようを緻密なストーリーテリングで束ね、若い読者から支持を集める「HEAPS Magazine」。HEAPSの「見逃さない」コンテンツづくりを編集長 SAKO.Hに聞く。
クリエイター
この記事の制作者たち
アメリカ・ニューヨークに編集部の拠点を置く『HEAPS Magazine』。
ニューヨークの裏路地を牛耳っていたギャングの素顔を暴く連載、“荒廃した精神の墓場“と呼ばれる刑務所で働く精神科医の備忘録など、エッジの際立つコンテンツを日本の読者に発信し続けるウェブマガジンだ。
一見、これらのエッジの聞いたコンテンツが目を引くHEAPSだが、その核にあるのは大切なものを「見逃さない、見落とさない、見ないふりをしない」こと。
「カルチャージャーナリズムで社会を見通す」を標榜し、「ニュージャーナリズム」の生き字引こと文豪 ゲイ・タリーズ、カニエ・ウェストやヴァージル・アブローとコラボするテック界の超新星アイドリス・サンドゥといったカルチャーのキーマンに迫り、路上に佇むキャンディー屋やストリートの靴磨き商といった個人のミクロな人生訓や哲学から、フェミニズムや人種問題などの社会問題まで誠実に伝える。
そんなHEAPSの編集長を2015年から務めるのがSAKO.Hだ。24歳で編集長に抜擢されて以降、HEAPSは世界各地に散らばる個人の多様なありようを緻密なストーリーテリングで束ね、そのコンテンツの質の高さでジェネレーションZやミレニアル世代の読者から支持を集めている。カルチャーメディアに関わるものであれば一度はHEAPSを耳をすることがあるかもしれない。
しかし編集部がアメリカに拠点を置いていることもあり、その実態を知るものはあまり多くない。今回は、彼らがカルチャーを通していかに社会と読者を接続しているのか、HEAPSの「見逃さない」コンテンツづくりをSAKO.Hに聞いた。
インタビュー・編集:和田拓也 構成・執筆:本田悠喜
目次
- 「時代=若者」の観念に幅を 道端のリアリティとしての「ストリート」
- 元イタリアンマフィアの自宅、数時間居座り”キッチン拝見”
- “共感”の前に、“てめえ”はどうだ? いま「パンクス」を取り上げる理由
- 時代からこぼれおちる、「主観」を見落とさない企画づくり
- チャイナタウンを追いかけた写真家、旧ソ連・元核実験場のグラフィティ──HEAPSはどう切り取ったか
- 本人が話したいことを話すだけなら、SNSでいい
- NY在住7年 「それでもこの都市ではずっとアウトサイダーなんです」
- 「こういう社会がいい」という発信はしない
──HEAPSのコンセプトを教えてください。
SAKO.H 「カルチャージャーナリズムで社会を見通せるストーリーを届ける」が、媒体の方向性であり目的です。ジャーナリズムの視点で質問し、話を聞き、 カルチャー誌の視点で企画を作っています。
──HEAPSには「DON’T BLINK ドント・ブリンク」(瞬きをしない/見逃さないの意)というコピーがありますよね。この言葉にはどういう意図があるんですか?
SAKO.H まずこの言葉は、2019年に亡くなった写真家 ロバート・フランクのドキュメンタリーのタイトルからきています。彼は最も偉大な現代写真家の一人だと思いますが、一貫して市井の人を撮り続けました。特別な名前などつかない生活者たちの姿を捉え続けたんです。
それは、HEAPSがやりたいことと同じ。世の中で公的に語られる人というのは、社会に影響を与えた人や今でいうインフルエンスを持っている人たちが多いですが、それ以外のところにもちゃんとピントをあわせたい。どんなに小さくわかりにくいことで華がなくても、 大切だと思うことは、見落としたくないし、見逃したくないし、見ないふりをしたくない。それが根底にあります。
世の中ではハテナかもしれないしわけのわからないものかもしれないけれど、「書き手・編集者である自分たちが、いい・超好き・大切」と思ったらそれを見逃さないようにしよう、という作り手である自分たちへのリマインダーでもありますね。
──HEAPSはキャンディー屋、八百屋、ピザ屋をローカルで何十年も営むおじいちゃんや、路肩の靴磨き商、“ニューヨークのコンビニ”であるローカルデリ事情など、一般のかたがたや「おじいちゃん」をよく取り上げているのが印象的です。
──多くのひとがイメージする「ストリート」、つまり若いひとの新しい価値観やビジュアルとはかけ離れているんだけど、ストリートから本質的なものを学べる。「ストリートカルチャー」や「ローカル」「時代」のようなものをすごくインクルーシブに語っていますよね。
SAKO.H カルチャーを語るなら時代性は避けられないトピックだと思うんですけど、基本的に若者にスポットライトが当たりますよね。でもわたしたちは、「ストリート」は若者のものというより、道端のリアリティだと思っています。その時代の解釈を考えるなら、ああいうおじいちゃんたちは違った意味で純度を持ったもうひとつのリアルだから、取りこぼせない。「時代=若者」という観念に幅をもたせたいんです。
──一般人とはかけ離れた存在、例えば元ギャングなどのアウトサイダーも取り上げていますよね。
SAKO.H ギャングの人たちはHEAPSの編集部員Rが取材をしているんですけど、彼女はギャング界隈の会合にも参加するし、パーティーにも誘われるし、お葬式にも参列するしで、すごいです。極道俳優のドミニクも完全にその会合にいたうちの一人ですね(笑)。
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