ゆるふわギャングNENEの抱く“空洞” ロラン・バルトを経由してモードを問い直す

Review

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  • 2020.11.17 21:00:00

ゆるふわギャング、そしてNENEはなぜ、越境する存在なのか?

彼女のモチーフに共通する“空洞”から、ロラン・バルトを経由し、そのスタイルを感じ直す。

ゆるふわギャングNENEの抱く“空洞” ロラン・バルトを経由してモードを問い直す
「車内ではだいたいいつもビートしか流してないんですよ(笑)。基本的に全部車の中で作ってます」「鼻唄を歌いながらね」Via CDJournal CDJPUSH

ゆるふわギャングの曲、NENEの曲は、その多くがドライブ中に車中にて生み出されている。カーステレオで鳴り続けるビートに乗って、車は進み、景色を変え、繰り返し続ける運動の中で最高にサイケデリックな曲たちが生まれる。車はアトリエだ。誰にも捕まえられない、密室の、アトリエ。

まさしく車に乗った彼女をとらえるビジュアルがアートワークされたNENEのソロデビューアルバム『NENE』を筆頭に、彼女の作品には、車窓から眺める風景が心地よく刺激的な音像としてパッケージングされている。真夜中にドライブしている時のエモい心情、「まじくだんない/まだおわんない/生きる三回/先端走ってる/暗い景色を裂く」(ゆるふわギャング『Palm Tree』より)というリリックに見られるような、やり場のない想い。

車というアトリエは、熱狂と倦怠を交互に繰り返す空間なのかもしれない。『Palm Tree』のMVで描かれている通り、昼夜問わず、車は様々な表情を見せるのだ。華麗な、軽薄な、淫靡な、挑発的なその表情は、彼女の圧倒的な存在感とともに、私たちをどこまでも運んでくれる。

ゆるふわギャング "Palm Tree"

目次

  1. NENEが着飾る世界観
  2. 日米で同時期に生まれた“ゆるふわ”なサウンド
  3. “空洞”というモチーフ NENEの“モード”性の正体
  4. 越境する存在

NENEが着飾る世界観

「私は小さい頃から自分は絶対にスーパースターになると思ってた(笑)」(Via 朝日新聞デジタル&M)と述べるNENEのカリスマ性は、一体どうやって醸し出されているのだろうか。

彼女は、国内ラッパーの中でも独自のクリエイティブなポジションを築いている。ゆるふわギャングとしての初のミュージックビデオ『Fuckin' Car』がDiploにツイートされたことで海外から火が点き、2017年のファースト・アルバム『Mars Ice House』は多くのメディアで支持を集めた。

時にはNew York TimesのT Magazineに扱われ、時にはBeats by Dreやagnès b.などのブランドとコラボする。モード誌・カルチャー誌はキレのあるフォトグラファーとスタイリストを彼女らのシューティングにぶつけ、その度にゆるふわギャング、そしてNENEの鮮烈な世界観が誌面をジャックする。行く先々で彼女自身がモデルになりきり、新たな時代の手触りをプレゼンテーションしてくる。

彼女から感じ取れる独特のセンスは、ラッパーとしての才覚に加え、そのたたずまいによって醸成されている部分も大きいのではないだろうか。SALU『夜に失くす feat. ゆるふわギャング』での煌びやかなドレス、ゆるふわギャング『Sad But Good』での女優コーデ、NENE『High Time feat. Ryugo Ishida』でのマニッシュなスタイリング。MVで見せる彼女の衣装は、音楽を映し出す鏡として、より一層作品の魅力を増幅させている。オートチューンによるその声が空気を伝い震わせるように、甘くゆるやかに。

SALU / 夜に失くす feat. ゆるふわギャング (Ryugo Ishida, Sophiee)

日米で同時期に生まれた“ゆるふわ”なサウンド

しかし一方で、彼女がただのハイプなスターではなく、類まれな実力を持ったミュージシャンであるということも、誰もが知るところだろう。

Psychedelic、Chill Out、Spacy、Trippy…ゆるふわギャングやNENEの音楽を形容するにあたり、これまで様々なワードが駆使されてきた。今思えば、2016年~2017年時点で、トラップの曲構造を音楽性の基盤に持ちながらそのような評価を受けるミュージシャン自体が極めて珍しい存在だったはずだ。本来、トラップとはもっと緊張感に溢れ、重々しく、直情的な音楽だった。

転換点は2015年、Lil Yachtyの登場である。

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NENEが惹かれる“空洞”というモチーフ