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  • 2020.09.22

「まじでお前誰?」変身し続けるAwich劇場

90年から現代に至る「フィメールラッパー」という現象を紐解く連載。

2回目は、今最も象徴的な存在であるAwich(エーウィッチ)という表現者について。

「まじでお前誰?」変身し続けるAwich劇場

クリエイター

この記事の制作者たち

芸能をするために生まれてきた、としか言いようのない人がいる

生きることと表現することがつながっていて、どんな環境で過ごそうが必ずショウビズの世界にたどり着くであろう人。例えばそれはBeyoncéであり、Rihannaであり、彼女らにとって生きることは歌うこと、演じること、つまり身体表現そのものである。ゆえに、表現者としての星のもとに生まれた者たちは、そのパフォーマンスに宿る身体性の迫力でもってアスリートにも接近する。

であるならば、果たして、表現者を表現者たらしめているもの──アスリートでもなく──とは一体何だろうか。それは、「装うこと」である。「変身すること」と言っても良い。ギターのエフェクト、跳ねたベースの音、ピアノの旋律、衣装や美術、表現者は自らと対話しながらそれらを駆使し変身を重ねていく。

表現することは移ろいゆくことであり、だからこそ優れた表現は多種多様な見方・解釈を生む。表現者としての星のもとに生まれた者は、自身を何度も移ろいさせ、生み出した作品の価値を時代に合わせ多様に変化させ、世の中に多くの価値観や問いを創出する。

そして、繰り返すが、表現者にとってそれは生きることと同義である。生きることで大胆に変身を重ね、社会に揺さぶりをかけていく。彼女たちが生きることに対して、世の中は熱い視線を向ける。ただ生きて変身し続けることがそのまま芸術となるというのは恐ろしいことでもあり、時にそれは表現者側からしてみれば「売られてない喧嘩も買う」し、「まじでお前誰?」(『WHORU? feat.ANARCHY』より)と思うこともあるだろう。

Awich - WHORU? feat. ANARCHY (Prod. Chaki Zulu)

Awichは、そのような才能を授けられた稀有な存在である。彼女が生きることはそのままパフォーマンスとなり、歌となる。生きること、変身することで生まれた感情が声の肌理(きめ)として生成され、空気を破る。私たちの鼓膜を逆なでするその肌理は、その場で変化を続けながら、ぬるぬると私たちにまとわりつく。Awichの音楽は、しつこい。生きることそのものをパッケージングしているので、それゆえに、聴く者をずっと追いかけてくる。

執筆:つやちゃん 編集:新見直

前回の記事

目次

  1. 2017年の夏、街に溢れた“過剰”
  2. トラップマナーからアーバンなショーへ
  3. 詩を書くことだけはやめなかった10年
  4. 「まじお前誰?」を響かせる声の肌理
  5. 2020年に顕現する、Awich劇場

2017年の夏、街に溢れた“過剰”

トライバルなダンスホールレゲエのリズムに艶めかしく太い歌声が乗る『REMEMBER feat.YOUNG JUJU』や、ただごとではない空気感を醸し出す挑発的なトラップ・ナンバー『WHORU? feat.ANARCHY』がクラブフロアとストリーミングを席巻していた2017年の夏、その両曲が持つ表現の幅に驚きつつ、満を持してリリースされたアルバム『8』を聴いた時の興奮を、私は今でも鮮明に覚えている。

記録的な猛暑に突入し始めたその年の夏、街にはじわじわと“過剰さ”が戻ってきていた。ファッションでも、デザインでも、インテリアでも、長年続いた肩肘の張らないエフォートレスなムードは残しつつも、新たに過剰にデコラティブな波が街全体に押し寄せてきていた。大きく主張し始めたサンセリフ体のロゴ、カラフルでボタニカルなプリント。

渋谷・神南の古着屋はインバウンド需要に向けてFear of GodやOFF-WHITEを大量に入荷し始め、ZARAではGUCCIのクリエイティブ・ディレクターであるミケーレの分身が花柄シャツの量産体制に入り宇田川町店の店内に草木を生い茂らせていた。その間で、渋谷PARCOはリニューアルのための休業に入っており、PARCO不在の街でじわじわと、しかし確実に景色が変わり始めていた。瞬時にスクロールされるInstagramのフィード上にて、数多くの投稿の中で埋もれてしまうことを極端に恐れた人々は、過剰さを大胆に演出するようになっていた(ストーリーズ機能は当時まだ搭載されたばかりで今ほど浸透していなかった)。

だがストリートミュージック界隈では、“過剰さ”はゼロ年代末のニュー・エレクトロ~フィジェット・ハウスから10年代前半に盛り上がったEDMという試みで散々消費され尽くしたばかりであり、私は街なかで、Instagramで、それらを見るたびに毎度Calvin Harrisの『Summer』を聴いているような既視感に陥り、ストリートミュージックとストリートファッションの微妙な歯車のズレをむずむずしながら感じていた

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