若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察
2022.07.31
言葉は、〝意味〟だけを伝えるものではない。
フィメールラップにおいて「女ことば」やモチーフは、どのように扱われてきたか。その変遷は、時代を映す。
チカーノ/ウェストコーストシーンで絶大な人気を誇りフィメールラッパーの先駆的存在でもあるMoNa a.k.a Sad Girl。彼女が今年リリースしたニューアルバム『YELLOW ‘N PROUD』は、長年培ってきた彼女のスキルとリスナーへの愛が詰め込まれた集大成のような作風で、聴く者──特に女性をエンパワーメントする気概を感じる熱量の高い作品である。
収録曲『Onnanoko』で、スウィートなビートに乗って彼女はこう歌っている。
「ネイルの予約にヘアサロン/次はどうしよう/気になるのは新作のハイライト/メークブラシも洗って干して/ピンクの睫毛もそろそろ替え時ね/頭の中はこんな調子/女の子の頭の中はこんな調子」「綺麗だねよりももっと/褒めてほしいよ存在を/僻んで妬んでるんじゃどうしようもないね/目の前の幸せだけ守ってればいい」
MoNa a.k.a Sad Girl『Onnanoko』(2021)より一部引用
MoNa a.k.a Sad Girlを慕う女性リスナーは多く、どこか姉御肌のような立ち位置を築いている彼女であるが、この曲では『Onnanoko』というタイトルでメイクに関する女性の日常が歌われる一方で、〝綺麗〟よりも〝存在〟を褒めてほしいと切実に訴えられる。
それらのことばが「~よ」「~ね」といった柔らかい口調で発されることで、優しげで甘く切ない後味を残す。
言語学者の中村桃子は、著書『女ことばと日本語』(岩波新書、2012)で「女ことば」が遭遇してきた時代の背景について次のように述べている。
江戸時代には、女性が使っていたさまざまな言葉づかいの中から女房詞を選び、女らしい話し方の規範を具体的にするというプロセスが観察されました。同様に、明治時代には、女子学生が使っていたさまざまな言葉づかいの中から「てよだわ言葉」を選び、「女学生」の表象として「女学生ことば」に変換するというプロセスが見られます。つまり、女ことばを作り上げてきた重要なプロセスのひとつは、多様な女性の言葉づかいから取捨選択したものを、女ことばイデオロギーを補強するために利用するという手法なのです。
中村桃子『女ことばと日本語』
フィメールラッパーがリリックを書くのに駆使してきたことばにも、そういったイデオロギーを支えてきた“女ことば”が含まれる。しかし、彼女たちが使う柔らかいことばが日本語ラップの新たなニュアンスを形作ってきた歴史があることもまた事実だ。
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