日本が歩んだヒップホップとギャル文化の結晶 “病み”をアップデートするZoomgals

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  • 2021.02.16 20:00:00

2020年代に産み落とされたZoomgals。

彼女たちは、日本が歩んだヒップホップ文化とギャル文化との結晶である。

日本が歩んだヒップホップとギャル文化の結晶 “病み”をアップデートするZoomgals

その前代未聞のギャルサークルは、2020年3月20日、ギャルラッパー・valkneeがTwitterにポストしたツイートからゲリラ的に始まった。

Marukidoが反応する。田島ハルコが手を挙げる。なみちえASOBOiSMあっこゴリラへとバトンがまわる。

自然発生的につながった彼女たちはギャルサークル・Zoomgalsを結成し、その2か月後、コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言下においてデビュー曲『Zoom』をリリース。

同じくvalkneeの呼びかけにリプライしていた映像ディレクターの大平彩華が撮ったMVが公開されるや否や、大きな話題を呼んだ。

Zoom - valknee, 田島ハルコ, なみちえ, ASOBOiSM, Marukido, あっこゴリラ

久方ぶりに遭遇したフィメールラップのマイクリレーと、繰り出される新感覚のリリック、ヒップホップのコンテクストを行き来する鋭い歴史観(「あたし作る/ギャルの証言 by valknee」!)、際立つそれぞれのキャラクターと多彩な色使い、Zoom画面を模したトリッキーな演出、それらのあまりに過剰な情報量に面食らってしまったのは私だけではないだろう。

目次

  1. Zoomgalsが見せた、圧倒的な情報密度の更新
  2. ギャルは、ラップを理解できない対象?
  3. ラッパーから贈られた、ギャルへのエール
  4. ギャルが採用した“ハイブリーチ”という生き方
  5. ギャルはILL 病と解毒

Zoomgalsが見せた、圧倒的な情報密度の更新

状況は、続いてドロップされた『生きてるだけで状態異常』で一層の加速を見せる。多種多様な思想を持つメンバーが、それぞれの負の感情をリリックに乗せ波状攻撃を展開する。その生々しさ、“弱さを吐露する強さ”がブーンバップ調のトラックに乗る。

長らく続いたトラップ起点のトレンド──リリックとトラックを削ぎ落とし前例にとらわれないゆるく自由なフロウで新たなリズムを生み出す、ミニマルリズム的試み──が成熟を見せるシーンにおいて、音楽としても映像としても多くの情報量を詰め込んだアプローチは、オルタナティブな次の一手として極めて批評的な機能を果たすことに成功した。

Zoomgals - 生きてるだけで状態異常(MV)

Zoomgalsの快進撃は三作目『GALS feat.大門弥生』において決定的となった。「寿蘭ちゃん一生崇める/みほなはマリア/うちら誰かの所有物じゃねえ/1人で立ち手つなぐ〜!」というリリックで伝説のギャル漫画『GALS!』が参照され、MVでは社会学者の宮台真司までもが登場する。90年代の引用が果たされたあと、大門弥生は「は?ギャルの鉄則?なんてあるようで無いし好きにやりや」と締める。

Zoomgals - GALS feat.大門弥生(YAYOI DAIMON)

ところが、本MVで映されているのは、90年代の元祖ギャルがまとっていたあのコーディネートではない。誰一人として重なることのないばらばらの装い、独自の主張、そして一本軸が通された「好きにやる」という美意識。

引用された漫画『GALS!』は、90年代末という時代に連載されながらも、当時いわゆるギャルらしくない子に対して“ギャルかどうかはお前が決めろ!”と指南する先進的な漫画だったことを忘れてはならない。

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藤井みほな『GALS!』 Via Amazon

約20年の時を経て、Zoomgalsは、『GALS!』で提示された価値観を受け継ぎながらも、“マインドこそがギャルをギャルたらしめている”という再定義された昨今のギャル像を彼女たちなりの表現で描いている。

男性に限らず大勢の女性の演者も競い合うようになったこのラッパー戦国時代において、女性というだけで“フィメールラッパー”というサブジャンルにカテゴライズされ、リスナーが限定されてしまうという状況は残念ながらまだまだ至るところで起こっている。

Zoomgalsは、そのような現状を打破するために複数のフィメールラッパーが束になってかかるという戦略をとり、かつZoomを駆使した楽曲を発表することで、コロナ禍が生んだフィジカルディスタンスの壁を超えつつも新たなマイクリレーの見せ方を生んだ。

しかし、それ以上に彼女らが斬新だったのは、その楽曲とMVによる圧倒的な情報密度の更新である。コロナ禍によって一気に進んだデジタルトランスフォーメーションの波は私たちを室内に閉じ込め、デジタルを通した圧倒的な情報量の渦へと放り込むこととなった。

劇的な環境変化の中でZoomgalsは、情報の量的指標はもちろんのこと、質的指標においても時代の一歩先を見越した先進的な主張によって、リスナーの認知/理解キャパシティを軽々しく超える訴求を展開している。

そして、その状況を“精神的/身体的な病”としてプレゼンテーションすることの巧みさ、新しさ。

「くそだりい低気圧/月経不順/吸って吐いて惰性でヤられてる/激マズミルフィーユ/口直しにラップ/まじヘルプ命の母とヒップホップ」と吐き出され、「起床即毎日ヒットポイント0/から起き上がりに5時間かかり/気付いたら夕方行くメンクリ/でけえ音に基本めっちゃビックリ/なんでも過敏で頭痛に下痢」(ともに『生きてるだけで状態異常』)と嘆かれる倦怠感、病。ギャルは、いつだって時代感覚を更新していく。

Zoomgalsは、2020年代にアップデートされた“不調ギャル”として、世の中へ、新鮮ないのちを吹き込もうとしている。

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日本のヒップホップにおいて“ギャル”はどう描かれてきたか