若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察
2022.07.31
クリエイター
この記事の制作者たち
刻一刻とその在り方の変わる現在において、それぞれが独自の美術体系を成立させている現代のイラストレーターたち。この連載では群雄割拠のシーンを鮮烈に生きるイラストレーターにフォーカスし、現代におけるイラスト表現の可能性を探求しようと試みている。
同じイラストという表現に取り組んでいるにも関わらず、それまでに辿ってきた道、時代を切り取る視線、絵に込める哲学は個人によって大きく異なり、取材のたびにイラストレーションの奥深い魅力を再確認させられてきた。
近年活躍の幅を広げる若手と呼ばれる世代を中心に取り上げてきた本連載だが、彼らにリスペクトしているイラストレーターは誰かと聞くと、ある一人の名前が挙げられることが多いように感じた。
飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍する若手たちの遥か上の次元で独自のクリエイティブを展開し、気鋭のクリエイターたちからの羨望を集める超越的な存在、それが米山舞さんである。
アニメ制作会社ガイナックスでアニメーターとしてキャリアをスタートさせると、『キルラキル』の作画監督や『キズナイーバー』のキャラクターデザインなどを担当し頭角を現す。その後『レーシングミク2016』や、エヴァンゲリオンのアパレルブランド『RADIO EVA』のイラストなども手がけイラストレーターとしても精力的に活動を展開、2019年からはクリエイティブスタジオ「SSS by applibot」に所属。ゲーム制作にも携わるなど常に最前線を走りながら、シーンに影響を与え続けるクリエイターだ。
イラストから発せられるエネルギーが強烈に物語るように、それを生み出す彼女自身が燃やす果てのない向上心。表現を突き詰めんとするストイックさは尋常ならざるものだ。
だがそうまでしなくてはたどり着けない深奥にこそ、米山舞さんが追い求める美学が存在する。
目次
- 個展「EGO」で表現した世界 イラストの立ち位置
- イラストレーターへの転身と、アニメーションが持つ「伝える力」について
- 集団制作か、それとも個人制作か
- キャラクターデザインは一人でやるものではない
- すごいメンバーを集めるだけでは、すごいものはできない
- 米山舞を嫉妬させた「人を動員させる力」
- アニメーションで培った技術 一枚の絵が人にどのような作用を及ぼすかまで考える
- 自分が良いと思った表現を、いかにして人に理解してもらうか
──まずは個展「EGO」開催おめでとうございます。今回は以前から描きたかった「お化粧」をテーマにしていると入り口のボードに書いてありましたが、改めてなぜ「お化粧」をテーマにされたのでしょう?
米山舞 元々顔の絵を描くのが好きなんです。でもアップにした顔の絵って結構バリエーションが出にくくて、差別化のために化粧をキツくすると極端にリアルになってしまったりとバランスが難しいんですが、自分に縛りを加えながらどこまでできるのかに挑戦したかったのが理由の一つです。
加えて「お化粧」をテーマにすることで、お化粧系の仕事に繋がったらいいなという思いもあります。私もメイクが好きですし。
──お化粧系のお仕事といえば、実際に「KATE」のエヴァコラボではアニメーションを担当されていましたよね。
米山舞 エヴァのアパレルブランド「RADIO EVA」のイラストを描かせてもらった流れでやらせていただいたんですが、オリジナルのCMや広告もやりたいと思っているんです。「KATE」のCMでは映像でやらせていただきましたが、一枚のメインビジュアルで勝負するような、視覚効果や訴求力を求められる仕事を増やしたいと思っています。
イラストってまだそこまで広告の世界に食い込めていないんですが、今の時代のイラストの立ち位置ならイケるんじゃないかとも思うんです。イラストを広告として成立させる力、納得させる力が今の自分にはあると思う。絵もアリなんじゃないかと描く人を探してる人の目に触れたら嬉しいですね。
──「お化粧」というテーマに沿ったカラフルなイラストたちとギャラリーの落ち着いた雰囲気のコントラストが見事で、空間の雰囲気としても面白いものになっていますがこれも狙ってやったことなのでしょうか?
米山舞 内装は実際のお化粧品のお店を参考にしたりしています。元々の会場のコンクリート打ちっぱなしで無骨な感じも好きなんですけど、アクリルフレームの明るい印象を合わせることで、シックな雰囲気が出ればいいなと思ったんです。オシャレなお店に行く時のウキウキ感が出ればいいなと。
ロゴもコスメブランドみたいな仕上がりを意識しています。ギャラリーがギャラリーっぽいだけなら面白くないと思っていたので、コンセプトを立ててちょっと違う雰囲気をつくれたので良かったですね。
──それぞれのイラストが立体的に仕上がっているのも特徴です。デジタル上で見るだけではただ平面の一枚絵が、印刷されて展示されることで新たな表情を見せているのも印象的ですね。
米山舞 UV印刷という技法を使って印刷していただいたんですが「平たいものならなんにでも印刷できる」ということだったので、アルミや木パネルだったりいろんなものに印刷してみました。
展示として見てもらうことに加えて、ちゃんと売るということも意識していて、それぞれの絵をどのように家に飾ってもらえるかというところまで考えて制作しています。アニメグッズのように集めてもらうだけではなく、特別なものとして扱ってもらいたい。でもそれってどういうことなのかをものすごく考えながら一枚一枚をつくっています。
実は準備期間があまりとれなくて急いで用意したんですが、実際にお客さんの感想を聞いても好評なようなので、結果的にいい仕上がりになったんじゃないかと思います。
今回も印刷をお願いしているFLAT LABOさんから作業画像送っていただきました〜ありがとうございます…!
こちらは旧作たち。新作も楽しみだ〜 pic.twitter.com/jb8XveaNfV— 米山舞 − 𝗦𝗦𝗦 (@yoneyamai) March 30, 2021
──近年はイラストレーターとして活動する米山さんのキャリアのスタートはアニメーターとしてですが、そもそもなぜアニメーターになろうと思ったのでしょう?
米山舞 元々『セーラームーン』のようなアニメが好きだったんですが、高校生の頃に『エヴァ』とか『AKIRA』に大きな感銘を受けたんです。当時の私にはそうしたアニメの絵がすごい完璧に見えたんですよね、
画面のレイアウトやデッサン、なにより伝える力が強くて、そうして細かく計算して意図したものを見せる部分に強い魅力を感じました。こういう表現を私もできるようになりたいと思って、アニメーターに目指すようになったんです。
──その後”運良く”ガイナックスに入ることが出来たと他のインタビューで仰っていたのが印象的でした。
米山舞 専門学校に進んだものの、卒業の2か月前まで全く就職活動をしていなかったんですよ。それでうだうだしていたら、通っていたクロッキー会にシンエヴァの副監督をされてる小松田大全さんがいらっしゃって。先生に勧められて自分が描いたものを見せる機会をいただけました。そしたらガイナックスの選考に呼んでいただけて、実技試験を受けて入ることができたんです。
──運命的な出会いだったんですね、でもなぜ就活をされていなかったんですか?
米山舞 就職の為に技量を見せる資料を用意するみたいなのがめんどくさかったんですよね。とにかく決まったなにかをするのが嫌いなのもあったんですが、仕方なく用意してなんとか採用してもらえました。こんな時期まで何をやってたんだとは言われましたけど(笑)。
──アニメーターの就職はそもそもどういった流れが一般的なのでしょう?
米山舞 いろんなものが描けるってことをアピールするために、背景とかデッサン、レイアウトとかを用意するんです。評価されるのは基礎的な線の綺麗さとか、アニメの絵に対しての理解度とかで、そこで独創性をアピールしたりする必要はありません。事前に用意したものを見せるのと別に実技試験があって、受かると会社に入れるという流れですね。
入社後は実務の中で経験を積んでいくんですが、私は運良くすしおさんが先生だったので、技術面も含めいろいろと教わることができました。
──順調にキャリアを積んでいったものの、その後アニメのシステムに疲弊したとも明かされていますね。アニメの世界を離れてイラストレーターに転身したのもその辺りがきっかけなのでしょうか?
米山舞 アニメづくりに疲れて、私の生活というかルーティーンが追い付かなくなったのも大きな理由なんですが、自分でコントロールしたい領域が絵だけじゃなくて、設定やデザイン的な方向にシフトしていったので、そっちの力をつけた方が良いんじゃないかと思って離れることにしました。
アニメの世界だと、キャリアを積んで偉くなるほどにチェックしなくてはいけないものが増えていきます。もちろん納得いくまで全部確認したいのですが、集団でつくっているものなので次の行程に渡さなくてはいけないという締め切りも存在します。こだわりと締め切りを天秤にかけて、寝ないでやる状況にもなりがちになるんです。私もそうでした。
そこから、一度離れて最初から最後まで全部自分で責任が持てるイラストをやってみようかなと思いました。
アニメ制作って、集団作業であるがゆえに作品がどこまで自分の能力や功績で良くなって、どこが足を引っ張られて悪くなったのかがわかりにくいんです。自分が1から100まで責任を負って、正当に評価されたいという思いがずっとありました。
直接的なきっかけとして大きかったのはコヤマシゲトさんにレーシングミクの企画に誘っていただいたことです。そこでちゃんとしたイラストのお仕事をさせていただくようになってから、イラストレーターとしての仕事が繋がっていきました。
RACING MIKU(2016) pic.twitter.com/8ZCHhkDwuL
— 米山舞 − 𝗦𝗦𝗦 (@yoneyamai) March 9, 2020
米山舞 あとは父が亡くなったのも重なって、人生をいろいろと考えたのも大きかったと思います。人生いつ終わるかわからない。それでいろいろやってみようかなと思い、挑戦の道を選びました。
──アニメの世界でのキャリアも順調だったと思いますが、それまでの実績を手放すことに抵抗はありませんでしたか?
米山舞 アニメの仕事も楽しかったですし、やはりすごく悩みました。そのまま今石さんの元でオリジナルアニメに関わる未来もあったと思います。でも続けているとひたすら他の人が描いた絵の線を直す仕事になってしまって、モノをつくるってどういうことかを忘れてしまうような感覚がありました。
なので一回覚悟を持って離れてみようと思ったんです。でもトリガーのプロデューサーさんがダメだったら戻っておいでよとも言ってくれていたので、前だけを向いて挑戦することができました。
──アニメ制作現場の過酷さはニュースにもなるほどですが、実際にどれくらい大変なのでしょう?
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