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  • 2022.05.06

ボカロMVにオリジナルキャラが登場するようになった理由──映像作家・りゅうせーが見てきたボカロ文化

ボカロMVにオリジナルキャラが登場するようになった理由──映像作家・りゅうせーが見てきたボカロ文化

現在、多くのボカロPが楽曲を発表する手段の一つとして、サブスクリプションサービスを活用している。

私たちは、ニコニコ動画やYouTubeで動画を開いたり、遠方の即売会にCDを買いに行かなくとも、より手軽にボカロ曲にアクセスできるようになった。

ボーカロイド(ボカロ)がニコニコ動画上で流行し始めた当時、作品を届ける主な方法は「動画投稿」だった。

曲を制作したボカロPたちは、権利フリーの素材やpiaproに投稿されたイラスト、あるいは自前で画像を用意し、動画にして投稿した。動画といっても、それは静止画と音を組み合わせただけで、今の感覚で言うならかなりシンプルな構成だった。

徐々に、静止画だけではなくモーショングラフィックやアニメーションを取り入れた動画を用意する人が現れ、ボカロ曲はMV(ミュージックビデオ)の形で投稿されるケースが主流になる。その頃にはすでに、絵師・動画師と呼ばれるアマチュアのイラストレーターや動画クリエイターが、ボカロカルチャ―でも育ち始めていた

今回お話を伺うりゅうせーさんもその1人。ボカロから広がる創作の輪に魅せられ、映像作品をニコニコ動画に投稿し始めたのは大学生のころ。その後Neru柊キライみきとPsyudouなどといった名だたるボカロPのMVや、まふまふ浦島坂田船めいちゃんなど人気歌い手のMVを手掛け、ネットカルチャーにおける映像クリエイターの第一人者として、作家業を10年間続けてきた

自身が描いたイラストをモーショングラフィックスで動かす彼の映像は、一目見ればわかる強烈な個性を持ちながら、楽曲を引き立てる舞台演出としての役割も果たしている。今回は、そんなりゅうせーさんの視点から、ボカロカルチャーに迫っていく。前編は自身が見てきたカルチャ―の変遷や、ボカロ曲におけるMVの役割についてうかがった。

目次

  1. フジファブリック『銀河』に見た、「シュールおしゃれ」の源流
  2. 商業ブーム前夜のボカロカルチャーに出会って
  3. 楽曲のキャラクター化を、イラストMVが助ける

フジファブリック『銀河』に見た、「シュールおしゃれ」の源流

──りゅうせーさんは絵と映像の両面で活躍されていますが、最初はどちらが入口だったんでしょうか?

りゅうせー 最初は絵でしたね。中学生のころから、二次創作・ファンアートを描いていました。当時は『家庭教師ヒットマンREBORN!』が全盛期の頃で、天野明先生や、『封神演義』の藤崎竜先生など、ジャンプ作家を中心にいろんな先生の絵を真似して描いていました。

中学を卒業した後は高専に進んだんですけど、その頃からmixiが流行り始めたんですよね。イラストとSNSの関係が年々密接になっていって、そういうのを見ながら「ネットで作品を発表する面白さ」を知って、そこからはもうpixiv、ニコニコ動画、となし崩しにハマっていきました。

──そこから、どのような流れで映像にも興味を?

りゅうせー 高専でバンド活動をしていたんですけど、フジファブリックの『銀河』のMVを見て、「音楽と映像が組み合わさると、こんなに面白いことができるんだ」と思って。初めて映像監督のことを調べ、そこから映像に対しても興味を持つようになりました。しばらくして、自分が作家になってからハマった『オドループ』のMVを同じ監督がつくっていることを知り、DNAに刻み込まれてるなと思いました。

特に『銀河』の表現は僕にとってすごく根源的なもので、女の子がシュールなポーズをしている一枚絵のMVがボカロで流行ったのとも、近いものがあるんじゃないかと思うんです。日本人が好きな”シュールおしゃれ”カテゴリの源流がフジファブリックのMVにありそうだなと。

フジファブリック (Fujifabric) - 銀河(Ginga)

りゅうせー その後はデザインの大学に編入するんですけど、大学のパソコンにAfter Effectsが入っていたんですね。当時はキネティック・タイポグラフィを混ぜたボカロMVをつくる人が増えてきた時代で、「僕が今、音楽に対するアプローチで一番やりたいのってこれかも」と思って、具体的に映像制作に着手し始めました。

──映像に関してもイラストから入っていったのかなと思っていたんですけど、ご自身のルーツとしては実写が色濃くあったんですね。

りゅうせー ただアニメのオープニング・エンディングにも、影響を受けていると思います。特に『BLEACH』のオープニングが『Velonica』(Aqua Timez)だったときの映像をよく覚えていて。あとは『*〜アスタリスク〜』(ORANGE RANGE)のときも、他のアニメのオープニングとはちょっと違う感じでしたよね。原作の扉絵に近い構図やグラフィックを引用してモーショングラフィックのように使っていて、今の「ボカロMVっぽさ」に通ずる所がある

当時のボカロMVって、紙芝居形式の動画か、逆にめちゃめちゃプロの人がとんでもなくハイクオリティな映像をつくるかの、二極のような状態だったんです。僕が初めてボカロでハマった曲は『炉心融解』だったんですけど、あれは3Dも使っていて見るからにクオリティが高くて、とても素人が真似できないレベルだったんですよね。

逆に身の回りで流行っていたのはもう少し簡易的な素材で、それでもやり方を工夫してゴージャスに見せるというアプローチで、僕が進んだのもそっちでした。先程挙げたようにアニメのオープニングで見た演出を、自分の規模感でやるとしたらどうなるかな、と考えて取り入れたりしていましたね。

商業ブーム前夜のボカロカルチャーに出会って

──ニコニコ動画やボカロと出会ったのは、どういうきっかけだったのでしょうか?

りゅうせー ニコニコ動画との出会いはあんまり覚えていないんですが、確かイラストのメイキングが見たくて始めて、そこからMADや描いてみた、二次創作界隈にどんどん入っていった形です。

その後くらいにランキングがきっかけで、歌ってみた、さらにボカロに出会って。普通に自分が好きで聴いていたような音楽と近いもの、非常に高いレベルのものがたくさんあることに驚きました。

──MVクリエイターのコミュニティにはどのようにして入っていったんですか?

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