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  • 2024.06.09

「弱さを晒け出すのってズルい」逮捕から返り咲いたラッパーMasato Hayashiは葛藤する

「弱さを晒け出すのってズルい」逮捕から返り咲いたラッパーMasato Hayashiは葛藤する
愛の残り香とこの肺に残るあの結晶 悪魔の様に奪ったりしてぶっ飛んでた 描いては 描いては消すあのメモ あいつの痛みと寝る夜 真っ直ぐになれねえよMasato Hayashi「NAMIDA」

3度の活動休止と再開、そして改名。半グレ、薬物依存、洗脳部屋……これまで語られたラッパー・Masato Hayashiの半生は、もしひとつでも選択を誤っていれば、命を落としていただろう。

「俺は本当に、趣味ないんですよ。ラッパーのフローを超ディグるとか、ディレクターをディグるとか、することはしますけど、熱中するほどではないんで。だけど、音楽つくってる時、ラップしてる時が一番楽しい。LANAじゃないけど、『仕事が遊び 遊びが仕事』って感じです(笑)。だからこそ、本気で遊ぶんすよ

Masatoにとって、ラッパーはまさに天職なのだろう。だからこそ、3度目の復活を果たした。

Masato Hayashi - NAMIDA (Official Music Video)

目次

  1. 社会人を続けながらラッパーとして再起を誓った、矢先の逮捕
  2. 思い出すのは、スズキさんとの刑務所での日々
  3. 友人からの手紙で、「俺はラッパーなんだ」と自覚しながら服役できた
  4. 「お前リリック書いてんのか?」刑務官からの一言
  5. まだまだ自転車操業。もっといきたい、もっと楽しみたい
  6. イタいかもしれない、けどイタくても良い
  7. ビートから色を抽出して、その色に感情を乗せる
  8. 「何かにすがりたい時に、すがる先が俺であるなら嬉しい」
  9. 「弱さを出すのってズルい」Masato Hayashiの葛藤
  10. 魂が震える周波数がある──新アルバム制作秘話
  11. ジャンルとか関係ない『Masato Hayashi』という存在になりたい

社会人を続けながらラッパーとして再起を誓った、矢先の逮捕

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22年3月、Masatoは、まだ雪が残る北海道釧路市にいた。前年、大麻取締法違反で逮捕されて懲役1年8ヵ月の有罪判決が下り、釧路刑務支所に収監されていた。一番の楽しみであるラッパーとしての再起をかけ、飛躍する時期をうかがっていた真っ只中のことだった。

「ちょうど昼の仕事に慣れてきて、夜に曲の制作に当てる体力を残せるようになったんすよね。そうしたら調子出てきて、1曲納得いく曲ができた。これなら勝負できるかもって。本腰を入れて(ラップを)やり始めたところでした」

本格的に復活するからこそ、Pablo BlastaからMasato Hayashiへと改名したのだ。Masatoには、リセット癖がある。新たなスタートを切るために改名し、SNSもリセットした。

だが、事件は起こった。

「朝、自宅で吸ってたら、突然警察が来て。いつもは何重にも家の鍵をかけてたんですけど、その日に限ってかけ忘れてて。警察がそのまま入ってきたから、(もう諦めて)もっとキメちゃえって(笑)

Masatoはこうして逮捕された。FRank Logunをフューチャリングしたシングル「Yen Yen」のリリースを最後に、アルバム『Issue』を置き土産に収監され、Masatoから遊びは取りあげられた。

「(刑務所は)初めてです。辛いし、もう絶対に行きたくないですけど、思ったよりは楽だなって感じで」

刑務所に入所して最初の約2週間は、新入訓練工場と呼ばれる、刑務所内での規則を徹底的に叩き込まれる厳しい訓練が待ち受けていた。

「そこだけはスパルタで、軍隊みたいな感じです。整列中にちょっと目を動かしただけで『お前立ってろ!』って刑務官に言われ、1日中立たされたり、ずっと腿上げやらされたり。俺でもキツかったのに、70歳くらいのおじいちゃんとかもやらされて、死んじゃうんじゃねえかって。しかも(コロナ禍で)マスク着けながらだから、息も苦しいじゃないですか」

3月の終わり 今Nobody あの時ああ言ってたのに 朝が来ても今は1人Masato Hayashi「By Your Side」

思い出すのは、スズキさんとの刑務所での日々

今でも思い出すのは、スズキさんという60代の受刑者だ。

「スズキさんはてっぺんだけ禿げてて、かっぱみたいな頭をしてるおじいちゃん。ずっと緊張が抜けない人で、同じ側の手と足が一緒に動いちゃうような人で。その人が25歳くらいの刑務官に『てめえ、この野郎』とか言われながら1日中立たされていて。それ見て『キツっ』って思ったっすね」

新入訓練工場を終えると、刑務所内での工場で労務作業の日々が始まる。Masatoは鉄筋工場に配属された。配属先でも、スズキさんと同じだった。

「ランクがあるんですよ。最初は低いランクだから、1日中ひたすらヤスリをかける作業で、手しか動かせない。キョロキョロしてると怒られるから、首も固定したままで。だから、みんな手首と首をやられちゃう。その作業から早く抜け出したくて、3ヵ月くらいで一番上のランクの溶接をやらせてもらうようになって」

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辛いだけではない。スズキさんとは楽しい記憶もある。

「オヤジ(刑務官)が後ろを向いた瞬間、スズキさんにエアジョイントを渡すんですよ。スズキさんは震えながら受け取って(笑)。面白かったし、ほのぼのしてましたね」

釧路刑務支所は、受刑者を収容する際の法務省による処遇指標「A」に該当する。これは「犯罪傾向の進んでいない者」を指している。それゆえに、釧路刑務支所には初犯者も多い。

「悪いヤツがいないってわけじゃないですけど、そもそも全部で300人くらいしかいなくて。各工場も30人くらいずつで、少ないんですよ。こういう言い方すると、反省してないと思われるかもしれないですけど、社会科見学に行った感じっすね」

余談だが、もともと「スズキさん」は原稿上では仮名にしていたのだが、Masatoから「本人から許可もらってるから本名で紹介してほしい」と言われて今の形になっている。

友人からの手紙で、「俺はラッパーなんだ」と自覚しながら服役できた

刑務所生活は楽しくもあった。ただ、冬の釧路は平均気温が氷点下を記録する土地。東京育ちのMasatoには寒さが堪えた。

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