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『ジョジョリオン』論 前編──回転と重力、ジョースターとディオの系譜

『ジョジョの奇妙な冒険』第8部こと『ジョジョリオン』が完結しましたね。さっそくなのですが、本編のクライマックス「回転して…

目次

1. 宇宙ステーションが回転している理由──重力と「宇宙の一巡」
2. 「なぜ自分なのか」運命と向き合ったプッチ神父の思想
3. 神を越える方法──多元宇宙を提示した第7部
4. 「重力」の本質
5. 史上最悪のスタンド “ワンダー・オブ・U”──災厄と運命
6. 超ひも理論　科学的視座から描かれている『ジョジョ』
7. 「幸せのイメージ」を持つということ　ディオの系譜を克服する方法

宇宙ステーションが回転している理由──重力と「宇宙の一巡」

なぜ宇宙ステーションはわざわざ回転していたのか。宇宙ステーションが回転することで、遠心力が生じ、重力があるのと同じ状況になります。無重力状態は筋肉が衰えたりだとかで長期滞在に向いていないため回転させていたそうですが、無重力状態での実験を行う都合上、回転させなくなったそうです。

回転によって遠心力が生じ、それによって生まれる引力は「見かけの重力」ではなく「本物の重力」である。これを証明したのが、かのアインシュタインの一般相対性理論です（厳密にはその中の等価原理という理論です）。

また念のため書いておくと、E=mc2（※）が登場する特殊相対性理論とは別物です。エネルギーは質量かける光の二乗である、光速だけが唯一絶対的なものであり、時間や空間の方が相対的に変化するのだ、というものですね。

さて、第6部のラスボスであるエンリコ・プッチ神父のスタンドは、そんな重力をコントロールする能力です。彼が最終的に得た能力“メイド・イン・ヘブン”は世界（宇宙）の時間を加速させる能力ですが、それは重力の持つ力の一側面に過ぎません。

詳しい説明は作中にはありませんが、重力の小さい場所は重力の大きい場所より時間が早く進む、という性質を利用したものかと考えられます（例えば、重力が極端に強い場所はブラックホールと呼ばれ、時間も止まりますし光も出てきません。これを事象の地平線といいます）。

そしてそこで、自分が思うに『ジョジョ』全作品の中で最もユニークな思想が登場します。“メイド・イン・ヘブン”によって時間を最大まで加速させた結果「宇宙が一巡する」という考え方です。

一応「宇宙ループ説」「宇宙は四次元の球体である」のような説もあるようなのですが、自分には科学的根拠がよく理解できなかったのでここでは取り扱いません。それよりもユニークだと感じたのは、一巡後の世界では「個々の人間がループ前の記憶をなぜか持っていること」「既に決定された運命に基づいて人々が生きていること」です。

※エネルギー E = 質量 m × 光速度 c の2乗 の等式。「質量とエネルギーの等価性」とその定量関係を表す。アルベルト・アインシュタインにより、1907年に発表された。

「なぜ自分なのか」運命と向き合ったプッチ神父の思想

プッチは『ジョジョ』世界で最も運命と向き合ったキャラクターです。そんな彼の下した結論は「覚悟さえあれば、運命も乗り越えられる」というものでした。

どんな未来が来るのか分かってさえいれば、それがどんな困難であろうと克服できる、それを全人類が持つことが“メイド・イン・ヘブン”というスタンド、天国の正体でした。人々の運命を一度決定づける能力、ジョルノが最終的に得た「決して真実に到達できない（死さえ決定できない）スタンド」の真逆のような力ですね。

これ、分かりにくいかもしれないのですが、実は保守主義の究極と言えます。確かに格好良く聞こえるのですが、突き詰めると安心するために未来を知る能力で、しかも独善的でバッチリ“悪”の条件を満たしてしまっています。

そんな重力を扱うプッチ相手に主人公である空条徐倫は敗北します……が、プッチを倒したのは仲間の「少年」エンポリオです。しかも変えることのできない運命に唯一関与できるプッチに直接運命を変えてもらう、という意趣を返す方法でです。

そしてもう一つ、プッチ神父は『ジョジョ』という作品にある重要な問いを残しました。『ジョジョの奇妙な冒険』の奇妙さの本質とも言えるクエスチョン。これまで述べてきた困難という意味での運命とは別の、もう一つの側面。

それは「何かが決定されているとはどういうことなのか」「なぜ人の意志を越える決定事項が存在するのか」という運命への哲学的問いです。

プッチ神父の場合、それはなぜ自分が選ばれたのか、という問いからスタートしました。