LAM インタビュー「僕は天才ではない、だけど──」
2020.11.21
クリエイター
この記事の制作者たち
映画やゲームといったエンターテイメントの領域においては長き歴史を持つ一大人気ジャンルとして成立している「ホラー」。
目を背けたいものであるがゆえの背徳的な魅力。愛好家たちの胸を掴んで離さない妖しい魅力を持つホラーが、ただ享受するのではなく自分から主体的に関与していけるインタラクティブなエンターテイメントであるゲームと特に相性が良いのはもはや必然だった。
ハリウッド映画にもなった「バイオハザード」シリーズ、未だ多くのファンによって愛される『SIREN』など、数々の名作がその歴史に名を連ねるが、『青鬼』や『Shadow Corridor』といったフリーゲームの存在も印象的だ。
メジャーからインディーズまで様々な意欲作の溢れる現代において、近年最も話題になったホラー作品の一つとして『GO HOME』の名を挙げないわけにはいかない。
両親とはぐれてしまった少女が一人で家へ帰るというシンプルなゲーム性ながら、絶妙に心をざらつかせる色彩に、親近感と異常性が奇妙に入り混じるオバケたち。
一度見たら忘れられない強烈な刺激をもたらすこのゲームは、ガッチマンさんや花江夏樹さんといった人気実況者たちによるゲーム実況によって人気に火が付き、今や多くのユーザーによって愛されるタイトルになった。
そして、たった一人のゲームクリエイターによって制作されたこともまたこのゲームの特殊性を形作る要因の一つだ。
そのゲームクリエイターこそ、市松人形VTuberの市松寿ゞ謡さんである。ゲーム制作の勉強のためとしてVTuber活動を開始すると、ゲーム実況や様々な企画に挑む中で3Dやゲーム制作の技術を習得。ゲーム開発処女作となる『GO HOME』でいきなり大ヒットを飛ばすという恐るべき才能の持ち主だ。
サウンドからビジュアルまで、ゲーム開発における工程を一挙に手掛け、そのアーティスト性を全開にするゲーム制作に注力しながらも、独特のワードセンスが光るオリジナルソング制作や、ゲーム実況に様々な企画参加など、VTuberとして活動も精力的。
その恐るべきバイタリティはVTuber個人勢の雄たるピーナッツくんをも唸らせ、彼の2ndアルバムに参加するなどその活動の幅を更に広げる彼女だが、見据えるたった一つの目標は「自らの理想のホラーゲームの制作」であると語る。
様々な領域で傑出した存在感を放ちながら、溢れる情熱をホラーゲームへ注ぎ込み続ける異能の存在、市松寿ゞ謡。彼女の特異性や創造性の原点を解き明かしていくうちに、我々は知らず知らずのうちに深淵へ引きずり込まれていく。
目次
- ホラーが好きなだけで、等身大の日常系VTuberです。
- ゲーム開発で気づいた「実況映え」という価値
- プランナーの誘いを蹴ってまでしてつくりたい「理想のゲーム」
- 自分を信頼してくれる人を裏切ることが、一番怖い
- 怖いだけじゃない、ジャパニーズホラーの真髄
- 「かっこいい」と「イタい」は紙一重
- 尽きない好奇心と制作意欲 市松寿ゞ謡はたぶん永遠
- VTuberシーンで勃興する、ゲーム開発の潮流
──自己紹介動画ではゲーム制作について学ぶために活動を始めたと仰っていましたが、改めてVTuberを始めたきっかけをうかがえますか?
市松寿ゞ謡 VTuberとして活動を始める半年くらい前にゲーム『UNDERTALE』に出会ったんです。私はそれまであんまり自分でゲームをやる経験がなかったんですけど、『UNDERTALE』をプレイしたことで、ゲームってこんなに人の心を揺さぶれるんだって感動した。
市松寿ゞ謡 大昔に漫画家を目指していたこともあったんです。その時に考えていた物語をいつか世に出したいという気持ちがあります。加えて音楽をずっと続けていたので、音楽と物語という自分が魅せたいものを全部詰め込めるゲームこそ、自分にすごく合った表現方法なんじゃないかと気づいたんです。
そこで「よし!ゲームつくろう!」となったのはいいんですが、それまであまり自分でゲームをプレイすることがなかったので、まずそこから始めようと思いました。ただ一人でやっても続かないと思ったので、「ゲームを続ける理由」をつくろうとしたんです。それがゲーム実況でした。実況を始めてしまえば誰かに見られている状態ですから途中で投げ出すわけにはいかなくなると思ったんです。
当時はVTuberブームでもあったので、VTuberとしてデビューすればゲーム実況だけじゃなくてゲーム制作についても学べるだろうと考えて、やってみようと。
──なるほど。『UNDERTALE』がきっかけだったんですね。たしかに郷愁的な雰囲気とホラー的な要素もあり、市松さんの作品にも通ずるところがあると思います。
市松寿ゞ謡 「UNDERTALE」に影響を受けたから、最初は2Dドットでちょっと可愛い感じのゲームをつくることをイメージしていたんです。でもその後『Shadow Corridor』に出会って、個人でも3Dゲームを作れるんだ! と思って『GO HOME』は3Dでつくる決心が定まった感じです。
──ホラーというジャンルを選ばれたのには理由がありますか?
市松寿ゞ謡 怪談とか田舎に伝わる怪しい風習とか、閉鎖した村の宗教とか民俗学的なものへの興味が強くて、元々昔から考えていた物語というのもいわゆる和風ホラーものだったんです。なのでそれをゲームにするなら当然ホラーゲームだなという気持ちでした。『SIREN』みたいな和風ホラーの強烈な世界観の作り込みが好きなんです。
──なぜそんなにもホラーに興味を持つようになったのでしょうか。
市松寿ゞ謡 小さい頃からどぎついホラー漫画とか小説が好きで。「ちゃおホラーコミックス」とか楳図かずお先生の漫画とかを呼吸をするように読んでいたので、そこの影響は大いにあります。
──そもそもなのですが、VTuberとしての活動ジャンルもホラー系という認識であっておりますでしょうか?
市松寿ゞ謡 私自身はそう思ってないんですけど、ホラー系って言われてしまうんですよね……。いやその外見でホラーじゃないってことないだろとは思われるんですが、私的には怖いんじゃなくて可愛い人形でしかないんです。
本当のホラー系っていう方々はンヌグムさんとかのことで、私はどちらかといえばお笑い系の企画が多いですし…。なので自覚としては等身大の日常系VTuberです。
──初作品の『GO HOME』はリリース直後から大きな話題となり、完全版がNintendo Switchでも配信されるなど大ヒットを記録しました。制作者から見たヒットの要因はどのような部分にあると思われますか?
市松寿ゞ謡 『GO HOME』は私なりのチュートリアルというか、ゲーム制作を学ぶ過程でとにかく一回リリースしてみようって感じで世に出したもので、最初のバージョンはバグまみれだったんです。
でもそれをいろんな方がプレイしてくれて、有名実況者の方々にも届いた結果あれだけ大きなバズになってしまい、じゃあ本気で作ろうと本腰を入れてつくったのが完全版でした。
ゲーム開発ははじめてで、渾身の自信作というわけではなかった。だからあんなにたくさんの人にプレイしてもらえるのは本当に予想外でした。落ち着いてからなんであんなに上手くいったんだろうと分析してみたんですが、『GO HOME』は実況映えするゲームだったんだと思います。
──”実況映えするゲーム”ですか。
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