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  • 2025.05.17

VTuberへの“容姿いじり”が蔓延する理由──内輪ノリと戦略的コンプレックスについて

VTuberへの“容姿いじり”が蔓延する理由──内輪ノリと戦略的コンプレックスについて

九条林檎さんをお迎えし、VTuberシーンで話題のトピックを解説してもらう連載「おしえて、九条林檎様!」。第12回のテーマは、VTuberにまつわるルッキズムです。

容姿や身体といった見た目を理由にした差別や不当な扱い等々、ルッキズムという言葉が内包する意味合いは多様です。容姿に基づく言動への違和感を言い表す際に、様々な場で耳目に触れるようになりました。

理想的な体型を要請されてきた時代を乗り越えて、ありのままの自分を受け入れようとする「ボディポジティブ」といったムーブメントも活性化してきました。

翻って、バーチャルの世界は外見を容易に変えられるため、ルッキズムに苦しむ人々の救いになるとの見方もあります。一方で、表向きは鳴りを潜めつつある容姿いじりが、奇妙なことにVTuberシーンには根強く蔓延しています。

どこかアンバランスな“バーチャルにおける外見”について、ルッキズムをキーワードに、九条林檎さんと考えてみました。

九条林檎 おしえて林檎様! 第12回

目次

  1. VTuberが生きていることに実感が湧かない人たち
  2. VTuberの容姿いじりがなくならない、身も蓋もない理由
  3. いじりは「芸」だとしても、必ず誰かを傷つける
  4. VTuberの「一生一緒だよ」がもたらすリスク
  5. キャラデザに隠されているかもしれない、戦略的コンプレックス
  6. K-POPアーティストを神格化したことの弊害
  7. アバターはルッキズムからの解放をもらたすか?

VTuberが生きていることに実感が湧かない人たち

──VTuberコミュニティで根強く存在するルッキズム。顔や身体といった容姿への差別的言動などを指しますが、最近だと、ホロライブの星街すいせいさんが、自身の胸が小さいことを揶揄する内輪ネタを止めましょうと呼びかける投稿がありました。この一件を林檎さんはご存知でしたか?

九条林檎 投稿後に、ちょっとした議論が巻き起こっていたな。

──少し前から同じような呼びかけはしていたようですね。しかし、いまだに残り続けている。VTuberは容姿を変えられるから、「いじられるのが嫌なら変えればいい」なんて反応も見かけました。

九条林檎 「いじられて嫌なら変えればいい」という見方は全く間違っている。関係者の誰もが「このデザインが世界で一番最高だ!」と思って世に出したものであっても、誰かから容姿をいじられることはあるからな。

例えば我の三面図を見てくれ(外部リンク)。我は見た目でいじられたことはないが、やろうと思えばいくらでもできる。目が大きく存在感があるので「ギョロ目」と揶揄できよう。

手足が細く長いので、栄養失調などとさえ悪意をもってすれば言える。重箱の隅をつつくように、どのような容姿であっても、見た目について言われる可能性は否定できないから、「嫌なら変えればいい」などという簡単な話ではない。

──本人にとってもファンにとっても、その姿にどれだけ思い入れがあるのかを考慮していない意見でもあります。

九条林檎 VTuberは生身の人間半分、キャラクター半分で、身体的にフィクション性を含んでいるからか、「VTuberも生きているのだ」ということに実感が湧かない方は結構いるんだろうなと、我は活動している中で思うことがあるんだ。

壁一枚を隔てて見ているようなイメージなのだろうな。だから容姿を変えればいいなんぞという言葉が思い浮かぶのだろう。

VTuberの容姿いじりがなくならない、身も蓋もない理由

──実際にVTuberの方が容姿をいじられる時は、どの程度自分事として受け止めるものなのでしょうか?

九条林檎 個々人によるところは大きいな。「本来の自分のことじゃないから全然大丈夫」と割り切れる方もいれば、そうでない方もいる。多少嫌でも、VTuberとしてのキャッチーさと天秤にかけて、そうした容姿のいじりを受け入れている方もいる。逆にいじられネタを芸風にしている方もいて、千差万別だ。

ただ、VTuberの黎明期である2018年前後から2025年までに、世の中の価値観は随分と変わり、容姿をいじる行為への世間での忌避感がより強くなったのは頭に入れておきたい

──自ら望んでいじられにいく一種の芸は、かつてはテレビのバラエティ番組でよく見かけましたが、おっしゃるように世間の価値観の変化とともに廃れつつあります。しかし、VTuberにおいては、容姿いじりがなくなる気配はありません。なぜなんでしょうか?

九条林檎 たしかにそうだな、我の身近な例で言えば、我がかつて所属していたVEEの同期である魔王トゥルシーは、背が低いことや胸が小さいことで視聴者とプロレスをされているな。

九条林檎さんと魔王トゥルシーさんのコラボ配信

九条林檎 ホロライブ宝鐘マリン氏に対する年齢ネタも似たようなものか。他にもたくさん例があるので、おそらく他の生身のタレントと比べると、VTuberへのいじりは比較的多いと言えよう。

これらがなぜなくならないかを考えると、1つ目に、身も蓋もない理由なんだが、現在VTuberの視聴者層がすごく若く、その上でどんどん若い層が新しくファンになっていることは挙げられると思う。誤解を恐れずに表現するなら、自分や他人を大切にすることを十分に学ぶ前の人たち、と言おう。

──確かに、中高生の時の自分を振り返ると、かなり雑な会話をしていた気がします。平気でマズい言葉を使っていました。

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