顔も名前も奪われたVTuberの逆転劇 華麗に“転生”したChumuNoteの覚悟
2023.06.16
バーチャルYouTuber(VTuber)関連トピックを毎週ピックアップし、よりPOPに、より深く掘り下げていく『週刊VTuber経済ニュース』。
第15回は、VTuberグループ・にじさんじを運営する株式会社ANYCOLORの業績について解説する。
VTuber業界でも最大手グループのひとつ、にじさんじを運営する株式会社ANYCOLORのプライム市場への移行。現在、VTuber界隈で最も注目を集めているトピックのひとつだろう。
6月8日、ANYCOLORはグロース市場からプライム市場への移行を果たした。
プライム市場は、現在の東京証券取引所の上場市場の区分では最上位に位置する。
トヨタ自動車株式会社やソフトバンク株式会社といった大企業が名を連ねていることからも明らかだ。
プライム市場に上場/移行するには、グロース市場と比較してより厳しい審査基準が課され、持続的な成長や、中長期的な価値の創出が求められる。
プライム市場にANYCOLORが移行した6月8日当日の株価の動きは、始値6870円でスタート。当日の安値6620円に対して高値は6930円をつけ、値幅310円、終値は前日比160円安の6810円とゆるやかに下落。
前日から株価に影響を与える材料が出尽くしたと見た投資家からの売りが出た。
目次
- ANYCOLORにこれから求められるのはサステナブル?
- ANYCOLORの23年4月期決算 好調、高い成長性示す
- 英語圏NIJISANJI ENのYouTube再生時間、どう受け止められた?
- 目まぐるしい、VTuberの海外事業展開
- なぜ? ANYCOLORが19日にストップ高
同日6月8日には、コーポレート・ガバナンスに関する報告書も更新。
コーポレート・ガバナンス(企業統治)で守るべき内容(コーポレートガバナンスコード)は、プライム市場の上場基準の中で厳しく定められている。同社は報告書の中で、各原則の一部を実施しない旨を発表している。
中でも筆者が注目したのが、「当社では、サステナビリティを巡る取組みに関する基本的な方針の策定には至っておりません」の一文。サステナビリティ(持続可能性)とは、持続的に地球環境を壊すことなく、長期にわたって経営をしていくことを指す。
近年、持続可能な世界を目指す指針であるSDGsというお題目をメディアが広く唱えており、環境や社会、およびコーポレート・ガバナンスに配慮した企業に投資する「ESG投資」が機関投資家※を中心に世界に広まっている。
※機関投資家 企業や団体、個人といった顧客から資金を管理・運用する法人投資家。投資顧問会社や生命保険会社、信託銀行などがそれにあたる
そのため、日本でも金融庁などが中心となって、サステナブルファイナンス(持続可能な金融社会)に関する策定を行っており、政府側からも企業に持続可能な社会の実現に向けた要請が行われている(外部リンク)。
わかりやすく言えば、10年前には「エコな社会にしよう!」と言っていたのが、もっと具体的に「今の社会をより良く継続させるにはどうすればいいか」を命題にしているのが、SDGsの取り組みやESG投資といったトレンドである。
ANYCOLORに話を戻すと、本来コーポレートガバナンスコードではそうしたサステナビリティも順守すべきと規定されているが、まだその規定に応じられていないのが現状だという。
ESG投資が一つのトレンドで、コーポレートガバナンスコードが上場基準の一つであるだけに、この状況を長期にわたって継続することは芳しいこととは言えない。
一部の機関投資家の中には、ESG投資に当たらない企業には投資をしないというスタンスをとるものもある。
例えば、未上場企業への投資を行う投資家においては、すでにかなりの割合がESG投資への配分を増やす予定だと、コンサルティング企業のPwcが伝えている。
今のところ日本では、SDGsに沿わない企業を投資対象から除く動きそのものはなく、喫緊の課題とまでは言えないだろう。
しかし、海外では化石燃料を供給あるいは依存する企業からのダイベストメント(投資撤退)の動きも広がっていて、日本も例外ではない。
この先、投資家のSDGs/ESG経営への注目の高まりは、先々逃れられないと予想できる。
とは言えもちろん、まだ起業から年数の経っていないIT企業が、SDGsにおいて何ができるのかという問題もある。
しっかりとファンや株主を幸せにできるような、社会の役に立つ企業統治ができてはじめて、「持続可能な経営」が成り立つ。
個人的には、影響力のあるタレントを抱える強みを活かして、なかなか理解されづらいSDGsなどサステナビリティに関することを持ち前のバラエティ制作力で発信する番組を制作してもらえるとありがたいと思う。
また、6月14日には2023年4月期決算をANYCOLORが発表。
まずは通期を見ていこう。売上高は253億4200万円。昨年同期の売上高141億6400万円と比較すると78.9%増。来期予想では30.2%成長の330億円を予想している。
営業利益は94億1千万円。昨年同期の営業利益41億9100万円と比較すると124.5%増。来期予想では34.5%成長の127億円を予想している。
純利益は66億9900万円。昨年同期の純利益27億9300万円と比較すると239.8%増。来期予想では34.3%成長の90億円を予想している。
業績予想と比較すると、売上高は予想では250億円、結果的には+3億4200万円。営業利益は予想では92億円のところ、+2億1千万円。純利益予想は63億8000万円のところ、+3億1900万円。いずれも、おおむね想定推移に収まった。
好調な決算ながら想定範囲に収まったことからも、翌営業日※の株価にも大きく影響したものと思われ、プライム移行と決算の材料出尽くしと見た投資家が売り出した。
営業日=株式市場は土日祝、年末年始は閉まっているため、通常の取引は行っていない。そのため、次の株式市場が営業している日に株価は再び動く
決算発表の6月14日の終値は7220円。決算発表後の6月15日の株価は売りが集まったことで、一時6890円の安値をつけ、終値は7010円を付け前日比210円安になった。
ただし、今回売りが集まったのは、おそらくそれだけが原因ではない。
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