MCバトルという料理は、ヒップホップという器を超えた──「BATTLE SUMMIT」レポート後編
2022.09.17
1990年代後半から2000年代初頭。キングギドラを筆頭にRIP SLYMEやKICK THE CAN CREWといったヒップホップクルーがメジャーレコード会社と契約を結び、日の目を浴びるようになった。
しかしその一方で、当時はまだ「ラップってチェケラッチョでしょ」といったステレオタイプなイメージが巷には溢れていた。
それから約20年経った現在、ラップという歌唱法は一躍市民権を得たように感じる。それは、バラエティ番組で芸能人らがトラップのビートに乗せてラップをしたり、CMでラップが流れるのも珍しくなくなったり──その躍進の中で忘れてならないのが、MCバトルの影響だ。
「UMB」や「戦極MCBATTLE」といったイベントが長年MCバトルの現場を支え続けてきた中で、『BAZOOKA!!!高校生ラップ選手権』や『フリースタイルダンジョン』といった番組がきっかけで世間的にも一躍注目を集め、今ではYouTubeでバトルの動画が何百万回と再生されるまでになっている。
MCバトルの波及力は、ラップという表現手段が世間に浸透するのに大きな役割を果たした。
1999年から行われた伝説のイベント「B-BOY PARK」のMCバトルでKREVAが3連覇した際、本戦に出場していたのが、当時弱冠18歳の晋平太だった。
「ULTIMATE MC BATTLE」2連覇などの偉業を成し遂げ、20年以上MCバトルの舞台に立ち続けてきたベテラン・晋平太
プレイヤーとしてMCバトルの黎明期から戦い続けてきた晋平太。その一方で、「1億総ラッパー」という目標を掲げ、YouTubeでのヒップホップやラップの解説動画、小学校でのラップ教室などを通して普及活動を続けてきた。
誰よりもラップの普及を願ってきた晋平太の目には、今の風景はどう映っているのか?
※本取材は、「戦極MCBATTLE 第29章」が行われた翌日の3月13日に行われた。
目次
- ラップが普及すれば、ラッパーの価値も広まる
- 悩みから始まったYouTube活動、4年続けて得た実感
- 広がるラップ──Repezen Foxx「炎上万博-斬- 」をどう受け止める?
- 「これはヒップホップではない」と判断する基準
- ラップは最高のコミュニケーションツール
- ラップ、DJ、ブレーキング、グラフィティ、それぞれのやり方で参加できる
- 「B-BOY PARK」から現在まで、MCバトルを見続けてきた
- KREVAの躍進から始まったMCバトルが、メジャーになるまで
- 「MCバトルは人気投票じゃない」ラッパーたちが競っているものの正体
- 今のMCバトルには、人生がかけられない
- 晋平太がかける最後のチャンス「バトル以外での発信が圧倒的に足りなかった」
取材当日、現場に現れた晋平太さんは、YouTubeなどで見る姿のままだった
──晋平太さんは、「1億総ラッパー」という目標を掲げ活動されてきました。現在、その目標はどれくらい達成されたと考えていますか?
晋平太 どれくらいかはまったくわからないですね。俺が目指している1億総ラッパーは、たとえばここ(取材現場)にいる全員がラップ好きで、ラップをやったことがあるっていう状態で。
俳句や短歌は、国語の授業で習うじゃないですか。そこから歌人になろうと志す人は少ないかもしれないですけど、みんな絶対に一度は触れたことがある。ラップもそれくらいになってほしいんです。
──そもそも、どうしてそこまでラップという歌唱法を普及させたいんでしょうか?
晋平太 ラップの認知度が上がることで、ヒップホップの価値が高まると思うんですよ。
俺がラップをやっていると知った相手の反応も、昔とは全然違う。MCバトルが普及したことで、「頭の回転が早いんだね」って言われることが増えたんです。
──昔だったら「チェケラッチョでしょ」みたいな反応もあったわけですよね。
晋平太 もちろん、今でも誤解はありますよ。MCバトルを単なる悪口の言い合いだと捉えている人もいるとは思います。
でも、ビートに乗せて相手へのアンサーを瞬時に返すっていうフリースタイルの技術って、言語的にも音楽的にも高度なものなんだという目で見てくれる人も増えた。つまり、ラッパーの価値を理解してくれる人が増えたということですよね。
それは、世間のラップへの見方が変わった証だと思う。その変化は、認知度が上がらなかったら起きてなかったですよ。
「他人に価値を認められなくてもやり抜くのがヒップホップだ」という見方も理解できます。でも、全人生をかけて活動しているプレイヤーにそれなりの価値がつくっていうことも必要だと思うんです。
──ヒップホップを広げる一環として、晋平太さんはラッパーの中ではかなり早い段階でYouTuberスタイルでの動画投稿を始められましたね。
晋平太 最初は、制作チームの若い子たちが「YouTubeをやりましょう」と声をかけてくれたんですよ。当時、俺はMCバトルにもあまり出ていなかったし、今後どう活動していこうか悩んでいた時期でもあったので、やってみるかと。
──当初、YouTubeを始めたことをバトルで攻撃されている場面も見受けられました。ネガティブな反応もあったんですか?
晋平太 バッドなリアクションはもちろんあったんじゃないですかね。もしかしたら本来はラッパーがやる必要のない活動なのかもしれないですし。
あとは、何か新しいことを始めると叩く人がいるじゃないですか。そういう懐古主義的な気質はヒップホップのファンには一定程度あるし、そういう人の癪に障ったかもしれない。
ただ、邪魔されたり、怒られたりとかはないですね。俺はもともと「そんなのヒップホップじゃねえ」と言われ続けてきたので、そういうdisはありましたけど。
──ラップという表現はどんどん広がっています。晋平太さんもYouTubeで取り上げていましたが、アニメ動画「ジジイどうしのだいぶ見てられないラップバトル」など、いわゆるヒップホップの文脈を外れたラップの動画も増えていますよね。
晋平太 あれは最高っすよね。大好きです(笑)。
──一方で、Repezen Foxxがタイの大型ヒップホップフェス「Rolling Loud」に出演することが物議を呼びました。「Repezen Foxxはヒップホップなのか?」と。彼ら自身はラップが好きで、晋平太さんも審査員として参加された「炎上万博-斬- 」ではMCバトルを取り入れるといった試みもされていましたが、MCバトルとしてはなかなか厳しかった側面もあったように思いました。
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