「インターネットのおもちゃ」としてのVTuber からかいを誘う“おもちゃ的労働”の魔力
2024.07.27
後のブームの始点になったバーチャルYouTuber・キズナアイ。
再始動の兆しを見せる彼女。そして、ボイスモデルである春日望は、いま何を語るのか。
クリエイター
この記事の制作者たち
バーチャルYouTuber(VTuber)は「影の立役者」によって成り立っている。名前を知られることのないファンも存在としては大きい。しかし、名前の出ないスタッフ、演者たちは、まさに業界を裏で支える影の存在として、どこかに居続けている。
その必要不可欠な存在の中で、とても大きな貢献をしているのにも関わらず、表に出ることを本当は望んでいなかった人物がいる。それは、バーチャルYouTuberのパイオニア・キズナアイさんのボイスモデル、春日望さんである。
2020年、とあることをきっかけにキズナアイさんに携わっていることを正式に発表。2022年にキズナアイさんはスリープ(無期限活動休止)をしており、先日から謎の生配信を行っている。
春日望さんはあの頃何を考え感じていたのか? キズナアイプロジェクトにどのように携わってきたのか? そして今、どんな夢を思い描いているのか?
独占インタビューを前後編で公開。
目次
- 半年の家出を経て始まった声優への道
- 世界初? ボイスモデルオーディション秘話
- キズナアイと春日望 仮想との境界線
- 「ボイスモデル」発表への抵抗感
- 分人騒動は「なるべくしてなった」
- ボイスモデルから見た現在の「VTuberというキャリア」
- アイちゃんはアイちゃん、私は私──今だから整理できた気持ち
──まず春日さんご自身についておうかがいします。声優になりたいと思ったキッカケはなんだったのでしょうか?
春日望(以下、春日) 実は特に声優を目指していたわけではなかったんですよね。もともとアニメとかVOCALOIDとか、サブカルが好きだったんですが、私は家庭環境があまり良くなかったので、上京する必要のある職業を目指すのは難しかったんです。だから5歳くらいからずっと「子供好きだし保育士になろう」と思ってたんです。
ただ、短期間、障害を持っている子のデイサービスのアルバイトをした時に、一人でたくさんの子供たちの面倒をみるのって、大変だなと感じて。
(子供たちには)やっぱりずっとニコニコしてあげたかったし「これを職業にすると、子供のことを嫌いになるかも」とも思って、保育士を目指すのを辞めたんです。
──なるほど。
春日 その後、家庭のことで限界がきてしまって……。それまでは大人になれば抜け出せると思って将来に希望を持つことでなんとか踏ん張れていたのが、このままだとお先真っ暗確定って感じだったので、高校3年生のときにガッツリ半年ぐらい家出をしたんです。でも途中でスマホを無くしてしまって(笑)。
未成年だったので新規契約の同意だけしてくださいって頭下げに家に戻ったときに、母と和解をして「もうすぐ20歳になるんだし、 何も支援できないけど、自分のしたいことを気にせずにしたら」って言ってもらったんです。
それで、若いうちに「今やった方がいいこと」からしていこうって思ったとき、小さい頃からずっと歌が好きだったので、歌を歌うお仕事がしたいと考えたんです。
でも、いろいろな歌手の方について調べると、当時は大体10代でオーディションや事務所所属のようなキャリアの入口に立ってる人が多かったんですよ。
私はただ周りにカラオケが上手いと言われるぐらいで、今から歌手を目指すのはきついなと思いました。そんな中で声優さんについて調べたら、当時の声優さんは、24歳くらいまでに事務所に入っていればチャンスがあるイメージでした。そしてお歌を歌ったり、生放送に出たり、ライブやイベントも盛んになっていて、ちょこちょこテレビに出始めていた時期だったんですよね。
──そういうタレントのようなことも、すでに声優さんがやっている時代だったんですね。
春日 そうなんですよ。なので、「そこからだったらいけるかも」みたいな感じで(笑)。
そういうことを思っていたタイミングに、当時の事務所が養成所の1期生を募集していました。私は『ラブライブ!』が大好きだったんですけど、そこにはちょうど久保ユリカさん(小泉花陽 役)が新しく移籍されていて、それなら事務所もちゃんとしてそうだし「1期生美味しいな」って。
(オーディションに応募しようと思った時には)締め切り2日前とかだったんですけど、ノリでぱっぱっぱって提出した感じですかね。逆にもうちょっと期間があったら、私はやらなかったかもしれないです。だから、ずっと声優を目指したわけではなくて、成り行きみたいな感じでした。
──キズナアイさんの企画が動き出すのは、そこから何年後なんですか?
春日 私が声優の養成所に入ったのが2015年くらいで、そこから2年目の時にキズナアイちゃんのボイスモデルのオーディションの話をいただいたと思います。
養成所に入った時から結構オーディションに呼んでいただいていたんですが、演技をしたいわけじゃなかったので、ちょっと恥ずかしい話、あまり頑張れなくて。チャンスをいただいた割に真摯に向き合えず、オーディションを落としていたんです。そんな中、同じ作品のオーディションを受けた養成所の同期が受かったりして、これはやばいとようやく危機感を持った時期にいただいたオーディションのひとつでした。
──オーディションの段階では、どのように企画をいただいたのでしょうか?
春日 そうですね、名前と「こういう感じの子です」みたいな概要は知ってました。
本当ならアイちゃんの見た目も確認できるはずだったんですけど、私はなぜか(キャラクターの見た目の資料を)もらえていませんでした。
──なんと、そんなことが……。
春日 審査方法も、他のオーディションと違いました。普通の声優のオーディションってセリフがあって、「演技をしてください」みたいな感じですけど、何か好きなものについてキャラクターになりきって伝えてださいって言われたんですよね。確かにセリフはちょこっとあったんですけど、本当にちょこっとで。
多分、演技の審査だったら、私は落ちた自信があるんですけど、好きなものを語るときの自分の声質と話した内容がウケて選んでいただいたんです。
その後、最終候補が私ともう一人いたと聞きました。僅差で私を選んでくださって、スタッフさんが「この子にしようと思うんですど...」と当時企画に協力してくれていた偉い人に持っていったら資料をちょっと見ただけで「この子いいじゃん」って決めたらしいです。「なぜだったんですか?」って後日聞いたら、アイちゃんと私、偉い人の誕生日が一緒だったからっていう。
──え、本当ですか? 春日さんありきの設定ではなかったというわけですか……?
春日 本当にそうです(笑)。森倉円先生にキャラクターデザインを描いてもらって、声の元となる人を探すオーディションなので、キズナアイちゃんのプロフィールに私は関係ないんですよね。もちろん偉い人にも関係ありません(笑)。
たまたま、スリーサイズや身長も近くて。私も後からキズナアイちゃんのプロフィールを見て「わ~すごい、誕生日も一緒だし~」みたいな感じで驚きました。
本当にいろいろと偶然が積み重なったんですよね。アニメを見ていても「この子、別のキャラクターやってた人だ」と思うじゃないですか。オーディションを企画した人はそれは望ましくないと考えて、あまりまだ世に出てない人が良かったっていうのもあったみたいです。
だからもしかしたら、私が声優としてのレッスンを一生懸命頑張って演技が超うまくて、他の作品への出演が決まっていたら、オーディションのお話をもらえてなかったと思うんです。本当にたまたまですね。
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